第563話 半端。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
突発的に始まったギルド内での戦い。
これもまた『模擬戦』と言えば聞こえはいいが、実質それは冒険者達に対するエア流の『潰し』であった。
冒険者として肩を並べるに足る『力』を持っているのか否か、それをハッキリと突きつける。
それこそ相手の心を折る位の勢いで何度も何度も戦いは繰り返されたのだ。
……そして、その全てにおいてエアは無傷での勝利を収めたのである。
「──ま、まあ、わたしもちょっとやり過ぎたとは思うけどっ、何も泣かなくても……」
『……うぐっ、うっ……うぅ……くそ……』
──そしてその結果、ギルド内の訓練場には大の男達が蹲り、揃って泣き崩れてしまうという異質な光景が広がっていた。
エアは彼らを徹底的に潰してしまったらしい。
それも最初から、エアは彼らに『魔法使い』としての本気の差を突き付けていた。
……私がよくやる拘束の魔法も見倣ったのか、全員を【浮遊】させるか、魔力による力押しで無理矢理相手の動きを一瞬で固めてしまったのだ。
高位冒険者達の中には魔力の扱いに長ける者もおり、咄嗟にエアの【浮遊】に対処が出来た者も居たけれども、そもそもの魔力量の差による力押しまでは防ぎきれず、結果的にはそれだけで冒険者達は全員身動きが取れなくなってしまっていた。圧倒的である。
……正直そうなってしまえば後はもう誰が見ても煮るなり焼くなり完全にエアの自由であった。
中には拘束された後も反撃で魔法を撃とうとしたり、肉体能力で無理矢理に拘束の魔法を外そうと試みていた者もいたが、そんな者達は皆エアのビンタ一発か腹部へのパンチ一撃を受けると途端に気を失うか痛みで悶え苦しんで戦闘不能へと陥ってしまったのである。
「…………」
……ただ、そうして『魔法使い』としての差を突きつけると今度は、エアは冒険者達に対してすぐさま回復を施すと次に『魔法なし』での戦闘を彼らに要求し襲い掛かったのだ。
『弱いから手加減はしてあげるねっ』と、微笑み交じりに告げられた高位冒険者達は、既にそこからもう心を砕かれていたとは思う……。
そして、エアは武器を持たぬまま、元々の肉体強度のみでも彼らを圧倒し『魔法なし』においても完膚なきまでに彼らを叩き潰したのだった。
それも、その戦いの最中エアは常に彼らに語り続けたのだ──。
『あなた達の全てを否定したいわけではないけど──気に食わないのだ』と。
『組織や社会を大事に想う気持ちは分かるし、それを壊したいわけでもない。──だがこれは、先にそちらがこちらへと押し付けて来た事の結果だ』と。
『こちらはただ、放っておいて欲しいと何度も告げた筈だろう……』と。
『それなのに、こちらへとずけずけと踏み込んで来たのは貴方達の方だ』と。
『それに、人を助ける事を当たり前だなどと軽々しくも口にしてくれるな』と。
『それを為す事がどれほど大変か。それを求めるのであれば、その為にはどれほどの『力』が必要になるのか、もっとよく知ってから口にするべきだろう』と。
『己の身すらも満足に守れない者が、それを雰囲気だけで語るには烏滸がましいにも程がある』と。
『当然、それを求める事自体は良い事だが、それに見合うだけの実力が貴方達には全く足りていない』と。
全てを否定したいわけではないと語りながら、エアは何度も何度も彼らの身体を回復させては『潰し』を繰り返していた。
……当然の様に、途中で逃げ出したくなったのか『もうやめて欲しい』と懇願してきた者でさえも構わず、容赦なくである。
『強敵が現れた時にもそうして命乞いをして逃げ出すのか?』と。
『そんな言葉で、目の前の脅威が見逃すと思うのか?』と。
『冒険者は最後まで足掻き続ける者だろう』と。
『逃げるとしても、その為には全力を尽くせ』と。
『そんな状態で誰を守れるのだ』と。
『口だけ調子の良い事を言っているだけでは、命を落とすだけだぞ』と。
……『潰される側』としては、今まで一生懸命やってきた事と信じてきたものを『不足している』と告げられ、突きつけられる事はとても辛い事である。
