第557話 野薔薇。
基本的に、私達の旅において他の冒険者達に絡まれたりする事はあまりなかったりする。
実はその手の冒険者同士のいざこざを見るのが好きだったりするエアや、好奇心旺盛な双子達からするとそんなゴタゴタが無い事は物足りなかったり、レイオスやティリアからするとそういう場合の対処法や穏便にやり過ごす為の処世術などを学ばせたかったのかもしれないが……長年の癖と言えばいいのか、私はそれらが起こりそうな前に対処してしまう事の方が多かった。
そもそも、出来るだけ『力』の秘匿をしたい。そして、悪目立ちもしたくないと思っている私からすると、なるべく厄介事は事前に退けてしまうのがやはり一番だと思ってしまうのである。
……相対した後の対処を学ぶよりも、先ずは危険に近寄らない。相手にも近寄らせない。その為の術を知るべきだと私は思う。
だから、『ん?あいつらはこちらにちょっかいをかけてきそうだな』と察すると、その相手にはちょっとだけ魔法で動けなくなってもらうか、身体を浮かせて近寄れない様に妨害したりという事をよくやっていたのだ。
そもそも『それすらも超えられぬ者の相手をするだけ時間の無駄だ』という感覚もあって、その行動はもはや私にとって至極自然な反応になっていたのである。
「…………」
それに、今は『魔力生成』もしなければいけない為に、ある程度はその地域に留まる必要もあった。……なので、何か揉め事が起こったとしても『なるべくなら移動はしたくはないなー』と言うのが心情にはある。旅は大事だけれども、基本的には優先すべきは『魔力生成』の方が若干だが上なのだと。
『魔力生成』にも慣れてきて、自然に過ごしていても双子達に絶対悪影響が及ばないと確信できるまでは、ずっと木の上から眺めているだけだった私だ。
双子達と接近しても大丈夫だと思えるようになったのも旅を始める少し前の事で、皆を守る『領域』としては尚更に危険に対しては過敏に反応してしまう状態で、近付けない事を普段よりも要徹底としていたのである。
実際、今はその反応が半自動的と言える位には成長してきているだろう──と言うか、頭で考える前にはもう反射に近しい感覚で反応がでる位にはその精度も高まってきていた。
漏れ出る『元気の芳香』なども周りには被害が広がらない様にと、身近で滞留させる調整もできる様になっていたのである。
「…………」
ただ、そんな半自動にした影響から、自然と魔法の拘束力自体は控え目にはなっていたりはする。
……これは一応、誰彼構わずに強力な魔法で拘束はしないようにとの配慮だが、それでも一般的には今の時代の『金石冒険者』と呼ばれる高位冒険者達が簡単に抜け出せない位には威力も残していた。
──だがそれも『その拘束を撥ね退けるだけの力をもつ厄介な存在』が、『言祝の里』には多く居た事だけは少々想定外だったのだ。
それに、そんな者達の方へと『エア達の方から接近していく事』など尚更想像の埒外で、正直ここまで手を焼く事になるとは思っていなかったのである……。
『……なんと可憐な人だ。だが、そんな貴女がそこの無様な剣を振るう者達と共に在る事が信じられない。もったいない──』
『はいっ?無様って誰の事を言ってるのっ?──もしかして、ロムの剣がって事じゃないよねっ?』
……と、そもそも相手はこの『里』では大変に外面が良い者達として知られていたらしく、普段はその内にある『獣』も潜ませ隠していたそうだ。
まあ、私も人の事は言えないのだが、彼らは周囲に自分達の本性を上手く悟らせなかった。そんな小狡い男達なのである。
それも、エアにしても友二人や双子達にしても、普通に『耳長族』の中でも『凄い美人さん』だと思えるほどに人を惹き付けてやまない容姿をしていた。その為、エア達とお近づきになりたいと考える者はとても多かったのである。
「…………」
でも、そんな見目の良さに惹き寄せられたとしても、普段であればそんな者達の多くは先ほど言った私の『半自動型──撃退拘束魔法』によって、こちらにちょっかいをかけたくても掛ける事が出来ない者ばかりだった筈だ。
……ただ、今回の場合『近付きたくても近付けず、簡単には話し掛けたくても話しかけられない』と言うのは、逆に丁度いい乗り越えるべき壁があると相手に認識させてしまったのか──ある意味では丁度いいスパイスにもなってしまったらしく、エア達は相手側に人を惹き付けてやまない最上の『高嶺の花』に映ってしまったのだろう。
それに、そんな者達からすれば麗しい花の傍にある私やレイオスと言う存在は極論『害虫』の様に敵視し易く──また私が拙い剣を振っていた所と、見事なエアの剣舞を見比べてしまった後ならば『……お前らには彼女達に吊りあわないから排除して当然だ』位に考え、ついつい本音で私とレイオスの事こき下ろしてしまったのも……こちらとしては面白くは無いが、頷ける話ではあった。
──因みに、レイオスは剣の腕前がかなりあるので、私の巻き添えで同レベルに見られてしまっているだけである。
「…………」
そんな相手は見た感じどこかの貴族か王族か、風貌的には王子様然とした凛々しい男性と、その護衛と見られる者達が七、八人である。
それも、『剣』に対してはかなりの技量と自信があるようで、『魔法』に関しても先の『私の拘束』を撥ね退けるだけの力量を持つ者であったからこそ、『厄介なお節介』がエア達へと向けられてしまったのだった。
彼らにある程度の『力』があるからこそエアの技量の高さも分かり、エアが見事な『力』を持つ上に麗しい花であればこそ、それを己の傍に置きたいと望み、『彼女に見合うだけの相応しい居場所へと自分達が救い出さなければ……!』みたいな、独特の極まった使命感と熱意と情欲が混ざっていた様に私には見えたのである──。
「…………」
──だがしかし、そんな彼らも今では困っている事だろう。
なにしろ、その救い出そうとした『姫役』でもあるエアの方から逆に、『ちょっと今のは聞き逃せないんだけどっ!ロムに謝ってっ!』と詰め寄って来られ、文句まで言われるとは想像もしていなかっただろうから……。
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