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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第526話 影響。

(少しばかりおかしな展開になりかけますが、今回限りの予定です。次回からはほのぼの展開へ……)




 『魔法とは、思いが大きく影響する力である』と、私は改めて思った。



 ……『親しき者にしか効果が及ばない』と思えていたのも、その実私が無意識下で『傍に居る者達』に魔法の対象を限定していただけの話だったのだと、今更ながらに気づいたのである──



 だから、その効果の対象をもっと広くへ──この生成した魔力が届く範囲の者達全てに『元気の芳香』が影響する様になれと、私は意識し続けたのだった。



 『──ッ!?』


 『──っ!!』




 ──すると、私が面を外し白いフードから顔を出した瞬間から、こちらに武器を向けていた兵士達は自然とそれらを下ろしていき、呆然とした眼差しで私の事を見つめだしたのである。……おや?もう魔力の効果が届いたのだろうか。



 自分では自分の匂いが分からない為に、正確に効果範囲がどこまで広がっているのか分からないけれども、エア達が向けてくるのと近しい視線も感じるのできっと効いていると思う事にしたのである。



 そして私なりに兵士達の表情も読んでみたのだが……恐らくは私が『異形』ではなくただの『耳長族(エルフ)』だったことが分かって、『ホッ』としている部分と驚いている部分があるのだろう。ただ、それよりも先ず戦わずに済んで助かったと思っていそうな雰囲気を感じるのだった。



「……ごくッ」


「……『耳長族(エルフ)』?」



 ……ただ、そうして見つめて来る彼らの視線には不思議な『熱』があり、唾を飲みこむ音や呟きなどが聞こえた気もしたのだが、既に争う雰囲気だけは消えさっていた為──私としてはこのまま街の方へと行かせて貰う事にしたのであった。


 なので、兵士達の横も通り過ぎて……お邪魔します。



「…………」



 ──そうして、街の中へと入ってきた訳なのだが、今さっき『探知』で視た通り『元気』をなくしているのは兵士達以外にも沢山いる事が分かったので、魔力を生成しながら歩き回って、私は『元気の芳香』の効果で街中へと『活気』を取り戻して貰いたいなと思ったのだった。



 勿論、所構わずにお面を外して顔を晒す事は、エア達も懸念していた通り余計な影響を他の人に与えてしまう危険性もあって本当は避けた方が良いのだろうが……この街の様に『元気がない場所』でならば、こうして普通に面を外して歩いても良いのかもしれないと私は思ったのである。




 ……というか、改めて思うけれども、この『匂い』はまさにこの様な時の為にあったとしか思えない程に最適で、都合が良すぎる『力』だと私は感じてしまうのだった。


 これではまるで、本当に誰かに仕組まれているかの様である……。

 まあ、気にし過ぎかもしれないが……。



「…………」



 ……ただまあ、結局はこれも、私に原因の一端があった為に、『神兵達』の件の罪滅ぼしをしているだけなのかもしれない。



 だが、もしそうであったとしても、こうして誰かを『元気』にする事が出来ると言うのは、それだけでちょっと喜ばしい事ではあったのだ。



 エアが言う通り──これは誰かを『幸せにする力』なのかもしれないと、私も前向きに捉える事が出来たのである。



 本来であれば、魔法使いとしても冒険者としても目立つ行動は避けるべきだと考えてきた私だが、今だけはなんとなく『大勢の人達を元気にしてあげたい』と言う気持ちに突き動かされる様に行動し続けていた。……ナゼだか、急に気持ちが昂ってしまったとも言えるのである。



 そして、そんな強い気持ち(思い)に比例するかの如く『魔力生成』も応えるかのように順調であった。


 ──正直、これまで生成してきた中で最も好調に魔力を増やせている感覚がある。



 なのでこの後も、このまま気紛れに街中を歩きながら魔力を生成し続けたいと私は思うのだった。


 ……実際、この調子の良さならば、それほど時間もかからずにこの地域一帯の『魔力濃度と淀みのバランス』を改善できる程だろう。



 そうすれば、自然と『淀み』も少なくなり街中でいきなり『濃い淀みの中から神兵達が発生し人を襲う』様な事もなくなるし、生成した魔力の付属効果である『元気の芳香』によって、街も活気を取り戻せるようになる筈だと私はそんな予想をしたのだった。



 ……それは、なんとも素晴らしい話である。



「…………」




 また、逆にここまできたら序とばかりに、私は外から街へと襲いかかってくる『神兵達』の被害に対しての備えとして、『神兵達』が軽々と入って来れない位の高さの壁で、この街の外周を『ぐるり』と硬質な土で囲み、『外壁』も一緒に作ってしまったのだった。



 ……先ほど少しだけ聞こえてしまった兵士達の会話から察するに、この街の防御面は切迫した状況である様にも感じた為、これくらいはしてもいいかなと思ったのである。



 もしも場合として、街の者の中で『余計ない事をするなっ!』と気に入らず怒る者が居るかもしれないので、最悪を考えて一応は直ぐに撤去できるよう『土』だけで作っておいた。


