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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
521/790

第521話 無欠。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。




 『性質』が変わっても、あまり『人』であった時と変わらないのかもしれないと、自分ではそう思っていた……。



「…………」



 ……だが、違ったのだ。


 『化け物』は『人』ではない。その事がよくわかる出来事だった。


 私(化け物)にその気が無くても、自然と私は『人』を傷つけてしまう。


 ──それこそが『化け物』の本質なのだと。



 その気が無くとも、大切に想っている人達を知らず知らずの内に傷つけてしまう己の『性質』を……私は嫌だと『心』で感じていた。



 だが、それを思いながらも、今更『人』には戻れなかった。



 一度変更した『性質』をまた元に戻す事が出来るのかはさておき、『魔力生成』と言う『力』は『大樹の森』にとっても『世界のバランス』にとっても、今後絶対に必要になってくる──無くてはならない『力』なのである。



 膨大であると、まさか足りなくなるなんてと、そう思っていた『世界の魔力』が、一部(・・)『大樹の森』へと移しただけで簡単に『世界の魔力量と淀みのバランス』は崩れてしまった。

 だから、その事実を受けて私は思ったのである。



 ……つまり、『世界の魔力』だけでは『二つの世界を完全に支える程の、魔力量は無いのだ』と。



 ならば、私が『精霊達の安住の地』であり──『私と大切な者達との家』でもある『大樹の森』を完全に維持していこうとするのであれば、私の『魔力生成』は『必要不可欠』なのだろうと。



 ──『領域』として、みんなを守る為には、最早『化け物』でいる以外の選択肢が私には無かったのである。



「…………」



 ……だが、だからと言ってまさか、その代償とでも言うかの如く、私が生成した魔力の副次的な効果によって、エア達の命を危機にさらす事になるとは想像もしていなかった。そんなつもりはなかった。



 大切な存在を守る為に『力』を得たのに、その『力』によって大切な存在を傷つけてしまうなんて──なんとも本末転倒な話である。



 それこそ、まるで人気のない劇の一幕を見せられているかの様な気分だった。


 ……そして、そんな劇の題目はきっと──皮肉にも『化け物の苦悩』とでもなるのだろう。



 分かっていながらも、自然と己と周りを傷つけてしまう『化け物』の愚かしくも悲しい物語だ。


 そして、きっとその劇の最後では『化け物』は、自らの命を絶つのだろうな。


 ……愛すべき人を守る為だと言って。


 その『人』達の幸せの為に──。



「…………」



 ──だがしかし、生憎と私はそんな三流劇の登場人物ではないのである。


 私は、生きている。


 今、この時を、『心』のままに、全力で生きているのだ。


 誰がそんな陳腐な結末など迎えてやるものか。


 そもそも、私はエアの笑顔が好きなのである。


 そんな結末を迎えてしまっている時は、きっとそのエアは笑顔ではないだろう。


 だから、ダメだ。そんな選択肢は選べない。


 それ以外の結末へと至れるように、私は道を模索し歩み続けるのみである。


 エア達とずっと一緒に、笑顔でいられる様に──




「──わかったっ!じゃあ、これからはもっとご飯を食べる様にすればいいのねっ!……あっ、でも、大丈夫かなっ。間食が増えると、ちょっとお腹周りが気になるかも……最近は、お酒もちょくちょく飲むしっ……うーん……」


「…………」



 ──『化け物』と『人』のより良き歩み方を、共に見つけていきたいと思うのだ。


 ……それが現状の、私の『答え』であった。



 おんぶしながら食事を終えたエアは、直ぐに私へと『何で急にご飯を食べる様に言って来たのか』と訊ねて来た。


 なので、私はエアを背から下ろすると、その理由と懸念していた事──そして特に危うく兎さん達やエアを殺めかけてしまった事を正直に語り、それについて直ぐに謝罪したのであった。



 ……するとエアは直ぐに首を横に振ってみせ、『ロムのせいじゃない』と語る。


 そしてその後に、先の言葉と共に微笑みを浮かべたのだった。



 『無理をさせてしまう』かもしれない『力』だが、それは言い換えれば、『ロムの傍ではみんなが元気で居られる力』なのだと。『みんなを幸せにしてくれる力』なのだと。『ロムの優しさを感じる力なのだ』と──。



