第566話 使嗾。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
『──断ります』
……と、そう微笑みながら告げたエアに対して、『王子の護衛達』はまるで『反抗してくれる事を期待していた』と言わんばかりの表情をしていた。逆にそうして断ってくれた方が都合がいいと言いたげである。
『……なに?断るのか?それでは更に罪を重ねる事になってしまうぞ?ここは大人しく身柄を拘束されて連行されるべきだと思うがな』と。
『あなた方は既にギルドだけではなく、この国の法においても罪を犯している状態なのです。更にはご存じなかったかもしれませんが、他国の教皇のお孫さんである方にまで被害を与えたのですから、それ相応の罪を償う必要があります』と。
──彼らはそんな想定していたであろう言葉をスラスラと述べて来た。
……それが彼らの言い分であるらしい。
だが、当然の様にそれに対して私達は一切動じる事などなかった。
と言うか、動じる前に隣にいるエアが『ワクワク』している雰囲気である方に気がいってしまう。
「…………」
『冒険者と国との衝突話』は昔からちょくちょくと起こる出来事であり、有名な逸話もこれまで色々とエアに語って来た事もあったから……言わば、この状況はエアの待ち構えていたものでもあるのだろう。
『好物なお話』と似た展開が来た事で『しめしめ』と思っている節を感じる。
だから、その『ワクワク』は『上手く対応するぞっ!』という気持ちの表れなのだろうと私は思うのだった。
この状況に対応するだけの『力』は十分エアに備わっているとは思うので、私も比較的安心しては見ていられる。心配はあまりしてはいない。
例えもし彼らの国と争う事になろうともエアならばきっと上手くやるだろう。
だから、今回の事は全てエアの好きにして良いと、私はそう思うのであった……。
「…………」
実際、私と同様に一切動じる事もなく、浮かべた微笑みは全く陰る事もないままで居るエアに対して、逆に目の前の彼らの方こそ段々と怪訝な表情を浮かべてきた。
その上更に彼らの先の問いに対しても『──再度告げますけど、お断りしますっ』とエアはハキハキ告げて、その言葉に彼らはより苛立つ様子を見せ始める。
ただ、その雰囲気はまるで『馬鹿にしているのか!』と怒ると言うよりかは、『威圧した筈なのに、一切威圧が通じていない時の野生動物』とどこか似た雰囲気を感じてしまうのだ。
『なぜ動じないんだっ!こっちは強いんだぞ!分かってないのか!恐ろしくないのか!大人しく従えっ!がおー!』と、言葉で例えるならばそんな幼稚な焦燥を抱いているかの様に見える。
なので私達からすれば、そんな彼らに対して何一つ動じる必要を感じなかったのだ……。
『……いいのですか?これを断れば、貴方方は指名手配される事にもなるでしょう。どれだけ逃げようとも必ずや力尽くで捉えられ、酷い罰を受ける事にもなります──』と、大層仰々しそうな表情で、さも恐ろしげな事実を告げようと彼らは尚も語り掛けて来るが……。
「──三度告げますけど、ぜーんぶっ、お断りですっ!わたし達は全く気にしませんし、あなた達に従うつもりは全くありませんっ!力尽くで来るならばいつでもどうぞっ!」
……と、エアがそうして余裕の笑みをもって答えると、彼らは目を見開いて驚きを顕わにしてしまうのであった。
『言葉も威圧も全く問題がない』とするエアのその様子に、彼らがもう飲まれているのが見て取れる。
逆に、『もしもあなた達が『力』でわたし達を害するつもりならば、私達はそれより大きな『力』をもってあなた達を撃退するだけですよ。……襲い掛かって来るのはご自由にどうぞ。ただ、反撃される事もちゃんと知っておいてくださいねっ』と、エアの表情はそう物語っているかの様だ。
彼らからすると、『国と言う後ろ盾があればわたし達も従う筈だろう』と言う思惑があったのかもしれないが、そうならずに困惑しているのがよく分かる。
『……いったいお前らは、なにを考えている?』
『あなた方は、本気で国を相手にして勝てると思っているのですか?』
──と、彼らからは思わずそんな言葉も零れてきて……。
……それに対してエアは、まるで花が『パッ』と咲き誇るかのように微笑むと、ただ一言こう返したのだった──
『──はいっ!勝てますよ!余裕ですねっ!』と。
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