第533話 正位置。
(少しだけ長くなりそうなので区切ろうかと思います)
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
羊さん達と別れた私は、また元の場所へと戻ってきていた。
波に揺られながら、のんびりと『魔力生成』再開である。
「…………」
羊さん達から話を聞いたばかりだからか、気分的には今すぐ【転移】で向こうの大陸に行って『羊飼いの召喚士』に会いに行きたい気はしている。
だがまあ、逃げる訳でもあるまいし、焦らずともその内会う機会はあるだろうと私は私のやるべき事を優先したのだった。
向こうの大陸では既に『神兵達』の問題も片付きつつあると聞いたし、尚更急ぐ必要もないだろう。
それに単純に『海』と言う環境においては、元々地表に接するよりも魔力の通りが鈍いし単純に時間もかかる。
中途半端な事をして『魔力と淀みのバランス』が不安定になる事も避けたいので、じっくりと整えていきたい。
焦る気は全く無かったが、未だに一つの大陸分しかバランス調整が終わっていない現状な為に、手抜きはしたくないと思いつつも、自然と出来るだけ『効率的』な考え方をする様に私はなっていたのだと思う。
──だから、その時はまだ、もう『会えなくなる』だなんて……私は思わなかったのだ。
「…………」
──でも、よくよく考えてみれば、私はもっと前々からそれを予想しておくべきだったのかもしれない。
なにしろ『神兵達』がどういう存在なのかを、私達は知っていたのだから……。
そして、そんな『神兵達』の仲間には『神人』と言う存在が居り──彼らの仲間である『神兵達』を殲滅している『羊飼いの召喚士』に対して『神人』達がどう考えるのかなど……想像に容易い事だった。
──これは、『人』と『神人』の戦いの幕開けなのだと。
『毒』は『この世界で最も優れる召喚士』へと向けられたのだ……。
「…………」
……それは言わば、『人』の欲に関する話であり、浅ましい部分が原因でもある。
ただ、それは誰もが抱いて当然の『性質』でもあったのだ。
『生きたいが故に』と言う、そんな『生存本能』によるどうしようもない衝動が引き起こした話であった……。
そして、時と場合においては正当化され、仕方がないと思われる事でもある。
……ただ、今回に限って言えば、それはどうしようもなく最悪な一手であった。
例えるならば、身近にあるなんでもない『音』が、ただの『空気の振動』であると捉えるか、それとも『意味ある言葉』として解するか……それ位に違いがある話。
でも、それを理解するにはどうしようもない程に『才』を必要とする話でもあった。
そして、『毒』はそこを的確に突いたのだ。
『人』の急所とも言えるその一点を確実に……。
「…………」
──そんな抽象的な話をしたが、そのやり口はある意味で、『問い』に近しい様にも感じられた。
『英雄』を倒すのに、一番『効率的』な方法とは何だろうか?──というそんな『問い』である。
もっと噛み砕いて言えば、もしも相手にどうしても倒したい『敵』が居り、それが『数万もの戦力を自在に扱える英雄』だったとして、それとどう戦うかという話だ。
そしてその場合、それに勝つ為には単純な戦力として同じ位の『力』をもつ『英雄』が必要であると、誰もが考える。
ならば、その対抗たる『英雄』を生み出した後、敵と相対させる事が『良き答え』になるのだろうか?
……いや、当然だがそうはなるまい。
無論、そんな都合のいい、余分な戦力なども『毒』にはなかったのだろう。
勿論、自分達の『英雄』が相手の『英雄』よりも強ければ倒す事は可能だ。
ただ、もし倒せるとしても相応にこちらの『英雄』も被害を被る事は分かり切っていた。
……だが、その損耗は極力避けなければならないのである。
何故なら、『毒』の本命はもっと大きな存在を相手にする事だからだ。
だから、こんな所で貴重な戦力の浪費はできないのである。
……ならば、最善で『効率的』なのはいったい何だろうかと考えるだろう。
「…………」
──そして、『毒』は思いついたのだ。
『英雄』を倒すのならば、その足を『愚者に引かせればいいのではないか』と。
『英雄』が普通に歩めない様に。その『力』が向けられない相手に『毒』を仕込めばいいのだと。
光の下に影が生まれる様に、『人』の影を刺激するだけでいい。
自分達が直接戦わずに敵を倒すには、敵側で同士討ちをして貰うのが一番だろうと。
そして、その為に最も有効的なのは『愚者』の存在だ。
『英雄』を倒す事を考えるのであれば、一番の近道は愚者を生み出す事。
ただただ、『英雄』を育てるよりも、『愚者』を生み出す事の方が余程に簡単だ。
何時の時代も、どんな世界でも、『才には差異』がある。
その才を明確に測れる方法が少ない以上、『人』は他者の才に敏感にもなるのだ。
特に、『生存本能』と言う部分を刺激されると、より『性質』は顕著に動き出す。
……だから『毒』は、密かにその『差異』を突いたのだと思う。
それこそ、一言こんな『噂』を広めるだけで良かった筈だ。
『あの【召喚】の力が欲しくはないか?』と。
『あの力があればもっと多くの人が助かるぞ』と。
そんな、誰しもが考えるだろう隙を突くのである。
『人』の関心が『召喚術』に少しでも向かう様にすればいい。
『自分もああなれたら良いのに……』と。
『召喚術が、自分にもあれば……』と。
そうすれば、それが前向きであり、広く大衆に声が届く者であれば尚更に、勝手に考えは肥大するのだ。
あの『力』を皆で上手く分け合って使えれば……。
もっと上手く管理して的確に活用すれば……。
もっと強い者にその『力』を委ねられれば……。
そうすれば、もっともっと多くの人の為になるのでは?と──。
多くの『人』が幸せになる。──と、そんな免罪符を片手に。
あわよくば自分もその『力』を手にする事が出来る。──と、簒奪者達は微笑むのだ。
このご時世で、生きる為に必要ならば、その『力』を求める事は決して『悪ではないだろう』と。
そもそも、大陸の問題を一個人だけに対処させ、責任を負わせる事は間違っていると。
それこそ、個人が有しているには大きすぎる『力』でもあると。
そこに、どんな過ちが起こるか分からないからと。
『召喚士』が居なくなる事で皆が危険になるかもしれないから、困る事にならないようにもっと数を増やしておかないと。
──そうして大衆の意志がそれを渇望し、推奨するようになった場合……時として悲劇は起こるのである。
「…………」
……同時にそれは、『英雄』が潰える瞬間でもあった──。
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