第529話 懸命。
友レイオスと友ティリアは、『大樹の森』の中に移した『空飛ぶ大陸』の上で──元は『原初』と呼ばれた『里』の生まれ変わったその場所で、元気な『男女の双子』を生んだ。
……私と言う『領域』の中で生まれた、初めての『子供』達だった。
女の子の名を『レティエ』、男の子の名を『レティロ』……友二人は、自分達が知る中で『最も素敵な男女』の名前の一部から、少しだけ『音』を貰って名付けたのだとか。
……その時の二人は何ともいたずらな笑みを浮かべており、その話を聞いた私とエアはあたたかい気持ちになれた。
『──それにしても、うちの子達はとにかく可愛らしく、賢く、なんとも穏やかで優しくて、思いやりもあって、向上心もたかく……』
「…………」
……とまあ、早速と生まれたばかりの子達の自慢を始めている親馬鹿な友二人はなんとも幸せそうに語っていたのである。
そんな友二人と双子の姿を、エアも、精霊達も、バウ達も、白い兎さん達も間近で微笑ましそうに見守っていた。
ただ一人だけ──『内側の私』だけは自らの判断で、赤子たちに万が一の事が有ってはいけないからと、一人『大樹』の天辺に登ってはそこから皆の様子を離れて眺めて居る。
『魔力生成』に伴う魔力効果でもある『元気の芳香』は、知らず知らず内に『無理をさせ過ぎてしまう』為、ある程度赤子たちが大きくなるまでは近寄り過ぎない様に気を付けた方がいいと私は思ったのだ。
友二人やエア達は『流石に気にし過ぎではないか?』と言ってくれたのだが……それでも『備えあれば患いなし』という事で、私は大事を取ったのだった。
「…………」
……教訓は活かしてこそ教訓だ。
エアの時の様な『ハッ』となる経験はもうしたくなかった。
……いや、それこそ『レティエとレティロ』は赤子であり、同じような効果だったとしても『ハッ』となるだけでは済まない結果になるかもしれない。
だから、用心はしておくべきだろうと私は思ったのだ。
それに、『魔力生成』による他の影響がある可能性もまだまだ高かった。
全てが判明しているとも限らないので、これでよかったのだと私は思うのである。
「…………」
……それに友二人が、どれだけ『レティエとレティロ』と会える日を楽しみに待ち望んでいたのかを私達は知っている。
『世界の魔力と淀みのバランス』を整える為に、『外側の私』が歩き始めてから暫くして──『子を授かった!』と嬉しそうに報告して来てくれた『レイオスとティリア』の笑顔を私は昨日の事の様に思い返していた。
それから時が過ぎ、月日を重ね、段々と命の重みで大きくなっていくティリアのお腹を見ながら、あのレイオスが常に『あわあわ』と気をもんで過ごしていた姿も見てきている。
そして『子供を産む』という事が決して楽な道ではない事を、ティリアの声を通して『大樹の森』の皆はちゃんと聞いてきたのだ。
微力でしかなかったが、出来る限りの協力を私達もして二人を支えて来たのである。
いつ生まれてもいい様に、私は子供達の服を沢山作った。
エアは自慢の『回復と浄化』を駆使しながら、精霊達と共にティリアのお産を無事に乗り越えた。
まさか『双子』だとは思わなかったので、生まれた後、驚いてすぐに男女別のを作ったのもよく覚えている。
レイオスは珍しくポンコツだった。ただ、そんな彼の姿が微笑ましく感じたのである。
……でも、当然の様に、生まれたから終わりという訳ではなく、寧ろ生まれた後の方が苦労は絶えず、色々とあった。
分かっていたつもりだったのに、分かっていなかった事なども沢山ある。
中々に泣き止んでくれない『双子』を、一生懸命あやす方法を皆で真剣に相談して考えたりもした。
毎日新しい発見と感動を積み重ねていく日々だったように私達は思う。
大変だけれども、素敵な日々だと感じたのだ。
「…………」
周りに居る私達でさえそれだけ得るものがあったのだから、友二人にとっては尚更だった筈だ。
……そんな皆の姿を知っているからこそ、私もその想いを大事にしたいと思った。
だから、私のせいで赤子達に何かあっては、それこそ私は私が許せなくなるだろう。
『レティエとレティロ』には、このままケガや病気などなくすくすくと育っていって欲しい。それが『大樹の森』の総意であった。
『……ロムーっ!見てーっ!指、握られちゃったーっ!』
──と、遠くから薄っすらと、そんなはしゃぎ声も聞こえて来る。
そこには、赤子たちと一緒に遊んでいるエアの嬉しそうな姿が見えた……。
私は、そんなエアの姿に……。
「…………」
……いや、なんでもない。
ただ、とてもいい笑顔だと想ったのだ……。
そして、よりエアの事を『幸せにしたいな』と言う思いが強まったのである。
──そうして、『内側』では新たな『大樹の森』の住人となった『レティエとレティロ』を祝福しながら、『外側』では次なる大陸(『第二の大樹の森』)を目指して私はまた歩き続けるのであった……。
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