第522話 先行。
今後も笑顔で一緒に居られる様に、日常生活での注意点を私達は沢山話し合う事となった。
『小まめな水分補給は大事だよ』とか、『食事時間と睡眠時間は定期的に!』とか、『忘れそうな時にはみんなでお互いに注意し合おうね!』とか……私の魔力による効果が周りに影響を与えたとしても大丈夫な様にと、そんな些細な決まり事をふんわりと話していったのである。
今後どんなことが起こるのかもまだ定かではなかった為に、ガチガチな約束事にはしなかったのだ。自然とそうなっていた。
一緒に居たいと思ってくれて、そんな小さな事まで真剣に話し合ってくれるエア達の姿を見ていると……それだけで私としてはこう、なんと言うのか、溢れ出て来る様な嬉しさから『心』がいっぱいになるのを感じていた。
こういう時、本当に笑顔の一つでも見せられたらと、つくづく思う……。
「…………」
……現状において、判明している『元気の芳香』(エア命名)の効果範囲からすると、影響の出なかった精霊達も居た事から、『私と特に近しい者達』にしかその効果は出ないだろうと言う予測はついている。
──だがしかし、当然の様にその効果がずっと続くかは分からないし、変化しないと言う保証も無い。だから、これから各地を歩いて行き、生成した魔力を『世界』へと返していく事も考えると、その途中で出会った他の人達にも影響が出てしまう可能性も絶対にないとは言い切れないだろうと私たちは判断した。
そこで、そうなった時に困らない様に様にする為にも、事前に対策を考えておくべきだとエアは言い、私達はその意見に深く頷いたのである。
「──特に、ロムの顔を見ているとそれだけで凄く元気が出てくる気がするんだっ。恐らくだけど、効果は『匂い』だけじゃなく、ロムの顔を見る事でも増幅しているんじゃないかなっ。……だから、他の人達に影響を与えない為にも、わたしはロムに『格好いいお面』を作ってあげるのはどうかなって思うっ!」
「…………」
するとエアから──『お面で顔を隠せば大丈夫なのではないか作戦』が発案された。
『ほう……流石はエアちゃん、一理あるな』『……あるの?』『…………』『……いえ、お顔を見て効果が増幅している気がするのは、きっとエアちゃんがあの方の事を好き過ぎるからではないかと──』
そんなエアの発案にし対し、火の精霊は大変好感触な模様。
……ただ、風と水、それから土の精霊には若干『うーん』といまいちな反応であった。
──でも、そうすると今度は『じゃあ、実際に少し試してみようよっ』とエアは言い出し、ちょっとだけ悪戯な笑みを浮かべて、私の白いローブのフード部分を『ガバっ!』と私の頭に被せてみたり、また『バサッ』と直ぐに外したりしてそれらを繰り返す事で精霊達の反応を窺っている。
その時の自信満々なエアの様子からは『──ほらほらどう~?みんなもわたしと同じ気持ちだから分かるでしょう~?みんなもロムが大好きな事知ってるんだよ~』と、まるで催眠でも掛けているかの様な話し方であった。
……でも、案の定と言うのか、エアのその話し方は四精霊に効果抜群だったらしく『ぐぬぬ、た、確かにっ……』と不思議な説得のされ方をしていたのだ。なんとなくだが、どちらも楽しそうである。
「…………」
……まあ、『魔力生成』に伴う不思議な元気効果(『元気の芳香』)は未だに分かっていない事も多いので、何が対策になるかも正直言って不明であった。
だから、実際にエアのその意見も有効かもしれないと、結局は取り入れて様子を見てみる事にしたのである。
──ただし、その結果として暫くの間、私はその『カッコイイお面』が出来るまではずっと白いローブのフードを常日頃から深くかぶって過ごす事が決定したのであった。
……なので、一見すると今の私は、ただただ怪しげな白い魔法使いである。
寧ろ、こちらの方が周りの人々へと悪影響を与えそうな雰囲気が漂っている気がしないでもないが、深く気にしたら負けだろうとあまり考えない事にした。
まあ、今の内だけなので問題はないだろうとも思う。私としてはエア達が楽しそうな事の方が余程に重要だった。
なので、そんな話し合いの間もずっと、私はエアや精霊達からされるがままに任せておいた訳で、私の事を好きな様に弄れるのが皆からしても意外と楽しかったのか、エアも精霊達もかなり嬉しそうである。
私としては、そんな皆の姿がなんとも微笑ましくて、嬉しそうな姿を見られるだけで自分の事の様に嬉しくなってしまうのだった。
……ん?今度はなにかな?ほう、もう少しだけ目線が隠れる位がクールだと?この辺かな?いい?大丈夫?完璧になった?うむ、そうかそうか。
「…………」
──ただ、そうしてエア達が私のフード調整を終えると、次は私が実際に装着する事になる『お面について』の話し合いになり、そこで今度は『誰がロムの初めてのお面を作るのか』という部分へと話の焦点は移っていくのであった。
「言い出しっぺだし、わたしがっ!ロムのお面を作ってあげたいっ!」
……すると、先ずはキラキラとした美しい笑顔と共にエアのそんな声が『内側』にて響いた。
