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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第565話 秩序。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。



 『郷に入っては郷に従え』


 『国に入ってはその国の法に従え』


 『組織に入ってはその組織の秩序に従え』


 『冒険者ならば冒険者のルールに従え──』



 それは賢い考え方の一つであり、ある意味ではとても楽な生き方の一つでもある。

 少なくとも『人と人』の間において、それはとても自然な関係性にも思えるだろう。


 同じ社会の中に居る者同士がそれを守り活用する限りは凄く有効的な処世術であるのだと。



「…………」



 ……ただ、それにも当然の様に限界はあるのだ。

 全ての事柄において適用させるには流石に無理があるし、具体例で言えば私の様な『昔気質な冒険者』においては、いきなり変化した今の時代の秩序に慣れるのもまた適応するのが難い話でもあると言えた。



 ただ、そもそも『従う』と言うのは難しい事でもあると私は思う。

 当たり前だと感じる者達には普通な事なのかもしれないが……慣れない者達にはそれはとても異質な行いなのである。



 私と言う冒険者からしてもそれは、強い不快感と違和感を感じずにはいられない秩序であった。

 ……もっと噛み砕いて言うのであれば、ガチガチに固められたルールは『冒険者には似合わない』と思えてならないのである。



「…………」



 ──と言うのもこれは、私も含め昔の冒険者達が誰かに『従う』よりも『肩を並べる』事に拘っていたからかもしれない。その影響もなくはないと思えた。



 誰かを従わせ、誰かに従うではなく、それぞれがそれぞれの冒険を自由にしていたから。


 私達は、当時の冒険者達とは、そう言うどうしようもない生き物だったのである。



 ……だから、それを無理矢理、既存のルールの中に当てはめようとすれば、自然と歪がある様に思えてならなかったのだ。少なくとも、何らかの無理を強いている様にしか感じられなかったのである。



