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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
545/790

第545話 脈。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。




 『生きるってなに?』


 『死んだらどうなるの?』



「…………」



 『はじめてのたび』の中で、好奇心が赴くままに動きまわって色々な事を積極的に学んでいった『レティエとレティロ』は、とある日の夜営の最中、皆で焚火を囲む場で突然声を揃えてそう尋ねて来た。



 ……でも、それは何とも際どく難しい質問である。



 まだ幼い二人だが、森で動物を見かけて、それが命を失い自分達の糧となっていく様を目にしてから、そんな疑問を抱く様になったらしい。


 そして、同時にもしそれが『自分達にも起きたらどうなってしまうのだろうか』と、恐くなってしまったそうだ。



 幼いけれども、レイオスとティリアが親馬鹿になってしまうのも頷けるほどに二人は賢く、そして止まらぬ好奇心がその疑問へと二人を導いたのだろう。




 双子はこの旅で着実に色々な事を学んでいた。

 時に痛みを交えながら、この世界には様々な『危険』がある事を。

 そして、その『危険』は自分達で対処する事が出来る事を。



 それは『大樹の森』と言う『領域』の中では中々に学び難かった事であり、親二人が双子の情操教育の一環として知って欲しかった事でもあった。



「…………」



 ……だが正直、その質問に関して大人達である私達もちゃんとした『正解』は知らないのだ。

 『なんとなくだが、こういうものなのだろう』と言うそんな曖昧な感覚をそれぞれが持ち、理解した気になっているだけである。



 その為、大人達は双子にこう話す事にしたのだった。



 『生きるとは、鼓動していて、心が駆けている状態なのだ』と。

 『死んだ後は、想いを沢山の人に分け合って、虚に消えていくのだ』と。



 それはまあ、昔から『里』に伝わる話の一部と言うか、こういう時の一般常識というか、使い回された表現ではあった。……因みに、ここで言う『虚』とは『ここではないどこか』と言う隠語である。



 なので、当然の様に双子は『よくわからない』という言葉を返してくる訳なのだが。

 ……まあ、その気持ちは私達にもよく分かった。


 ただ、それに対しては大人達も微笑みながらこう言うしかないのである。

 ──『実は大人でもわからない事は多いんだよ』と。



 すると、これまでの旅の間、問われてきた事には全て答えてきた為か、『大人になれば何でも知っている』と思っていたらしい双子はそれにとても驚くと──次いで慌てたように二人は、こう問い返してきたのである。



 『じゃあ、いつかはぼく達も死んじゃうの?』と。

 『みんなでずっと一緒にいられないの?』と。



「…………」



 大人達ならば、そんな『恐れ』を簡単に払拭してくれると思っていたのかもしれない。

 だが、それに適う答えは申し訳ない事に私達にもなかったのだ。

 それに、なんと言っていいのか、なんとも『答えに困る質問』でもあった。



 ……と言うのも、なにしろこの場にいる大人達にはそもそも『寿命の差』があったからである。

 魔法使いとしての『差異』を超えればそれも関係なくなるのだが、当のレイオスとティリアにはそのつもりが無いようだった。



 実際、レイオスとティリアならば、今からでも魔法使いとしての『壁』を超えられるのではないかと思うのだが……彼らには彼らの考えがあるらしい……。



 正直、私としてはそれを歯痒く思ったりもしたのだが、考え方は人それぞれだとも思うので、自分の考えを友二人に押し付けたいとは思わなかった。

 


 ……ただ、そんな双子の言葉をきっかけに、二人も考え方がちょっとだけでも変われば良いなと内心では思ってしまう。


 だが、そんな期待が自然と重圧でも発してしまったのだろうか、友二人は凄く言い難そうな雰囲気を発していた。



 その為か数秒程の沈黙が広がり、辺りには焚火の『パチパチ』とした音だけが小さく鳴り続けている……。



「……レティエ、レティロ。ゆっくりと聞いて欲しいのだが、パパとママはいずれ死ぬだろう。だが、この世には魔法使いと言う存在がおり、その者達は他の者達よりも比較的に長寿であると言われていて──」



