第569話 罪。
エアから『傭兵と修道女』と聞いて、私も二人の事を思い出した。
……ただ、彼らは確か『自分達の傭兵団』を作る為に旅立った筈。
だから、彼らの事を忘れていたと言う訳ではないのだけれども、『聖女』と聞いても私はそれが『修道女』の事だとは直ぐに結び付けることが出来なかったのだ。
そこで私はエアにどうして『聖女』の正体が『修道女』だと思ったのか、その理由を聞いてみる事にしたのである……。
──すると、エア本人もそれは状況的な判断でしかない為に、確定ではないと前置きしたのだが……きっかけは『言祝の里』に『王子達』が居た事だと言うのであった……。
「そもそもね。あの人達がわたし達の事を事前に知っていたのだとしたら、『誰に』聞いてこの場所まで来たんだろうって最初に思ったのっ」
「…………」
……ふむ、確かに。それはそうだ。
幾らこの『里』が、『剣舞士の発祥の地』として注目されていたり、今では舞台まで出来ていたりして劇なども有名になっているからと言っても、それだけでどこぞの一国の王子が態々足を運ぶ理由に足り得るかと言われれば……確かに理由としては弱そうに思える。
もしも私たちの足取りを追う事だけが理由であれば、それこそ兵士にその役割を命じればいいだけの話だ。居るか居ないかもわからない私たちの捜索に、王子本人が来る事は普通ならば有り得ないと考えるのが道理だろう……。
「…………」
……だが、それがもしも、例えばの話で『王子が聖女の願いを叶えたいから……』とかになれば、話はまた変わってくるのではないだろうかと、エアは言うのである。
それこそ、わたし達と『エルフの青年達』の関係が深い事を知っている『白銀の館』の関係者であれば尚更に、余所を探すよりはこの『里』に私たちが訪れる可能性が高い事を予想できる筈だと。
今では『白銀の館』の方には誰も居ない事は調べれば直ぐに分かる事でもある。
ならば尚の事、この『里』に来る意味がある……いや、この『里』にしか繋がりが無いのだと。
だから、それを考えれば『聖女』本人が『白銀の館』で一時期なりとも暮らしていたことがあると考えるのも分かる話で──そして実際に『聖女』に当たる人物が誰かと考えた時に、『修道女』の顔が一番最初にエアは頭に浮かんだのだと言う。
「……それにわたし、思ったんだけど。きっと今回の事って例の『神人達と神々の争い』も関係しているんじゃないかと思ったんだ──」
──と言うのも、そんな風にエアが懸念したのは、今では到る所で問題となっている『異形と化した神兵達』だが、恐らく彼らが居るであろう国でも影響を及ぼしている筈であると。
ならば、『高度なマテリアル制御法』を駆使して戦う『傭兵』と、そんな彼を支える『修道女』がいる傭兵団はきっとその国で活躍しているのではないかと。
それこそ、『浄化教会』では受け入れられ難い『マテリアル』を主軸とした戦い方を受け入れられる国においては、その『力』は戦力的にも宗教的にも重要なものとして周りから見られるのではないだろうかと。
……正直、それらはエアの想像でしかないと言う話ではあったが、あの『力』を自在に使いこなす存在がいたのだとすれば、それに目を付けない国がいない筈がないと言うその考え方は、私にも凄く納得ができてしまったのだった。
それこそ『聖女』として祭り上げられる事なども朝飯前だろうし、その『力』によって実際に国を守っている事までは容易に想像できてしまうのだと……。
「…………」
……ただ、それを考えた時に、どうしても『マテリアル』と言う『力』は使用者に無理を強いてしまうものである事を同時に忘れてはならない。
ある程度、日常生活に活かす位ならば問題はないだろうが、それ以上を望むとなればどうしてもその『増幅』と言う技は、『痛み』も一緒に『増幅』してしまうのだと。
その『力』は使用者の身体を簡単に蝕んでしまう『諸刃の剣』なのである。
……それこそ『制御能力』を高めた凄腕の『傭兵』だとしてもいずれは限界が来るのは避けられない話だ。
彼だけの為の『聖女』が幾ら献身的に癒やしと浄化を施そうとも、その身体を蝕む事を抑えきるのは厳しくなるのは目に見えている。
敵が多ければ多い程、敵が強ければ強い程、『傭兵』は傷ついていくだろう……。
だが、例え傷ついたとしても、敵が来るのであれば、その『力』を使わない訳にはいかない。
そして、その無理はどんどんと積み重なっていく……。
そうなれば当然、『破綻』はそう遠い話ではなくなるのである。
「…………」
「──だから、助けに行こうって思った。……それに、今ならばもっと他にも伝えられる事があるんじゃないかって……」
……そもそも、『修道女』が習得した『浄化の力』は『淀みを抑える力』だった。
それによって、『傭兵』の『マテリアルの制御能力』と合わせて、二人で一人前と呼べるくらいの効果を生み出していたのである。
だが、あの頃はそれが精一杯だったからそうするしかなかったけれども、今ならばその『浄化の力』も『淀みを消す力』へと昇格できるのではないかと、エアはそう考えたのだそうだ。
……きっと今ならば伝えられる事が他にある。力になれる事がまだある筈だと。
それこそ、『誰かに何かを教えた者の責任』として、中途半端な魔法を授ける事しか出来なかった『師』としての『罪』を償う為に……エアは『罰』を受けにいくのだと語ったのであった──。
「…………」
……エア。
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