 それは、今の時代の冒険者としてある程度活動していれば慣れて来るものかとも思ったのだが……やはり、未だどうにも慣れはしない秩序なのだった。



「…………」



 それに、冒険者の言う『分を弁える』と言うのも、本来は『枷や制限』を与える事ではないのである。それなのに、今の時代はそれを少々勘違いしている気もするのであった。



 本来『分を弁える』という言葉は、『在るがままに、君は君らしく生きろ』と言っているだけなのに……。


 『身の程を弁えたら縮こまれ、大人しくして居ろ、黙って従え』と言う意味ではなく。


 『心も身体も、自分らしさのまま伸び伸びと歩きだしなさい』と言っているだけなのである。


 その違いはあまりにも大きいと私は思った……。



「…………」



 ただ、今の時代の『ランク制度』があるならばそれに従うべきだとする考え方と、その有効性もある程度は理解ができなくもなかった。



 だが、それがもうある意味ではただの『枷』にしかなっていない気もするのである。



 『民衆の理解を得る為にも、冒険者には色を与える事で分かりやすくする』

 『権力者からしても、冒険者に色を与える事で『力』の制御と管理をし易くしている』



 そんな思惑ばかりが透けて見えてしまうのだ。


 『都合のいい戦力』であるという側面でしか『冒険者』は見られていない気がしてならない。



 ……だから私は、それを感じると『違うだろう』と思わず言いたくなってしまうのである。



 枠にはまっただけの考え方に『従う』事は、冒険者の本質を損なっている気がしてならない。


 言い方を変えるならば、『力』の扱い方を凄く誤っていると感じてしまう。



 ……だから私達はそこに歪を感じずにはいられなかったのだ。



 私の素直な感覚からすると、『冒険者に好きに冒険をさせない理由』が、理解できないという話でもあった。



「…………」



 ちょっとだけ小難しい話に聞こえてしまったかもしれないが──。


 要は、『ランク制度』と言うものの必要性が本当に要るのかな?と、そう思えてしまう時があるという話だ。



 『それが無くとも冒険者は冒険者なのだ』と。

 『どんなランクだっていいじゃないか』と。

 『大事なのも分かるが、そもそもの冒険者としての力を上げる事の方が大事じゃないか』と。


 『ランクと力が見合っていないのだ』と。



 まるで、『運動が苦手な者に運動をしろ』と言っているかのようだ。

 それか、『勉学が苦手な者に、頭を働かせろ』と強いているかのようにも思える……。



 当然、そんな事をして生み出される『利』など酷く歪なものだ。

 それで得られる『力』なども高が知れている。

 ……そんなことは分かりきった話。



 だがしかし、それが分かり切っていて尚も、その愚を態々と行わせている様に見えてしまってならないのである。……それの意味が私には本当に分からなかった。



 それが『秩序か?』と。

 安易に受け入れていいのかと。



 もしそれを『秩序』だと言いきってしまうのならば、それはあまりに愚かが過ぎる話だ。

 だが、もしもそれが愚かだと分かり切った上でやっているのならば、そんな秩序はない方がいいと私は思ってしまうのである。



 ……やればやるだけ損をする状況だ。

 ならば、やらない方がいいだろうと考えるのは凄く自然な事だろう。


 何も『利』がないと分かっているのならば、それは早めに切るべきなのである。

 いつまでも固執するべきではないのだ……。



「…………」



 ……だが、それが分かりきっていても尚、切り離せない存在が居る事もまた私はこれまでの人生で見知って来た。


 『歪だと知りながらも、歪である事を許容し、良しとする考え方』。

 『その方が都合がいいから』という、ただそれだけで受け入れる事が出来る者もいるのである。


 そもそも、何かに『従う』事自体が歪な行いであると、もう既に気づけなくなっている者も居るのかもしれない。




 それが『秩序であるならば仕方がないのだ』と。

 ……本当は、仕方がなくなんてないのにも関わらずだ。


 納得するべきではない事でも、『それがルールであるならば』と。

 『誤った処世術』を続けている事も沢山あるのだ。



 本当は『人』という曖昧な存在に『ピッタリ』と嵌まる『枷も制限』も在りはしないのに。


 例え、もしあったとしても、それは誰しもに使える枷ではないのに。


 従わせるに足る器と、従うに足る器、時にはそれが上手く嚙み合う事もあるだろうが。

 多くの場合においては、そうならず不和が生まれる事の方が多いのではないだろうか。



 ……どちらかが傷つくか、どちらも傷つくか。そんな関係性ばかりだ。



 だからこそ、歪が生まれてしまう。

 そして、その歪があるにも関わらず、無理に万人に当てはめようとするから、『秩序は崩れる』のだ。


 それぞれの形に相応しい関係を見つければいいのにそれをしないばかりに。

 程々で良いのに、近づき過ぎた事で痛い目を見る事もあるだろう。


 ……そればかりか、中には力尽くでどうにかなると思って、それで──



「…………」



 ──だから、私もエアも、彼らは『力』の活かし方が下手過ぎると思ったのだ。


 万能な法などもありはしないのに。

 そもそも、そんな『秩序』に私達が『従う』訳もないのに。


 ほどほどに済ませた方がいい事があると知るべきだった。

 力尽くで押し付けるのではなく、互いにちょっとだけ支え合う位で丁度良かったのだ……。



 魔法だって『詠唱』だけではない様に。

 目の前にある法則や数式だけで全てが決まるわけも非ず。



 また既存のそれは誰かが定めただけの『秩序』でしかない。

 その曖昧な『世界』は、変えようと思えば、一瞬で変わってしまう程の儚い秩序なのだ。


 ましてやそれが『国』であったとしても、それはただ『戦力の単位』でしかないのだと。


 だから、それを決して全てだと思ってはいけないのだ。

 その『力』はいつだって、より大きな『力』に簡単に『潰されてしまう』のだと。


 また、それぞれの『領域』によって世界の仕組みは簡単に変容してしまう事も忘れてはいけないのである……。



「…………」



 魔法は、大きいものだ……。

 それこそ『差異』を超えればどこまでも広がり続けるものである。

 気づこうと思う事で、もっと些細な事にまで気付ける様になるのだ。



 そして、その為の術は何も一つだけではない。魔法だけでもない。

 道は一つではないのである。


 それこそ『剣』でも、『槍』でも、『処世術』でも、その他のなんでもいい。

 見つける為の方法はいくらでもある。誰もが感じる範囲にある。



 『剣』が武器として誰かを傷つける為だけのものではない様に。

 舞う事で誰かを楽しませる事だって出来る様に……。



「…………」



 ──少々、話が脱線してしまったかもしれないが……。



 要は、『力の使い方を誤るな』と私達は彼らに言いたかった。


 そして、私達がどうあるべきかは私達が決める事であり、『お前達が勝手に決めつけ強要するんじゃないぞ』と──




 『──ですから、貴方方は冒険者のルールから逸れる行動をとった為に、罰を負う必要があります。更には『ギルドマスター』や『金石冒険者』に対してもあなた方は卑劣な罠に嵌め、一方的な暴行を加えました。その事に対する罪においてもまた罰を受けねばなりません。それがこの国における法ですので、あなた方はこのまま犯罪者として連行させていただく事になります。……ですから一緒に来ていただけますね?素直に従って貰えるのであれば、今の内ならばまだ罰則も少なくて済みますし、あなた方にとってもこれは良い話で……』




 ──そうして、冒険者ギルドを出た私達に対して、仲間を引き連れて来た『王子の護衛達』は、『冒険者のルール』破った事、それから『国の秩序』を乱した事、その二つを罪として私とエアに対しそんな風な事を告げて来たのであった。



 ただ、そんな彼らの視線の先には『エア』がおり、私はそのついでである事は間違いないと感じたのである。彼らの目的が最初からどこにあるのかなど透けて見えるかのようだった。



 私にはそれが、『彼らの秩序』を用いた『彼らなりの攻撃』だと感じられたのである。

 相手側からすると、使える『力』を使っただけなのかもしれない。


 ……だが、その扱いは凄く歪に感じたのだ。

 そして、無理があるからこそ、気持ち悪さも浮かんでいた。



 相手側からすると、彼らが定めた法の下──その絶対なる『秩序』の下に、『私達を従わせたい』のだろうが──



「──断ります」



 ──当然、それは私達には受け入れられるものではなく……エアもまた冷たさを感じる程に美しい微笑みを浮かべたまま、そんな風に彼らへとハッキリと拒絶を告げたのであった。




またのお越しをお待ちしております。

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