第528話 穣。
不思議な体験はしたが、結果的にエアから褒められた私は、その後上機嫌なまま各地を歩き続けたのだ。
……内心、また一つエアが愛しくなった様に想う。
そして『外側の私』は今日も今日とて、深くフードを被り、面を着け、怪しげな『おどろおどろしい音が鳴る杖』をもってのんびりと歩んでいる。
少し移動しては『魔力生成』をし、そしてまた少し移動しては『魔力生成』を繰り返している感じだ。
『魔力生成』をして、その都度立ち止まるのは地域一帯の『魔力と淀みのバランス』をムラなくしたいと言う考えからである。
なので、その間は休憩だと考えのんびりと過ごし、終わるとまた流れゆく雲の様にフワフワとした足取りでバランスが崩れている方へと進んでいくのであった。
ただ、先の街で気持ちが昂っていた時とは違って、基本的に『外側の私』から自然と溢れる魔力はそこまで多いとは言えず、進むペースがお察しなのは仕方がない。万遍無く地域に魔力が満たせようとするにはどうしたって時間がかかってしまうのである。
……ただ、『食事も睡眠も必要とない身体』である私としては、昼間は日の光に煌めく世界を見てのんびりと楽しみ、夜は穏やかな闇に安らぎを抱いてゆっくりと過ごし続けていればその時間もあっという間であった。
『内側』では常にエア達も傍に居るし、感覚を共有している為に寂しいと感じる事も全く無いのである。……これがもし完全に『外側の私』が一人だけでやっていたとしたら、きっと寂しさでいじけてしまっていたかもしれないけれども、『大樹の森』の皆が居るので私は全然問題なかった。
「…………」
──因みに、最近ではエアも『外側のロムの様子が気になるっ』と言って、時々『外側』に出てくる事が増えていたりもする。……どうやら前回の話を聞いて、『外側にも時には顔を出した方がいいな』とエアは思ったそうだ。
また、近頃ではすっかりと未来のお嫁さんである『赤竜の子』とべったりであったバウも、お嫁さんが寝静まった時間帯などには『きたよ~』と言って少しだけ顔を出し、私に沢山撫でられ甘えると帰っていく事がある。
一人で星空を見ている『外側の私』を気遣ってくれているのか、それとも新たなる『大樹の森』の住人である兎さん達が、近頃私に悶える程に撫でまわされたと知って、ちょっとだけ嫉妬心が疼いたのかはわからないが、バウは沢山『わしゃわしゃ』されると『まんぞくした~』っと言って帰っていくのであった。
……そんなバウとのやりとりも、なんとも微笑ましくて愛しい時間なのである。
「…………」
──そうして、地道ではあるが確実に『世界の魔力と淀みのバランス』を正しながら私は歩き続け、だいたい二年程掛けて一つ目の大陸の『魔力と淀みのバランス』の調整を終えたのだった。
……すると、丁度その頃に『大樹の森』には一つの慶事も起きたのである。
と言うのも、なんともお目出度い事に、友レイオスと友ティリアの間に『子供』が生まれたのであった──。
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