第524話 到来。
白い兎さんの住む雪山は、年中雪が降る場所でもあった為、季節の変わり目は少しだけ分かり難かった。
だから、気づいた時にはいつの間にか新しい芽吹きの季節に入っていたらしく、私たちは随分と長居をしていた様なのだ。
「…………」
この頃の私たちと言えば、『カッコいいお面作り』をエア達がしてくれた後に、その完成したお面を使って観賞会的な事をしながら楽しく過ごしていたのである。
と言うのも、エア達が褒め上手と言うのか、皆が『お面が似合うよっ!』と言ってくれるものだから、白いローブのフードを確りと被ったまま私は『三種の面』を代わる代わる着けてはポーズを取り、その様を製作者達が『ニマニマ』としながら見て楽しむ謎の遊び(?)に皆して興じていたのであった。
時には、『ロム!そこで剣を構えてみてっ!』と注文されたりもするので、私は普段あまり手にもって振るう事のない木剣を、思い思いに剣士っぽく構えてみたりして、エア達と一緒に楽しんでいたのである。……あまりこういった事をした経験がないので、ほぼほぼなんとなくでやっていた。
……ただ、一見して『怪しげな魔法使い』にしか見えないのに、『何故に剣士ごっこをしているのか?』と問われれば──そこに大した意味も無いのである。
あの瞬間は、あの何とも言えない馬鹿馬鹿しい遊びに全力を出す為だけの時間だった。そんな不思議な気分だったからとしか言い様もないのである。
ただただ、そんな何でもないごっこ遊びが、みんなして無性に楽しく感じてしまうテンションだった……。
そして、その後もそんな遊びは加速していき、基本的に私は魔法使いとして『杖』は持たない主義なのだが、敢えてエアの『木工』の練習になればとも思って一緒に『杖作り』もしたのである。
……まあ、感覚派の魔法使い達からすると、『魔法は全て己の身一つで完成させるものだ』と言う拘りもある為、『杖を使うのは邪道かつ未熟者の証だ』みたいな考え方はあるにはあるのだが。
──不思議と、その『怪しげな魔法使い姿』である私には『杖が良く似合う』と言うそんな話が出てきてからは、そんな些細な拘りには一切誰も気にならなくなり、色々と『ポーズに似合うためだけの杖』も作ったりして皆で更に楽しんだのである。
実際、『そんな杖作ってどうするの?』と思うようなものばかり、愚かにも作ってしまった訳なのだが──それはそれで凄く楽しかったのだ。
中には、『おどろおどろしい音が鳴るだけの杖』とか、『空を飛ぶ時用に不思議な発光をする杖』など、殆ど使う場面が無いと思えるものもあった。
だが、そんな面白道具の一つ一つを一生懸命相談しながらエア達と作っては、エア達は心から笑い転げていたのである。
最終的に、折角作ったのだからと『おどろおどろしい音が鳴る杖』は『怪しげな魔法使い』の普段使いの『杖』に決定し、この先の旅路でも活用していく事になったのだった。
まあ、そんなどうしようもなくお馬鹿でとても楽しい時間を私たちは過ごしたと言う話である……。
「…………」
……ただ、そうして楽しく過ごしながらもちゃんとやる事はやっていたりもする。
『魔力生成』の感覚に慣れる為の訓練も順調だし、『内側』では白い兎さん達の新しいお家となる『雪山』も確りと完成させていたのだった。
よって、兎さん達も『神兵達』が出る様になった危険な雪山から全員がお引越しする事になり、私たちはその手伝いに奔走したりもしつつ、実際に熊などの獣を喰らった『神兵』が現れた際などには『怪しげな魔法使い』が、『おどろおどろしい音が鳴る杖』を使って、撃退に向かったりもした。
……因みに、その時の戦いの様子なのだが、『怪しげな魔法使い』と『おどろおどろしい音が鳴る杖』の相乗効果により、その雰囲気だけで流石の『神兵』も臆してしまったのか、一目散で逃げ出してしまって──それがまたエア達の笑いを誘ったのだった。
「…………」
……まあ、その様な感じの事をしていると、あっという間に芽吹きの季節になっていたと言う訳なのである。
──それに、ちょうど雪山でやりたいと思っていた事も大体終えたタイミングでもあった為、『外側の私』は気づいたその日に、長らく過ごした雪山から離れる事にしたのであった。
なんとなくだが、『思い立ったが吉日』とも言うので、そのまま旅立った訳なのである。
……まあ、よくある冒険者らしい出立ではあった。
だが、勿論の事、今の私の恰好は『怪しげな魔法使い姿』であり、私の手には『おどろおどろしい音が鳴る杖』が完備されている。
一瞬、私は自分でも本当に『このままの恰好で行くのか?』と、『何をしているのか』と、正気に戻りかけもしたのだが──何とも言えない上機嫌は未だ継続中だった為、結局私は意気揚々とそのまま下山してしまったのだった。
……因みに、今日の『外側の私』が着けているお面は、白い兎さん作『真白のお面』で、『内側の私』は『炎舞のお面』を着けている。
ただ、これら二つのお面は一見すると少し派手な部分もあるので、旅に出るに際し、変に悪目立ちする事を避ける為には、いつでもエア作のお淑やかな(?)『木のお面』に取り換えられる様にする必要があると考え、常に懐に携えているのであった。
なので、このまま下山して街へと辿り着いた時に、周りの雰囲気を感じて『悪目立ちしそうだな。避けなければ』と思ったのならば、すぐさま臨機応変にお面を変更して対応していこうと考えているのである。
──という訳で、実際にその格好のまま、私は麓にある街にまでやって来た訳なのだが……
「──な、なんだ貴様っ!こちらに近付いて来るなっ!それ以上近付けば攻撃するぞっ!!」
……と、いきなり街に近付いただけで、その街の兵士だと思われる男性達に攻撃されかけてしまったのだった──。
「…………」
……ただまあ、これは先ほども言ったが、案の定ではあったのだ。
流石にこの風貌なので、怪しさ満点なのは言うまでもない。私でもそれは十分に理解出来ている。
そして、既にこうなる状況もちゃんと予想ができており、その対処法も確りと用意してあったのだ。抜かりはない。
──なので私は早速と、事前の予定通りにエアの『木のお面』を懐から取り出すと『──サッ』と一瞬でお面を取り換えて、悪目立ちしないように対応したのであった。
……うむ、恐らくはこれでもう平気である。
すると、当然、これによって街の兵士達も『──あっ、お面が変わったぞ。という事は、ちょっと怪しげな魔法使いが来ただけなのか。ならば、もう怪しくも無いし、これならば街に入れても良いかな!』となる筈なので──
「──なんだこいつはっ!いきなり『変な』ものを取りだしたぞ!それに急に顔も変わったっ!!!化け物だッ!!!」
「──恐らくはまた例のヤツの仲間だろうっ!敵襲だっ!敵襲ーーっ!」
「また『異形』が現れたぞーー!警報を慣らせーーっ!」
「…………」
──だがしかし、どうやらそんな私の予想は大きく外れてしまったらしく……。
『神兵達』の騒動が未だ尾を引く中、のこのこと『怪しげな魔法使い』姿で街へとやって来てしまった私は、早速『異形の存在達』の仲間として街の者達と争う事になってしまったのだった……。
またのお越しをお待ちしております。