 ……なので、後は街の者達の好きに活用して欲しいと思う次第である。



「…………」



 あとは……他には──と、その後も私は色々と気づいた事には積極的に手を出していったのだった。そこに異変は何も感じていなかった。



 ……正直、自分でもどうしてこんなに積極的なのかと不思議に思いかけたりはしたが、結局は深く考えるまでも無く、色々と手を尽くす事の方を優先してしまったのである。気づいた時には終わっていた事も多かった。



 ただまあ、それはなんとも不思議な感覚ではあるのだが、それによって誰かが喜ぶのであれば嬉しいと、そんな悪くはない気持ちになるのであった。



「…………」



 ……だがしかし、唯一警戒しなければいけないのは『元気の芳香』の効果時間が長いと、それだけ周りにも『無理をさせ過ぎてしまう』事も忘れてはいない。そこだけは注意が必要であった。



 なので、この場所に長居が出来ない事は最初から理解出来ており、その引き際は私の方で確りと見極めなければと言う認識はちゃんと出来ていたのである。



 ──『ひゅ~ドロドロドロドロ~』……。



 ……だからか、それだけ注意すれば大丈夫だろうと、その引き際までは好きに過ごそうと考えていたのだ。



 現状はとても順調であり、まだまだやれることも沢山あるので、暫くはこの街で平和に過ごそうと──



「…………」


「…………」


「…………」




 ──だがしかし、その瞬間に私は突然『ハッ!』として気づいたのだが……いつの間にか私の周りには大勢の街の住人達がいっぱい居り、彼らが全員私の事を見つめている事を理解できたのである。


 正直、その瞬間になるまで、私は彼らがこちらを視ている事に気づきもしなかった。



 ただ、よく視れば周りの者達の視線には、私に危害を加える雰囲気こそ無いものの──『行って欲しくない』とか『逃がしたくない』とか、『独占したい』みたいな『欲望』を強く渦巻いているのを感じたのである。



 そして、そんな周りに居る者達の様子はどことなく恍惚としたままであり、一見すれば彼らの精神を中心にいる私が操っているかのようにも見え──まるでこの街で怪しげな儀式でも行っているかのような……まるで一種のトランス状態にでも陥っているかの如き感覚を私は得たのであった。



 ──『ひゅ~ドロドロドロドロ~』……。



「…………」



 ……正直な話、大勢の者達から『敵視』は向けられた事があるけれども、こうした恍惚の表情で見つめられた事は経験としてなかった為に、私は凄く不気味に感じてしまったのだった。


 それに、右手にある『おどろおどろしい音が鳴る杖』からちょくちょくと、雰囲気のある音が鳴り響いていた為に、尚更にゾクリとした気持ちの悪さも覚えたのである……。





 ──ただ、逆に考えると、その『杖』の音がノイズになってくれたおかげで、私はこの周りの不思議な状況に完全に染まらずに済んだかもしれないとは思うのだった。



 いや、この『杖』が無ければもしかしたら気付けなかったかもしれないとも思う。



 先ほどまでは、私も含めて周りの皆が錯覚の中に囚われ続けているかのような状態だったのが、この『杖』のおかげで一歩耐える事が出来た様な感覚があったのだ。



 そのおかげで、一度冷静になってみると、途端に現状のおかしさなどが浮き彫りになって、今となっては『異変だ』としか感じられなくなっていたのである。




 ……正直、何が役に立つか分からないものだが、助かったと思えた。

 先ほどまでの状況はまるで誰かの『まやかし』に掛かっていたかの様にも思う──



「…………」



 ──なので、それに思い至った瞬間から私は、すぐさまこの場所から立ち去る事を決めたのだった。


 ……また、例の何かしらの存在の思惑に嵌っている感覚があったので即離脱である。



 ただ、もしも今回のはまたいつもと少し違う様な感覚だったのだが……まあ、いつもの奴らとは多少違った相手だとしても、今回の相手も決して良くはないものである事に違いはないと私は感じたのであった……。




 そう言う訳で、私は再度懐から『木のお面』を取り出すと、すぐさまにそれを己の顔にスポンと被せて、街の出口へと向かう事にしたのである。


 ……生憎と、先の不思議な感覚のせいで曖昧にはなっていたが、この地域一帯への『魔力生成』は十分に及第点と思える位まで、感覚として『世界』に返せたと思うので、さっさと私はまた別の場所へと赴き、引き続き『魔力生成』をしていこうと思ったのだった……。



「…………」



 因みに、その後もぞろぞろと私が街を出るまで街の住人達は追いかけて来たのだが……。


 一応は暗い雰囲気もしていないし、恍惚とした表情をしている者ばかりであった為『元気になった』と言えなくないのかもしれないと……私は思う事にした。


 だがまあ、敢えて言うまでも無いけれども、なんかこわかった。怖すぎたのである。



 ──その為、結局は直接的な危害を加えられる事はなかったが、言葉に出来ない気持ちの悪さから逃れる為にも、急いでこの街から逃げ出す私なのであった……。






またのお越しをお待ちしております。


(ホラー要素は少し苦手なので、極力避ける方針)

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