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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第538話 対敵。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。




 『毒』は、倒れ伏した『十万の戦士達』の中心にほど近い場所に居た。


 変わらぬあの『ニタリ』とした微笑みを浮かべて、彼女はエアの方へと顔を向けている。


 その表情はまるで『……ありがとう。貴女のおかげで策が成りましたわ』と感謝を告げているかのような笑みだった……。



 ──そして、その表情が示す通りの事が、その場にて起き始める。



「…………」



 ──それは、一言で言うなら『神兵達』への『饗宴』であった。


 『毒』を中心として、辺りには淀みが満ち、続々と『神兵達』が現れて戦士達を『喰らい』始めたのである。


 ……当然、それに伴い一人また一人と『異形の戦士達』が立ち上がり始めた。



「……エア」



 私はそれを『探知』越しで視ると『魔力生成』を一旦止め、すぐさま【転移】を使ってエアの傍まで跳んだ。



 エアはお面で表情が隠れているけれど、半ば呆然としている雰囲気で、その視線をただただ『毒々しい槍を持つ者』へと向けている。


 そして、余程に『力』がこもっているのか、その手にある『おどろおどろしい音が鳴る杖』は『ミシリ、ミシリ』と小さな音を零していた……。




 『──あらっ!いらっしゃったのね!』



 ……すると、私が【転移】してきたのを見た『毒』は、『異形達』に囲まれながら嬉しそうに顔をほころばせると──



「流石は泥の魔獣。【転移】にも淀みがありませんわね。まるで元々そこに居たかの様に──」



 ──と言ながら、嬉しそうに自身も私達へと声が届く距離にまで一瞬で【転移】してきたのだった。



 そんな彼女の背後には、『異形達』がどんどんと増えていっている。


 私は『毒々しい槍を持つ者』が上機嫌である事が直ぐに分かった。


 ……同時に、以前会って『土ハウス』で話した時よりも、彼女がまた少し『人』に近しい感覚を放っている事にも気づく。



「…………」



 ……それはつまり、あれからまた一歩、彼女は『人』に近しくなったと言う事であり、同時にそれに足るだけの『何かを喰らって来た』と言う話でもあった。


 彼女からはもう殆ど『モコ』の雰囲気がない。

 ……あれはもう、ほぼほぼ『人』であると言えるだろう。



「──あっ、此度の事ですが、もしお二人の邪魔になってしまったのでしたら、先に謝らせてくださいまし。『獲物』を横取りするかの様な浅ましくも愚かな行為をしてしまい、大変に申し訳ありませんでした。深く謝罪いたしますわ……」



 ……だが、そうして私が彼女の変化を観察していると、驚く事に『毒』は突然深く頭を下げて、謝罪を告げて来たのであった。



 ──曰く、『十万もの戦士達』と戦っていたエアに対して、その討伐者を差し置いて『獲物』をかすめ取るかの様な事をしてしまって、今更ながらに申し訳なくなったのだと言う。



 ……面の奥に隠れたエアの怒りを咄嗟に感じたが故にそう言ったのか、はたまた元から謝罪をすれば私達がそれ以上何かをしてくる訳がないと高を括ったからなのか──。



「…………」



 こちらが『人』を獲物としていない事などお見通しである癖に……臆面も無くそう言える『神人』のずるい所を見た気がした。……そして、その見極めの高さこそが『毒』の厭らしい所であり、上手いと思える所である。


 彼女は『異形達』へとエアの注意が向かない様に、敢えて上機嫌に語りながら自分へと注意を引き付けても居るのだろう。



 ──恐らく『十万もの戦士達』を得る事が彼女の狙いであり、元は『羊飼いの召喚士』に対して備えていた策でもあると。


 愚者を焚き付け、『羊飼い』との衝突を起こさせ、両者が争う様に仕向けていたのだ。


 そして、その争いで倒れたものを『異形達』にまとめて『喰わせ』、自分達の戦力を増やそうと画策していたのだろうと、私はなんとなく察したのである……。




「……ただ、おかげで結果的にわたくし達は新たな仲間(『神兵達』)を得る事が出来ました──だから、皮肉に聞こえるかもしれませんが、感謝もしているのです。本当に助かりましたわ。ありがとうございました」



 ……きっと、それは本心からの感謝の事ではあったのだろうが、謝罪の後のその感謝はいつになく黒い思惑を私達に感じさせた。



 未だ変わらぬ少し不気味な『ニタリ』とした笑い方が尚更にそれを引き立てるのか──偏見かも知れないが、『全てが企みの内であった』と喜んでいるの様に聞こえてならない……。





