第546話 畢。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
『ロムとこうして本格的に一緒に旅をするのは、もしかしてこれが初めてじゃないか?』
──と、『第三の大樹の森』を目指して皆で森を歩いているその最中、レイオスはいきなりそんな事を言って来た。
それはたまたま私とレイオスが後ろで隣り合い、エアとティリアと双子達が一緒になって前を歩いている時のもので──どうやらその声は前を歩くエア達には届いていない様である。
だが、その言葉を聞いた私は先ず首を傾げてしまう。
『……はて?そうだっただろうか?』と、疑問に思ったからだ。
なにしろ私達は幼馴染である。いつも一緒にいたわけではないけれども、それこそ行動を共にする事などこれまでに幾度もあった。だから旅の一つや二つも当然した事があったと思うのだが──
「──お前はいつも、気づいた時には一人で旅立ってしまう奴だからな……まったく」
「……そ、そうだったか?」
……どうやらそうだったらしい。
それは、なんと言うのか、『ごめん』としか言いようがなかった。
だが、別に私も態とそうしていた訳ではなく、その機会が無かっただけで──
「──まあ、分かってる。俺も怒っている訳ではない。……ただ、これだけ長く生きて来て。これが初めての旅なんだと思うと、少しだけ思う所があっただけだ。──それに俺もティリアも子供達と同じくらいこの旅を楽しんでいる。……ただ、一緒にいると旅慣れて無いのが自分でも実感できてな。だから、お前とエアさんには迷惑をかけてしまっているなぁと──」
「──いや、迷惑だなどとは欠片も思った事がない」
「…………」
「これくらいはなんでもない。そうだろう?……友よ」
「……そうか。……そうだな」
「ああ……」
……何だろうか。
私がそんな当たり前の事を告げると、レイオスはとても嬉しそうに微笑みを浮かべていた。
……不思議だ。どうした。君も双子と一緒に何か拾って口にしたのか?……回復魔法いる?いらない?そうかそうか。
正直、『今更何を言っているのだ』と私は思ってしまった。
もしそれが『世話になった』という話ならば、それはお互い様であろう。
最近では特に、『大樹の森』側にある『空飛ぶ大陸』とゴーレムくん達、それから元々私達の故郷があった『里』の世話も子育てをしながら友二人がしてくれていたのでこちらの方が助かっている位なのだ。
だから、迷惑だなんて私が思う訳がないのに……。
それに、双子達の為に計画したこの『はじめてのたび』にしたって、私達にも得るものは大きいと思っている。
私達の関係はもう、こうして支え合うのがきっと当たり前の事になっているのだと。
そして、この関係はこの先もずっと変わらないのだろうと、私はそんな風に思っていたのだが──
「──あーっと、そう言えばロム、お前には一つ話しておかなければいけない事があったんだが……聞いてくれるだろうか?」
「…………」
……いや、それは勿論構わないのだが、いきなりどうしたのだろう。
まるで不器用な普段の私を見せられているかの様に変な話の切り出し方だったのだが、何かの秘密でも打ち明けられるのだろうか。
……何故だかこちらまで緊張してきたのである。
「──じ、実はな、この前の夜の話にも関わる事なのだが……」
……すると、それは案の定と言うのか、彼はいきなりこの前の夜の事──双子達へと『恐れ』の話をした事を掘り返すと、彼らが何故に『差異』を超えようとしないのか、その理由について語りだしてくれたのだった。
まあ、私も気になっていたし、教えてくれるというならば有難く聞きに徹するのだけれども。
何とも忙しなさを感じてしまった。……夜にこっそりと語るとかではダメだったのだろうか。
他の者達には聞かせたくなかったのかな?
「……ごほん、ただその話をする前に、先ずは前提となる話をしたいのだが──ロム、お前は自分が生まれてから千年を超えた事の自覚がちゃんとあるか?」
「……千年?」
「ああ、千年だ。……だがまあ、そんな反応という事はやはり、お前はまた忘れていたのか?それとも知らなかったか?」
「…………」
「……うん。まあ、そのどちらでもいいのだが、恐らくは気づいていないんじゃないかと思って話す事にしたんだ。──つまりは、俺もティリアも、そろそろ色々と整えておかないとなって、最近ではよく話すようになっていた。……もう『その日』がいつ来るか分からないからな」
「…………」
元々『耳長族』と言う種族は長命ではある。
だが、その寿命の幅は広く、容易に数千年を生きる者もいれば、そうでない者も当然いる──
「──自分の身体の事だからな。分かるんだ。長くない事が。……それに俺とティリアの場合、少々『人』の世界で無理をし過ぎていたからだいぶ早い気がする。……近頃は金の髪に老化の兆候も見えてきた。恐らくこの先は一気に老けこんで来るだろう。……だが、それでいいと思えているんだ。俺達はとても満足している」
「…………」
「子を宿す事が出来たのも、実際はほぼほぼ奇跡に近しいとティリアも俺も思っていた。……だが、恐らくは『ロムという領域』のおかげで、その奇跡は起きたのだと思っている。──おかげで俺達は、掛け替えのない子供達──『レティエとレティロ』と出会う事ができた。……あの子達を愛し、こうして色々と教えてあげる事、ゆっくりと残せるだけを残して逝ける事が出来る。……それは全部、お前のおかげだ。ありがとう、エフロム」
「…………」
……共に森を歩きながら、彼はまるで世間話をするかのようにそんな大事な話を告げてきた。
その顔はとても満足げで……言葉には淀み一つない。
言外に『しめっぽくはしたくない』と思っているのだろう。
……その気持ちは、よく分かった。
なにも、今日明日に起こる話ではないからな。
気まずくなったりするのが嫌だったのだろう。
それは私も同感だった……。
「…………」
……だがなレイオス……流石に私は胸が痛いぞ──。
またのお越しをお待ちしております。