 『化け物』となっても、変な『力』を手に入れたとしても、『ロムはロムだよ』と。

 『みんな分かってるし、みんなロムの事が大好きなんだから』と。

 『きっとみんなで気を付けていけば大丈夫だよっ』と。



 ……エアはそう語ってくれたのだった。



 正直、その途中で既に、私の『心』の中は、『雫』が滝の如く『ザーザー』と降り注いでいたと思う。……もう、手拭いをどれだけ集めても、その『心の雫』は拭え切れない気がした。



 同時に、そんなエアの『あたたかさ』をまだ(・・)ちゃんと感じられる『心』を残しておいた事を、私は嬉しく想ったのだ。



 ……消さないでおいて、本当に良かったと思う。



「…………」



 ……『人』には、少なからず何かしらの『欠点』が存在するだろう。


 だが、それはきっと『化け物』においても一緒なのである。


 だから、今回の『匂い』もそんな欠点の一つなのだと捉える事にした。


 そして、『人』は時に、その『欠点』を愛する事ができる事を私は知っている。


 ……当然、それが別れの原因になる事も多いけれど、中にはそれを受け止めて、その『欠け』を埋めてくれる存在が居る事も私はちゃんと知っているのである。



「……私も、気をつけよう。みなが大好きだからな。そして、勿論エアの事も──」


「──うんっ、愛してるよロムっ」



 そして、『化け物』にも『心』がある限り、それは一緒なのだ。


 私も皆の『欠け』を埋めてあげられる存在で居られるのである。


 つまり、私たちは『一緒に居ていい存在』なのだ。


 互いに『欠け』を埋めあっていける存在なのだ。



 例え、時にその『欠片』で互いを傷つけあう事になったとしても、『化け物だから』とか、『人だから』とか、そんな理由で離れなくてもいいのである。



「…………」



 ……すると、そこで無邪気に微笑んでいたエアは何かに思い至ったのか、私と密着するくらいまで一歩近づくと、自然とまた私を『がうがう』出来る距離にまで入ってきたのであった。


 そして、そのままの流れで、エアはまた私の事を食べようと思っているのか、私の顔を見上げながら両手を私の頬の方へと伸ばしてきて、背伸びもしてきたのである。



 そうすると当然、私たちの顔と顔は近くなっていく訳で……。


 ……きっと、そのままで居れば、私はまたエアの『熱』を分け与えられる事になるのだろうと、それがなんとなく分かったのだった──。



「…………」


「──えっ」



 ──だが、どうやら今日は私の方がエアよりも少し『心があたたかかった』様で……。



「……んっ!」



 ……気づけば、自然と私は気持ちの赴くままにエアの両手を躱しており、逆にエアの顎先へと軽く手を添え上に向けると、自分からエアへと『熱』を分け与えていたのだった──。


 正直、それの前までで、エアがたくさんの嬉しい事を言ってくれたおかげもあり、私も想いが溢れてしまったのだろう。……ほぼほぼ無意識のまま、暫く奪ってしまっていたのだ。



「…………」



 ……だが、どうだろうか。

 こんな私でも、君の欠けを少しでも埋めてあげられているだろうか?

 私はエアから沢山貰っているのだが、それを上手く伝え返す事が出来ている自信があまりなかった。



 ──ただ、それに対する『答え』を導く為の『問いかけ』をするには、口下手な私には少々難易度が高過ぎたようで、上手く声には出てくれなかったのである。



 だからとりあえず私は、『ストン』と背伸びしていた踵が落ち、こちらを『ぽーっ』と見上げて来るエアの珍しい表情をみつめながら、なんとかその気持ちを察しようと思った訳なのだが──。



「…………」



 ……うむ。正直よくわからん。

 ただ、顔を赤らめてエアはまた微笑みを浮かべているので、少なくとも間違ってはいなかったのだと思われるが──。



 ──まあ、その先は推察する暇もなく、再度エアから確りと私は逆襲を受けてしまい、またも私はエアに『がうがう』されてしまうのであった……。



 ……因みにエア曰く、今回の一齧りのお味は『スパイシーな甘さ』だったそうだ──。






 ……うむ。尚更よくわからん。



またのお越しをお待ちしております。

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