「……構わぬ」



 だが正直、今の私の関心は『毒』よりも余程エアに重きを置いていた。……心配だった。


 未だ私の隣でエアは無言のまま見つめている。……自分が起こした事によって多くの人の命が損なわれ、『神人達』に良いように扱われてしまった事に対し、感情の整理が上手くつけられずにいる様に視えた。



 自らに対する怒りや不甲斐なさ、悲しみや後悔に今にも潰されそうな雰囲気を感じる。

 故意では無かったとは言え……懺悔すらできぬ現状と、目の前で嬉々としている『毒』の話に、エアは忸怩たる痛みと歯がゆさを感じているのではないか。



 エアは優しい人だ。本来ならば誰かを傷つけるよりも誰かを守り助ける事に『力』を使う事に喜びを感じ、悪を打倒し理不尽をはねのける冒険譚の方にこそ目を輝かすような無邪気な子である。



 だから、一言も発せずにいる今のエアの姿に、私もまた胸が苦しくなった……。



「…………」



 ……それに、元はと言えばあの『おどろおどろしい音が鳴る杖』を渡したのは私である。


 よくよく考えれば、元々エアは何も魔法が使えなかった頃から『精霊の歌』に気づけるほどに『音』との親和性が高かったのだ──だから、そんな不器用な私と、器用で『音』にも親和性が高いエアではその効果の程が違う事など当たり前の話でもあった。



 それを失念していた事の責が私にもある。

 ……だから、決して一人で自分を責めないで欲しかった。



「…………」



 ……そう思った私は、隣に立つエアの方に手を向けると、深くかぶったそのフード越しに頭をポンポンと撫でながらそっと『回復と浄化』をかけ続けた。



 面で隠れていて、今のエアがどんな表情を浮かべているか私にはよく分からない。

 ……ただ、とても弱々しそうではあった。



 上手く励ます事が出来てないとは思うが、少しでも元気になって欲しいと思う。

 ……少しだけ『魔力生成』に伴う『元気の芳香』に頼る事も頭を過ぎった。


 だが、私がそうする前に目の前の『毒』の方が先にイキイキと語り始めたのだ。



「──あらあら。随分と甘えんぼさんなのね。それにお揃いのお面。……フフフ、素敵ですわね」



 そんな『毒』の言葉が、エアにはどう聞こえたのだろうか。……私にはよく分からなかった。

 だがしかし、きっと良くは聞こえなかったのだろう。


 ──もしかしたら『お前と泥の魔獣が似ているのは見た目だけだ』と。


 ……そんな風に、捉えてしまったのかもしれない。



 エアはその言葉の後に私から一歩だけ距離を取ると、ギリギリ手が届かない所で『毒』を悔し気に睨みつけるかの様な雰囲気を発していた……。



「…………」


「あっと、そうそう!そう言えば話の続きでしたわね。──こほん。実はですね、この際、感謝の代わりと言ってはなんですが、泥の魔獣に一つだけ耳寄りな情報をお伝えしたいと思っておりましたの……」



 すると『毒』もまた、己の言葉が効き過ぎた事を敏感に感じ取ったのだろうか。すぐさまに話題を変え始める。



「……情報?」


「ええ。『羊飼い』に数を減らされていたとはいえ、一つ間違えればあなた方と戦闘になっていてもおかしくないこんな危険を冒してまで、わたくし達がまとまった数の新たな仲間達を得ようと行動した──その理由に繋がる話ですわ」



「…………」



 確かに……思えば、漠然と『羊飼いの召喚士』との戦いで減った戦力を補充する意味で仲間を集めていたのだろうとは思ったが──なにも『羊飼い』が居なくなった現状で、そうまで焦って集める必要はないのである。



 ましてや今回の事で限りなく『毒』はエアの敵対心を買った。

 そんな危険までを冒して、これだけの数の戦士たちを一堂に会してそれを私達に対処させたのは、そうできない事情が『神人側』にあったからか、または、それだけ急がねばいけない状況になっていたからである……。



 ──ならば、『戦力を急激に集めないといけない状況』とはなんだろうか。

 ……いや、そんなもの、考えるまでも無い話である。



 『敵がそれだけの戦力を手に入れたから、それに対処する為の戦力を切迫して欲した』のだろう。



 それは、つまり──



「まさか……」


「ええ……恐らくはご想像の通りですわね。──『羊飼い』はただ消えたのではありません。大陸中を救ったことで『信仰』が集まってしまったのでしょう。そして半強制的に『神々』へと連れ去られてしまった……」




 ──要は、彼(『羊飼い』)は今、『神々の末席に参列し、我々の敵になったのだ』と、『毒』は語りだしたのだった……。




またのお越しをお待ちしております。

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