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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
534/790

第534話 餼羊。

(少しだけ懐かし過ぎて、記憶が……)




 暢気にも、私がその街に辿り着いた時には全てが終わった後であった。

 海上で羊さん達と出会ってから、既に数か月の月日が経っている……。


 そうしてようやく辿り着いた先、彼の街で私が見たのは、家ごと消え去ってしまった『羊飼い』達の現状だった。


 ……聞けば、彼らは『何らかの襲撃』にあって、その存在を忽然と消してしまったのだと言う。



 それこそ、【召喚】と対を為す【送還】を自分達に使ったかのように……。



「…………」



 ……でもまさか、この数か月でそんな事になっているとは思わず、私は最初呆然とした。

 ただ、それでもなんとか情報を集めていく内に色々と見えて来るものがあり、それを私なりに考察してみた結果──『羊飼い』の消失には『毒々しい槍を持つ者』と『愚者』の存在が大きく関わっている事がなんとなく分かったのである。




 ……そもそも、『羊飼いの召喚士』の【召喚】とは、とても『特殊』な魔法であった。


 特殊な『詠唱』と特殊な『環境』、特殊な『血筋』、契約に使った『魔法陣』も特殊なら、【召喚】に応える『召喚獣』達の愛らしさまでもが特殊なのだ。



 羊さん達のぬいぐるみの様な体躯は、大凡自然に存在する動物の羊達とは大きく異なっており──その存在はいわば『幻獣』とでも言える様な特殊な存在であった。


 だから、それ程までの『特殊』が前提となっているその魔法が、『誰にでも扱える技術』なのかどうかなど、普通ならば考えるまでも無い話なのだ……。



 なによりも、その魔法の根幹になっている最も大事な部分は──『羊さん達と羊飼いの絆』にこそある。……それは、決して他の誰かに簡単に真似できる様な『力』ではないのだ。



「…………」



 ……だがしかし、『毒』に掛かった者には、それを知っても尚『手を出してしまう者』がいたのだろう。

 また、その『力』を『過剰に危険視』し過ぎてしまうがあまり、その恐れを排除せねばと考えてしまう者が中には居たのだ。



 ──だから、恐らくはそんな『愚者』達の存在によって、『羊飼い』は被害を受けたのである。



 大陸中を救った『英雄』であると知られるにつれ、厄介事が増えて行ったのだと思う。

 ……中には、心無い言葉を言われる事もあったみたいだとも聞いた。

 面倒な存在に付きまとわれる事も多かったのだと。



 それらが積み重なった結果、『守ってくれた存在』を脅威だと思う者達と、その『力』を喰らおうと狙う存在達から『羊飼い』は逃げ出したのだと思う。……家族と共に、家ごとスッキリと消え去ったのだ。



 それにより、考えが足りなかった『愚者』達はその身を亡ぼすだけではなく、周りにも大きな被害を与える事になった。



 ……要は、『羊飼いの召喚士』が消えた事により、当然その『召喚獣』達も姿を消し、『神兵達』の脅威が再燃しているのである。



 これほどの自業自得があるだろうか。

 ……どれだけ求めても『英雄』はもう帰って来ない。


 欲にかられて、大事なものを見失った結果である。

 今更、どうしようも出来ない。


 私にも、『羊飼い』達がどこに行ってしまったのかはもう分からなかった……。

 


「…………」



 ……ただ、簡単には『会えなくなってしまった』けれども、彼らは未だどこかで元気に走り回っているのだろうと私は思った。


 羊さん達の多くはこちらの大陸から消えてしまったらしいが、海を渡った羊さん達は未だ向こうで爆走している。……そんな気がするのである。



 それに、消えた『羊さんハウス』のあった場所の一角には、この街の者達ならば当然の様に持っている筈の『羊さん達の可愛い顔のマークが取っ手に付いてる木製のスプーンとフォーク』がそっと置かれていたのだった。



 ……今となっては、街の者達でも覚えている者は少ないかもしれないが、それはかつて私が贈った『引っ越し祝いの品』であり、それを手にした私はそこに込められた想いをちゃんと受け取ったのだった。



「…………」



 ──『ありがとう。絶対に忘れない……』と、あの日の少年の声が、またちょっとだけ聴こえた様な気がする私なのであった……






またのお越しをお待ちしております。

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