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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
531/790

第531話 休息。




「プメェ~!」


「プメェプメェ~~!」



「そうかそうか」



 私が海を漂いながら隣の大陸へと向かっていると、何故か反対側から羊さん達が『海を泳いで』渡って来たのだった。


 ぬいぐるみの様な愛らしい容姿をしている羊さん達だが、その実『羊飼いの少年』──いや、正確には今ではすっかりと良い大人と言える年頃になっているとは思うのだが、彼と契約している【召喚獣】達なのである。……言ってみれば彼らは白い兎さんと同じ存在だった。



 それも、その愛らしい体躯からは想像しにくいが、羊さん達の突進力は大の大人を軽々と吹き飛ばせる位のパワフルさがあり、彼らの最大の特徴としては『数千を軽々と超える程の仲間達が居る』ので、羊さん達が数を揃えて突進攻撃をすると、軽く街の一つや二つは簡単に破壊できてしまう位のポテンシャルを秘めているのである。……だから決して、見た目だけで侮ってはいけない存在なのであった。



 ただまあ、そんな脅威を横に置いておくと、羊さん達は彼らの契約者と似ていてとても穏やかで人懐っこい存在なのである。


 なので、羊さん達や召喚者に危害を加えようとしたりしなければ、とても可愛らしいので──



「……よいしょっと」


「──プメェーーっ!プメェプメェ!」



 ──この様に、海から取り上げてみると、水を含んだ羊毛が少しだけ重たくはあるが、すぐさま私の胸に顔を押し付けてきて、甘えて来てくれる程にフレンドリーなのだ。



 すると気づけば他の羊さん達も続々と『土ハウス』の周辺に集まって来ており、『引き上げて欲しそうなつぶらな瞳』をしながら『プメェ~』と鳴いて私の事を待って居ると言いたげな仕草をするのであった。


 その為、私は急いで一人一人を海から抱き上げると、魔法でサッと脱水と乾燥と浄化を施し『土ハウス』の中へと運んでいくのである。



 ……因みに、『土ハウス』に入って直ぐの居間部分には咄嗟に【空間拡張】を使ったので、羊さん達が幾らでも入れるように対処はした。なので、どれだけ羊さん達が家に来ても心配はない。


 どれ程長い距離を泳いできたのかは分からないが、隣の大陸まではまだかなり遠いので、凄く頑張ってきた事は間違いないだろう。だから、羊さん達にはゆっくりと休んで欲しいと思ったのだった……。





「プメェッ!」


「プメェ~っ!」


「プメェー、プメェー」



 羊さん達の和気あいあいとした声が耳に優しい。


 ……だがもうそろそろ、海から引き上げた羊さん達の数が千に届きそうなのだが、未だに海の先からは羊さん達がプカプカふよふよと泳ぎながら次々にやって来ているのがよく見える。まだまだ途切れそうもない。


 私は『飲まず食わず』が平気な身体で疲れ知らずでもある為に対処可能だったが、これが普通に『人』のままだったらきっと大変だった事だろう。……そう考えると『性質変化』をしていて本当に良かったと私は思うのだ。



 因みに一度だけ、羊さん達が泳ぎ疲れている事を案じて魔法を使って一気に羊さん達を運んだ方がいいかとも思ったのだが、その瞬間に『魔法を使って手抜きで海から引き上げそうな雰囲気』でも感じたのか、途端に『プメェェ……』と残念そうな声を羊さん達が出し始めたので、私はその魔法を使うのを止めたのである。


 ちゃんと一人一人を丁寧に海から抱き上げ、魔法は瞬間的に脱水と乾燥と浄化にのみ使い、毛並みをサッと美しく整えた後には頭を優しく撫でながら家へと抱っこで運んでいく──という方法で、羊さん達には大満足して貰えたようだ。


 私としても微笑ましい限りだったので、楽しみながら沢山愛でさせて貰ったのだった……。



「…………」



 ……結局、一人に二十秒はかかっていなかったとは思うのだが、泳いできた羊さん達の総数は『二千』を超えていたので、相応に時間はかかってしまったのである。全員を『土ハウス』の中に運び終わるまでは、だいたい半日は過ぎていただろうか。



 だが、その間ずっと海に居た羊さん達も体調には全く問題なさそうで、平気そうな表情をしていたのである。……どうやら、以前に会った時よりもだいぶ一人一人が強くなっている上に単純に泳ぐのも面白かったそうだ。全く苦でも無かったらしい。



 更に聞けば、スタミナ的にもまだだいぶ余裕があるそうなので、大陸間を普通に何往復もできる程だと言う。正直それは凄い。



 だから、本来であれば私の所に来て休憩する必要も無かったらしいのだが……途中で何とも懐かしい気配を感じてくれた為に、『ついつい会いに来ちゃった』と言うのが真実であったらしい。



 ……なんと愛らしい者達だろうか。さあさあ、心行くまでゆっくりとしていって欲しいのである。

 お腹は空いてないかな?──うむ、そうかそうか。それなら良かったら『お食事魔力』も食べていって欲しい。口に合えばいいのだが……。



 『プメェ~~~~~ッ!!!』



 ……うむ、どうやら口に合ったようだ。よかったよかった。

 私が特別に作った特濃『お食事魔力』は羊さん達にも大好評だったらしく……羊さん達は全員一口でうっとりと幸せそうな表情をしている。



 ──そうして、未だ『何の目的』があって隣の大陸に羊さん達が向かっているのかは分からないものの、そうしてうっとりとしている羊さん達に囲まれながら、私も昔を懐かしみつつ『ずずずーっ』とお茶を飲んで『ほっ』と一息ついて癒されるのであった……。





またのお越しをお待ちしております。

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