だが、『その先にこそ道はあるのだ』と、エアは彼らに語り続けて事実を突きつけ続けたのだ。
『金石なんかで満足しているのか?』と。
『そこが終着点ではないだろう?』と。
『そこは始まりに過ぎず、そんなもので中途半端な自己陶酔に浸る位なら、そんな小さなプライドは必要ないのだ』と。
──『ただただ前へ、もっともっと先へと、歩き続けろ』と、エアは語り続けた。
「…………」
「…………」
……すると、そうしたエアの言葉とその実力、そして見ている物の違いと大きさを感じて、次第に高位冒険者達は一人また一人と瞳を潤ませては膝から崩れていったのだ。
彼らはきっと、エアの『強さ』を痛い程に感じたと思う……。
そしてその『力』を得る為に、彼女がどれほどまでに積み重ねてきたのかもだ。
「…………」
エアが彼らに見せたのは、単なる『強さ』だけではなかった。
なにしろそれは、彼女がこれまで歩んで来た『道の一部』でもあったからだ。
そして、エアはこれからもその道を歩み続けるという『決意そのもの』を彼らに魅せたのである。
それは彼らからするとあまりにも大きく、あまりにも違って見えた事だろう……。
蹲った彼らは己の『甘さ』を感じ、心折られている様に見えた。
「…………」
……ただ、そんな彼ら見ていて私が思うのは、『勘違いはして欲しくない』と言う事であった。
と言うのも、先ほどからエアも言っている通り──
エアは『彼らを泣かせたい訳でも、全てを否定したい訳でもない』のである。
……なので、要はほどほどにこちらの事も理解して欲しいという、ただそれだけの話であった。
『そっちの話も分かるけど、こっちにも事情があるのだから察してくれ』と。
だが、それが上手く彼らには伝わっていない様子なので……今のエアの気持ちがなんとなくだが私には理解出来てしまうのである。
そもそも、単純に彼らが自分達の考えを押し付けて来たから、ちょっとだけ押し返しただけの話だった。実質、エアも本気を出していた訳ではなかった。手加減も本人曰くかなりしていたのだろう。
……でも、この様な結果になってしまったのだ。予想以上に彼らの『力』が足りていない事もあって、この様な思わぬ状況になってしまっただけの話なのである。
ただ、敢えて言うならば、エア自身も少し『冒険者像』の話を持ち出されたから少しだけ熱くなってしまった部分はあるのだろう。止め時は失っていた様には思う。
……だから、今となっては大の男達が揃って泣き始めてしまったものだから、エアも少しだけ悪い事をした気になっていると言うか、冷静になって困惑している様に私には見えたのである。
元々、エアは彼らに『ランクがどうであるかよりも、冒険者として小さくまとまるな』と伝えたかっただけなのだと思う。
そして、人の事を何だかんだと言う前に、自分の事をもっと見るべきだと知って欲しかっただけなのだ。
「…………」
それがまあ『どうしてこうなってしまったんだろう……』と、今頃はエア本人も思っているのではないだろうか……。
師匠が口下手で、いつも行動でばかり示しがちだから……、そんな悪い所がエアにも移ってしまったのかもしれないと、私は密かに感じていた。
『冒険者』に関する礼節と常識は私の背中を見て育ってきたから……尚更にまあ、仕方ないとは思うのである。
だから勿論エアは悪くない。全面的に私はエアの味方であった。
──ん?なんだろう?背後からまた四精霊の冷めた視線を感じる気もするが……いや、きっと気のせいだな。振り向いてはいけないのである。
それにまあ、これでもう『ランク昇格しろ!正当な評価を受けろ!』だなんて、彼らも言ってこなくなるだろうし、結果的には平和的な解決だったのではないだろうか──と、勝手ながらもそう判断して、私達はさっさとギルドから立ち去る事にしたのであった。
「…………」
……ただ、その時の私達はまだ『人』の執念と言うものを甘く見ていたのだと、後々になって思い知らされることになるのである──。
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