 ……だが、その直後の事。

 そんな空気を読んで一番最初に口を開いたのはやはりこの男──レイオスであった。



 彼は双子達に理解できるように、二人が抱くその恐怖を解す為にも一つ一つの言葉をゆっくりと重ねている。



 私が彼から数多の教訓を得てきたのと同様に、双子達もまたそんな偉大な父の言葉を教訓としようとしているのか真剣に聴き入っていた。



 そして、そんな父の隣りでは、慈愛に満ちたような表情で母であるティリアがそんな彼の手を握っている。



 レイオスは、双子に一つの『道筋』を語った──。



 『パパとママだけではなく、全ての生き物達は皆いずれ死ぬのが普通なのだが、この世には例外とも言える素晴らしい魔法使い達がいるのだ』と。


 『ただ、そんな魔法使い達でも長寿にはなるが、決して死なない訳ではないのだ』と。


 『二人とも痛みを通じてこの世界には色々な危険がある事を知ったと思うが、その危険はどこに潜んでいるのかわからないのだ』と。


 『だから、その為の対処法や色々な危険がある事を学ぶために、今回はこうして旅をしているんだ』と。


 『そして、もしもレティエとレティロが、そんな素晴らしい魔法使いになりたいと言うならば、パパもママも凄く応援するぞ』と。



 ──そんなレイオスの言葉は、実に彼らしく思いやりがあって真っ直ぐだった。



 双子が抱く『恐怖』に対する一つの解決策を直ぐに示してあげる事で、まずはその『心』にかかる負担を和らげようとしているのが分かる。



 双子達には少し理解し難いかもしれないが、誤魔化す事なく言葉を重ねる事でちゃんと理解を得ようとしているのがこっちにも伝わってきたのだ。



 ……それに、彼の言葉は一から十まで全てを教える訳でもなく、この旅の中で双子がどう感じるのか、二人が何に気付くのかを敢えて促している様にも感じる。


 

 また、例え相手が幼子であろうとも関係なく──『敬意をもって対応をしている』とでも言えばいいのだろうか。……彼の言葉にはそんな『真摯さ』が詰まっている様に感じた。



「…………」



 私は、そんな彼の事をとても『尊敬』している。

 『……彼の友で居られて良かった』と、心から思った。


 そして、そんな彼の想いが『レティエとレティロ』にこうして受け継がれていく様を見ていると、凄く感慨深くもなる。


 ……だが、これは決して喜ばしいばかりではなく、同時に『哀しい』と想えてしまう部分も強まったのだ。



 と言うのも、敢えて言うのは無粋なのかもしれないが、彼の説明には言外にまた『別れ』が含まれていたからである。



 一応、魔法は使えるけれども、『差異』を超える程の魔法使いではないからと、そこにある寿命の差でいずれは『その日』が来るだろうと、暗に含ませているのが私には分かってしまった……。



「…………」



 ……ん?いや、隣へと目を向けてみれば、エアにもそれは伝わっていたらしい。


 エアは私の視線に気づくと、一度だけ頷きを返してティリアへと視線を送っていた。

 すると、ティリアもまたそんなエアの視線に気づき、彼女は私達を見てそっと微笑みを返したのである。



 その表情はまるで──『……まだまだ先の話だけどね。わたし達はいずれ死ぬわ。ただ、その日がいずれ来たる事をこの子達にもちゃんと教えておきたかったの。……だから、何度もごめんなさい。それにもし、本当にその日が来たら、後はこの子達の事をよろしくね。頼れるのは二人だけだから……』と、そんな風に頼まれた気がして、私もティリアに頷きを返したのだった。



 ……恐らくだが、この旅の間に友二人は双子達にこの話をすると決めていた節もある。

 『加護矢』の話を持ってきた時から、薄々と何かを二人は『準備』している様な、そんな雰囲気も密かに私は感じていたのだ。


 

 だからか、それを想うと自然と私の鼓動は騒めきを覚えた……。



「…………」



 ……本当に、双子達との『はじめてのたび』は『ハラハラとドキドキ』が沢山で、安定した道のりは用意されていないらしい。


 だが、きっとこれは双子達だけではなく、私達にとっても大事な旅なのだろうと、そう強く感じ始める私なのであった──。




またのお越しをお待ちしております。

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