第560話 揚。
「──何故っ、貴女ほどの実力がありながら『白石』のままなのですか!冒険者ランクで言えば『金石』で間違いない筈でしょう!ギルドは何を見ているんだっ……力ある者には正当なる評価と称賛を。それは報いられるべき当然の権利だっ!そんな『不当な白石』のままでは、あなたの『剣』が泣いてしまう!」
「泣かないからっ。いいのこのままでっ。それに、あなたには関係ないでしょっ?ほっといてよ」
「か、関係ないっ!?……この俺とあれだけの戦いをしておいて何を今更。関係あるに決まっているだろうっ!貴女はその『剣』で俺を圧倒したんですよ!そんな貴女が低い評価のままでいては俺まで低いと思われる!それは絶対に看過できないっ!──よし、少し待っていてください。ちょっとこの街のギルドに掛け合って話を付けてきます」
「え?……あー、行っちゃったっ……面倒な事になりそう……」
「えあちゃん!つよいからっ!」
「うん!いちばんっ!『金』の方がいいよっ!」
「んー、でもわたしは『白石』のままでいいんだけどなー。ロムと一緒だし……」
「……ティリア。この際だ、レティエとレティロの冒険者登録もここでしておいた方がいいんじゃないか?」
「……そうね。他の街なら騒ぎになりそうだけど、ここは『里』の中にあるギルドだし。良いかも知れないわね。それに、あの王子様もまだまだエアちゃんに──」
「…………」
──と、以上は『剣舞場』を出て直ぐの私達の会話の一部であった。
……まあ、状況の説明をするまでも無いとは思うが、模擬戦後、私に謝罪してきた『王子様ぽい者達』はそこで引く気はさらさらなかったらしい。
──と言うか、よりエアに対して興味を抱いたようで、付きまとい始めたのだ。
ただ、そんな彼らに対して、エアは自らが仕掛けた意識からか最後まで自分で対処するつもりであった。……先ほど視線があった時に魔力と共にそんな合図を送って来たのである。
『──この人たちの事はわたしに任せてっ』と。
……なので、私はそれをただただ見守って口出しも手出しも控えているという訳である。
因みに、双子達はそんなエアの足の両側に引っ付いており、その『ぽい者達』とエアとのやり取りを身近で見聞きして大いに学んでいるようであった。
そして、それを見守るレイオスとティリアにおいては、こっそりと『耳長族』だからこそ漸く聞こえるかどうか位の声量で何かを話し合っている。
……『またも何かを企んでいる』と言うと失礼になるかもしれないが、この目の前の夫婦は『この旅の間で出来る事は全てやろうとしている』雰囲気で、色々とまた考えているようであった。
だから、そうして残った私だけが、何もせずに皆の後姿を一番後方で眺めて居るだけ……という感じだ。
「…………」
ただ、そうして皆の歩みについて行くと、私達の足はこの『里』にある冒険者ギルドへと自然と向かっていた様で、気づけばもうその建物のすぐ目の前にまで来ていたのである。
……現状、この『言祝の里』の冒険者ギルドには近場に上位ダンジョンもあり、尚且つ『剣舞士』達の発祥の地としての影響もあるのか大いに賑わっていた。
それも、その『剣舞士の始祖五人』との繋がりからか、様々な場所から『剣闘士』達や『高位冒険者』達が交流や腕試しなどを目的としても訪れているらしく、『賑わう』と言っても少しだけ種類が異なっている様に見える。
──要は、この『里』は今、『出来る者達』が集まる場所として知られている様で『和気あいあい』とは真逆の、まるで戦場に近しい空気感が漂っていたのだった。
「──あっ」
「…………」
ギルドに一歩踏み入れると、その空気感の変化は肌にひりつくほどである。
思わずだろうがエアもそれを感じると、自然な微笑みを浮かべたのが私にも分かった。
……この独特な空気感は昔話として、かつてエアに語ったギルドの姿にとても近しいものがある。
ギルドに入って来た私達に対し、絶えず冒険者達はそれぞれが大なり小なり『警戒』をしている事も伝わって来た。
……誰もが街中であろうとも油断など一切していない事が分かる。
そして、彼らは安易に威圧する訳でも無く、高位冒険者としての存在感を自然と醸しているのだ。
これこそが『上位ダンジョン』に日夜挑んでいる『一流の冒険者達』の姿と雰囲気であり、自然とエアもそれに倣ってか、彼らに等しい雰囲気を発し始めるのであった。
その首元にある冒険者ランクを示す石の光こそ『白色』ではあるものの……エアの発するその雰囲気から只者ではない事を察した一部の者達は、自然を装いながらエアの姿を確認している。
そして、エアもまたそうした視線の一部には微笑みを返すのだった。
……それもまた、冒険者としては昔ながらの『挨拶』の一種である。
下手な言葉はいらない。ただ感じ取れればそれでいいのだ。
もし同じダンジョン内で依頼を受けるにしても、肩を並べるに相応しい相手はその空気感が勝手に教えてくれる。
互いに冒険者として相手を認め合い、尊重し合う正しい姿がそこにはあった。
「…………」
そして、そんなエアや高位冒険者達の姿と空気感を、足にくっ付いたまま一緒に感じ取っているのか、双子のレティエとレティロも少しだけ『プル、プル』とした震えを帯びているのが見て取れる。
……それは、ある種の感動に近しく、そして尊敬にも近しいと思う。
そんな空気感を最前で受けた事で、武者震いをしているのかもしれないが、普通の街中や安全な森の中では感じ取れないその独特の空気感を、二人は存分に学び感じていた。
……そして、そんな双子の様子を視て、友二人はまたも嬉しそうに微笑むのである。
「──おいお前っ!こんな場所にガキ連れで来んじゃねえっ!!」
──だがしかし、どの様な場所においても、必ずしも空気を読める者ばかりではないと言うのは世の常なのか、突然そんな野太い怒声がエアと双子達に向けて一つ、ギルド内に大きく響き渡ったのであった……。
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