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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第550話 乾坤。




 『剣舞士』──それは戦う事よりも技術の研鑽と、人を魅せる事に重きをおいた剣士達である。


 世が大変な時だからこそ、誰かを喜ばせてあげたい。楽しませてあげたい。元気にしたい。


 そう思った者達が己に培った技術を活かし、人を楽しませる事に主観をおいて剣技を披露する。


 そして、その為の場として整えられたのが『剣舞場』であった。



 世の中には、戦いは野蛮だと、血や泥に塗れる姿は目にしたくないと、そう思う者達も中には多い。

 だが、そんな人達でも、まるで踊る様な美麗な剣舞を目にした時には惹き付けられる事がある。


 

 要は、剣の技術は何も戦う為だけのものではないのだと。

 人の『心』を癒し、豊かにもしてあげられるのだと。

 そんな理念に基づいて『剣舞士』達は生まれたらしい──。



「…………」



 ──そして、そんな『剣舞士』の成り立ちを聞いてきたレイオスとティリアから話を聞いた私達は感心していた。


 それも、それを為したのがこの『里』出身の五人の『耳長族(エルフ)の青年達』だと分かり、私とエアは尚更に嬉しく感じていたのである。


 彼らが元気にやれているようで心から喜ばしく思った。



 それに彼らが考えた『剣舞士』と言う在り方も個人的には好意的である。

 ……なにしろ、世の中にはどうしても私の様に、非力な者が居るのだ。


 頑張って筋肉をつけようと思ってもつかない者だったり、一生懸命技術を磨こうとしているのに不器用過ぎて一つの事しか出来ず、戦いでは碌に使えなかったりする者がどうしてもいるのである。



 ただ、私の場合はまだそれでも『魔法』がありそれを用いる事によって剣を振るって戦いに活かす事は出来たが、中には剣術がいくら好きでも実力が伴わず、見た目ばかりで終わり無意味だと判断されてしまった者も居るのではないかと思う。



 だが、そんな無意味だと判断された者達でも、それを活かす場があると言うのはきっと嬉しい事なのではないかと思ったのだ。



 ──要は、『力』は使い方次第という話。



「…………」



 つまりは、『力』の活かし方は何も戦いに使うだけではないという事だ。

 そして、彼らがそれを忘れてはいないのだと知れた事が喜ばしいのである。


 元は強さばかりに目を向けていた筈の『エルフの青年達』が他の事にも目を向ける成長を遂げていると感じた。それはとても素晴らしい事だと私は思うのである。



 戦いにのみ身を置く者では理解し難い事かもしれないが、本番のみが全てではないと私はこの瞬間に思ったのだ。

 『好きなもの』を一生懸命に突き詰めて何かを努力した先で、それが例え本番では活かせないものであったとしても、その存在が無価値であると否定されるのは悲しい事だと感じた。



 そして、一つだけを突き詰め焦点を当てれば、時にそれが最上の輝きを示す事も中にはあると思ったのである。



 例を挙げるとするならば、『芸術』などにもそれは通じる考え方なのかもしれない。


 もしも、とある『歌』や『絵』があったとして、それに一般的な価値がつかなかったとしても、そこに宿した思いまでは否定されるべきではないと私は思ったのだ。


 それに、今までそれに価値がついていなかったとしても、別の視点から見た時に価値がつく事はあるだろうとも思う。



 勿論、何かを表現する上で、本人の意図したものとは異なる事もあるだろう。

 だが、それが誰かを幸せにするものであるならば、それに目を向けてみる事もいいのかもしれないと私も少しだけ思うのだった。


 ……当然、それが絶対ではないだろうし、時に不本意に感じる事があるのも認める所だ。

 ただ、感じ方は人それぞれで、そう言う考え方がある事まで全てを否定はしたくないと私も思うのだった。



「…………」



 ──だが、そんな好意的な気持ちも今となっては崩れ去りかけ……既に前言撤回したい気分で私の『心』はいっぱいになっていたりもする。



 ……と言うのも、何故だか私は今『剣舞場』の舞台の一つに立たされており、これから多くの人々の前で何か『剣舞』を披露しなくてはいけなくなってしまっていたのだ。



 内心、『どうしてこうなった……』とは思いながらも、近場では満面の笑みで微笑んでいるエアも居る為、私はその期待に応える為にも持ち慣れない白銀の剣を手に取ると、大上段へとそれを構えるのだった──。




またのお越しをお待ちしております。

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