第570話 罰。
「…………」
『もっとちゃんと教えられていれば、あの二人が困る事も無かったよね……』と、少々自責の念を抱いているエアの姿に、思わず私は心が『ウルウル』としてくるのが自分でも分かった。
心の中でまた何かが零れそうになっている。……どうしよう。ままならない。
どう言葉に言い表したらいいのか、またも分からなくなってしまった。
「…………」
──ただ、間違いなく私はその瞬間、エアの事を誇りに想っていたとは思う。
今までに何度も何度も思ってきた事かも知れないが……それでもまた、その都度私は何度だってそう思うのだろう。
……彼女は本当に素敵なのだ。
エアには私に無いものがあると、はっきりわかる。
それを感じれば感じる程に、胸の中には熱が溢れて来るようだ。
私には出来ない事を平然とやってのける彼女を、尊敬する。
一人の魔法使いとして、また冒険者として、彼女と肩を並べられる事を光栄に思うばかりであった。
「…………」
……うむ、今更だが『闇』があろうが無かろうが、そんな事は大した問題ではないのだ。
エアの数多の長所と比べれば、霞んで消えてしまう位の些細な問題である。
もしもエアに『闇』があったとしても──ほら、こんなにもエアは愛らしい。
私の心が素直にそう告げている……。鼓動の音までそれを鳴らしているかの様だ……。
……まあ、正直な話、今は何が言いたいのかあまり自分でもよく分かっていない。
ただ、そんなにも誇らしいエアの事を、改めて私は肯定していきたいと思ったのだった……。
「…………」
……それに、『彼らに魔法を教えた事』を挙げるのであれば、それは私も一緒なのだ。
あの頃は、私もいっぱいいっぱいで、子供の姿にしか自分の身体も構成できなくて、エアには沢山の負担をかけた。
だがそんな中でもエアは、出来る事を精一杯やって、『修道女』に『浄化』をちゃんと教えていた様に思う。
……それを誰が責められようか。
もしもそんな者がいたとしたら、私が一瞬で『プチュン』と『潰す』心積もりである……。
だから、少なくとも私はエアの抱えた『罪』を『罪』だとは思わなかった。
……ただ、当然それは私の想いなので、エアにはエアの想いがあり、感じ方がある事を理解はしている。
なので、もしもエアがあれを『罪』だと思い、『罰』を受ける事が必要だと思うのであれば、その時はその気持ちを尊重したいと私は思った。
そして、私達は『ずっと一緒にいる』訳なのだから、当然私もその『罰』を受けようと思うのだ。
……これは理屈ではなく、感情の問題だった。
『魔力生成』も中断している状況なので、今ならば私も普通に教える余裕があるし、あの頃とは違って確りと『浄化』の魔法を教える手伝いも出来るだろう。……私も力になりたいと思うのだった。
「…………」
──ただ、私の唯一の懸念材料として残るのは、やはり必要以上に『エアが気にし過ぎなければいいな』とは思ってしまうのだった。
勿論、エアが今からやろうとしている事は思いやりがあり、大変に良き行いだとは思うのだが──その結果がまだどう転ぶのかがわからない以上、エアにはあまりそれに深入りして捉われ過ぎずにいて欲しいと思うのである。
──要は、『傭兵』のように無理はして欲しくなかった。
……と言うのも、私の経験上『無理を承知で積み重ねてきた結果の先』にはいつも、『逃れられぬ不幸が伴う事』を嫌と言うほどに思い知ってきたからである。
「…………」
……現に、私達が『聖女』が待つ都へと到着すると、そこでは既に『数多の異形達』に完全に周囲を取り囲まれてしまっている都の姿が見えたのだった──。
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