その表情を見るに、余程作りたい事が分かる。うむ、私としては有難い限りであった。
だがしかし、その瞬間に傍から『待った!』が掛かる──
『──いやいやいや、エアちゃん。ちょっと待ってくれるか。流石に物作りの話が出たからには俺たちも手を挙げさせてもらうぜ?……それも旦那の初めての装備品だ。普段は自分で作ってしまう旦那の装備品を誰かが作れるって言うのは、俺達火の精霊からすると、普通に『夢』の一つとして語られるほどなんだわ……だから、今回ばかりは簡単に譲れない。そもそも、面を作るってのも素人に任せられる案件じゃないんだぜ?』
私は、そんな火の精霊の話に『……えっ、そうだったのか?全然知らなかったのだが』と、内心で驚きを覚える。
正直、言ってくれれば好きなだけ作って欲しい位だったのが……と。
ただ、精霊達のその純粋な気持ちは素直に嬉しくも感じた。
「…………」
……それに、逆に純粋だからこそ、本当に求められた時にこそ作ってあげたいと言う強い思いがある事も、私は直ぐに察せたのだった。
──要は、作り手として、同じ『喜ぶ』にしても、単純に『貰って嬉しい』と思われるよりも、使用者に『役立ってくれて嬉しい』と思って貰える方が充足感が違うのだろう。
恐らくだが、『観賞用の剣』を作るか『実戦用の剣』を作るか──みたいな感覚にも近しいと思うのだが、精霊達の言いたい事も十分に私は理解出来たので、その想いの深さも伝わりなんとも嬉しくなってしまうのであった。
「──でもわたし、ロムの事大好きだからっ!わたしが作ってあげたいっ!」
『いやいや、俺たちだって旦那の事は大好きなんだっ!作りたい気持ちはエアちゃんにだって負けないんだぜっ!』
「…………」
……あっ。
いや、その、なんと言うのか、照れてしまうな……。
こ、こういう状況はあまり経験が無いので、私はどうしたらいいのだろうな……。
──ただ、このままだとほぼ間違いなく、エアも精霊達もどちらも引けなくなりそうな気配がそこにはあった。
……私としては両方から貰えたら嬉しいのだが、『初めてのお面を渡す』と言う限定イベントにどちらも拘りがある様に見える。
だが、冷静さを少し欠いている様にも思えたので、このまま熱くなって言い争いや喧嘩などに発展なる前に、その欠けを私の方で埋めておきたいと思った。
……両者の気持ちは嬉しくとも、それで大切な者達同士が傷つけあう姿は見たく無いのだ。
だから、君達の支えとなれるように、私も瞬時に手を打たせて貰う。
──という訳で、早速私は頼りになるお助けキャラを【召喚】する事にしたのであった。
……まあ、言わずもがな我らの愛らしいヒーローこと、白い兎さんである。
『内側』での話し合いの様子は、『外側の私』を通して随時伝えてもいたので、白い兎さんに協力して貰う事にしたのであった。
「…………」
……と言うか、もっと言えば、エアが『カッコいいお面』を作るのはどうかと話し始めた段階で、既に白い兎さんは可愛らしいお手手で雪を『ギュッギュッ』と魔力を込めながら押し固めており、大体のお面の大きさまで固め終わると、最後には『兎さんパンチ』で目の部分だけ見えるようにし、お手製の『真白のお面』を作ってくれていたのであった。
そして、出来上がったそのお面は直ぐに『外側の私』の顔へと『スポン』と被せてくれていたのである。……どうやら、エア達がこの様な状況になる事も予測して、白い兎さんは敢えて悪役を買うかのように先んじてお面を作ってくれたらしい。
──そ、そうよ。しょうがないから……特別にね……』と、スピスピと鼻を鳴らしながら尻尾をフリフリしつつ、白い兎さんはそう言っていたのである。
私は、そんな白い兎さんの優しさに深く感謝したのであった。
「…………」
──という訳で早速、私は白い兎さんが作ってくれたそのお面を『内側の私』へと装着させると、既に白い兎さんによって『初めて』のお面は作って貰っていた事を正直にエア達へと伝えたのであった。
「──えええええーーっ!早いよーーっ!!」
『……それに、中々の作りだぜありゃ。シンプルでありながらとても美しい。それと、旦那の顔に沿う様に完璧かつ柔らかに湾曲していて、呼吸などは苦しくない様に魔力でちゃんと付与もしてあるのか──短時間で作ったとは思えない出来だ。やるなぁ』
「こうしちゃいられないっ!わたしも作って来るっ!」
『俺達もだ。──そうだ、エアちゃん!使いたい素材などがあれば言ってくれよ。初めては逃してしまったが、ちゃんとみんなで良いもの作って、旦那にもっと喜んで貰おうぜ!』
「──うんっ!」
「…………」
──そうして私は、急遽始まった『カッコいいお面作り』に走るエア達の後姿を見つめつつ、微笑ましく想うのであった。
……内心、お面を着けた時にちょっとした言い争いくらいは起こるかもと想像してたが──その様な事も無く、正直『ほっ』と一安心している私なのである……。
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