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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第55話 移。




 空を飛ぶ時の姿勢について考えた事はあるだろうか。



 魔法を使って飛翔しているわけだが、操作性と魔力量、そして固定観念に囚われなければ、人はどんな姿勢でも飛び続ける事が出来る。私の場合はそれが寝ていたとしてもなんら問題がない。

 なので、足を進行方向へと向けて、いつも花畑で寝ている時と同じ姿勢のまま私は空を飛んでいた。


 一方、エアの方は『天元』に風の魔素を通した事で空を自由に歩く事が出来る。

 もちろん走る事もその場に立ち止まる事も出来るが、推進力の面において自分の足で空を蹴らなければいけない。普通に地面を歩いている感覚で空を進めるので、魔法よりも小回りや自由が効きやすい反面、長時間使っていれば段々と疲労が蓄積する。



 ──という訳で、私はごく一般的な発想を閃いた。……ならば疲れない方に乗ればいいのでは?と。

 寝ている私の上にエアが立てば問題はすべて解決するなと私は思ったのである。

 ……今日私は、更なるジョブチェンジ、『空飛ぶ白い乗り物』に至れるかもしれない。



「やだ。自分の足で歩く」



 だが、そんな私の『空飛ぶ白い乗り物』計画は儚くも水泡と帰した。

 エアもこの五年でだいぶ見た目に精神年齢が追いついてきた様で、確りと自分の考えを持つようになった。ただ、私からするとまだまだ幼子に見えてしまうので、時々『子ども扱いしないでっ!』とエアに怒られてしまう事が多くなった。

 ただ、その反面、散々精霊達が甘やかした影響で、かなり甘えん坊に育ってしまったらしく、エアは一人でいるのが基本的にあまり好きではない。それも一年目の芽吹きの季節に『甘えたい時は甘えて良い』と私が言ってからは本当に気分的に甘えてくるようになった。元々の猫の様な大きな瞳も相まって、本当に猫の様な気まぐれな性格になっている。



「おっ、鳥だな」


「どこっ!?いた!行ってくるッ!」



 冒険者として旅をしながらの食料調達は必須である。

 最悪でも最低限の食料は持ちながら移動する事は常の心得としているが、あればあるだけ良い。

 私達もエア換算で数年はもつ量を【空間魔法】でそれぞれ収納しているが、飛んでいる間も食料調達は忘れないのである。



 エアは獲物を見つけると、手に持っていた光の槍を一瞬見つめ、カバンにしまい、自分で一直線に駆けていって飛んでいる鳥をササっと狩ってきた。エアも随分立派になったものである。「取れたっ!」と報告に持ってくる姿は変わらぬ無邪気なままで、食が好きな事もこの五年なんにも変わっていないが、ちゃんとした成長を感じる事が出来て。私は心の中で微笑んだ。



 因みに、エアの持っていた光の槍に入っていた光の精霊は他の精霊達と一緒に領域の問題で大樹でお留守番である。

 流石に色々な場所に行くのに連れ回すわけにも行かず、エアには光の槍のレプリカ槍を新しく作ってそれを使って貰っている。

 ただ、レプリカとは言ったものの、火の精霊達男前の職人集団が全力で作ってくれた作品なので元の槍よりもその性能は上だったりする。光の精霊には内緒だ。


 まあ隠す気もないので、聞かれたらそのまま答えるつもりだが、この五年ですっかりと光の精霊は光の槍を気に入ったらしく、聞いてくる気配もない。今も大樹の周辺で元気に飛び回っているだろう。それに、本人はエアの傍に居れない事を残念そうにしていたが、こればかりは仕方がないと言って納得してくれた。



 そして、闇の精霊達の方は、時々部屋を訊ねると五人になっていたり、十人になっていたりと部屋を開ける度に中のはにわ達が増えているので、はにわ好きの同志たちの憩いの場として上手く使ってくれている様だ。人数が増えてみんなでくねくねしていると中々に迫力がある。


 色々と成長したエアと比べ、私と精霊達はそんな急激に何かが変わる様な事は起きなかったが、この五年はとても楽しい日々であったと言える。何度『お野菜イベント』や、『装備品イベント』もやったか分からない。



「ここから、どこくらいかかるの?」


「まだ三日は飛ばないと街までは着かないな」


「三日かー、遠いー」


「冒険者で一番時間を何に使うかと問われれば、それは移動だ。これでも飛んでいる分だけかなり早いんだぞ」


「……そっかぁ。魔法じゃダメ?」


「【空間魔法】の転移を使えば一瞬で行き来できるが、エアはそれでもいいか?」


「……ううん。良くない」


「そうか。なら少し乗っていなさい。眠たくなったら寝てても良い」


「……うん。ありがとエフロム」



 約半日と言った所だろうか、途中で狩りもしてこれなら充分に頑張った方だとは思うのだが、エアは途中で力を使い果たしてガス欠になった。今は私におんぶされている。

 背中ではなく魔法で横に寝たまま連れて行こうかと最初は提案したのだが、エア本人が私に背負われる方が良いと言ったのでこの形になった。寝づらいとは思うがそこは勘弁して貰おう。



 大樹の森は、大きな山脈を一つ二つ超えた先、丁度周辺の国の間に挟まるような場所にあったので、外から見るとまるで秘境である。まああえてそのような場所を選んだので、私にとっては都合が良いのだが、エアにとってはもっと近かった方が良かったのだろう。

 ただ、これもエアにとっては良い経験であった。

 冒険中に疲労で眠ってしまうなんて、本来はなにが起こってもおかしくない程の危険な行為である。

 当然、その事はもう私に言われるまでもなく本人も気づいているだろう。明日のエアはもっと上手くやる筈である。やる気があり、能力もあり、わきまえてもいる、そんなエアでさえ、こんな些細なミスで簡単に命の危険に陥ってしまいかねないのだから、冒険者と言うのは本当に難儀なものだと私は思った。


 後は経験だけ、エアに足らないのはそれだけで、こればかりはひたすら本人が体験していくしかない尊いもの。エアは今頑張って冒険者としての経験を一歩積み上げ始めたのである。私はそれを精一杯支えていこうと思う。


 『クンクン』と時々鼻を鳴らしているかの様に、背中のにおいを嗅いでいるエアは、落ち着いたのかスース―っと気持ちの良さそうな寝息をたてていた。




 ……三回程夜営を熟し、エアも段々と冒険者の移動と言うものに慣れて来たころ、私達は森を抜け、とある王国の辺境の街の一つに辿り着いた。

 まだ朝日が昇ったばかりの時間帯で、その街の門は開いておらず、門から少し離れた所では開門をまつ人々が思い思いにスペースを囲ってその時を待っていた。

 私達は森を抜けた所で飛ぶのをやめて歩いて来たので、そんな彼らに自然と混ざるように、街が開くその時を静かに待つ。



 朝の少し肌寒い空気の中、エアは期待に胸を躍らせているのか、その顔はいつもの無邪気な笑みのまま、ひたすらにずっと門の方を見つめ続けるのであった。



またのお越しをお待ちしております。

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