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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第514話 跫音。





 『人』であることを諦めた日から──数日後。


 私はとある地方へと向かって、空を飛んでいた……。



 正直、諦めたと言うと聞こえが悪いかもしれないが、あの後直ぐに私は『新たな力』を得る為の準備を始めたのである。



 その為に先ずは涙するエアを『内側の私』の方へと送ってゆっくりと休ませると、『外側の私』は『土ハウス』を収納に仕舞って『山頂付近の隠れ家』に居た『神兵』の元へと帰り、魔法によって拘束していた彼を解放したのであった。


 ……因みに『街に溢れていた神兵達』に対しても、結局は何も手出しをしないままに放置することだけを決めたのである。



「…………」



 ……と言うのも、正直、街の商人やドワーフ男性の顔が思い浮かんだ為に、何も出来なかったと言うのが正しい。やはりどうしても彼らを倒そうとは思えなかったのである。



 無論、『彼らはもう別人なのだ』と、『いっそ知己を喰らった仇に近しい存在なのだ』と分かってはいても……それでも今回だけはと、『神兵達』を見逃す事にしたのであった。



 ──ただ、当然の如く今回だけである。

 次に会った時には容赦するつもりはない。

 もしまた襲い掛かって来る様な事があれば、その時は例え彼らに『心』があろうが無かろうが、関係なく『敵』として対処するつもりであった。……なので、出来ればもう出会わない事を願うのみである。



「…………」



 それに精霊達からの話を聞くと、各地の混乱も結構酷い事になっている様なので──私は大元の原因を解消する為にも、早く『人』としての『性質』を『魔力生成』に変化させる為に、行動を急いだのだった。



 ……だが、実際は思っていた以上に色々な街や森が『神兵達の解放』で騒ぎになっており、『外側の私』がゆっくりと身体を休めて安全に『性質』を変化させられそうな場所が中々みつからなかったのである。



 その為、最初はそれこそ『山頂付近の隠れ家』をまた使わせて貰おうかとも思ったのだが、あの場所の入口付近には『黒壁の神兵』が寝ていた為、万が一の事を考えて別の場所に行く事にしたのだった。



 ……因みに、『黒壁の神兵』が寝ていた理由は、傍に大きな酒樽が幾つか転がっている事から察して欲しいと思う。



 何となくだが、魔法の拘束を解いた後──試しとばかりに酒樽を並べて私自身は姿を隠してみたのだけれども、まさかあれ程機敏に酒樽へと走り寄って行くとは思いもしなかったのである。



 それも、恐らくだがあの時の彼の速度は私に襲い掛かって来る時の三倍は足が速かったと思う。

 ……当然、そんな『神兵』の様子に私は間違いなく彼の『性質』を感じてしまったのだった。



 ──だからそんな姿を見てしまうと、彼を倒すなどと言う選択肢は私には選べなかった訳で……。



「…………」



 ……でもまあ、そのおかげで一つだけ分かった事もあり──『人』が居ない時に限っては、彼ら『神兵達』は元となった『人』の『性質』にかなり近しい行動を取る事が分かったのだ。



 恐らく『人を襲え』と言う『神兵』の大元の『性質』がその原因になっているとは思うのだが、『人』を前にすると彼らは何においても襲い掛かって来てしまうのだと思われた。



 なので、『人』が居ない時にだけ彼らは『心』を取り戻し、元となった『人』の『性質』に基づいた行動取るのだろうと私は気づいたのである。……実際、私が見えない間の彼もかなり大人しく酒を飲んでいたのだった。



 それに、街においても遠目に少し見えただけなのだが、『人』を感知していない時の彼らはまるで『人』と同じ様に会話をし、笑い、怒り、悲しみ、生きる事を楽しんでいる様にも見えたのである。



 無論、まだ生まれたばかりの剥き出しの『心』と、初めて見るものばかりで好奇心の赴くままに行動するばかりであった為に、街の中では異形達がただただ街を破壊している様子も見られたが、一部では普通に平和そうに談笑する姿がそこにはあったのだった。



 ──なので、そんな光景を目にしてしまうと、またなんとも言えない複雑な感情を抱いてしまう訳で……。



「…………」



 ……まあ、『神兵達』を倒そうと思えなかったのはそんな理由からであった。


 ただそうなると、今度はまた『安全な場所』が見つからずに、このままでは右往左往するばかりで……急がなければいけない時に限って『あれやこれやと』色々な問題が見つかる事も多いが、その時に似た焦りを感じてしまう。



 『早く魔力を生み出せるようにならなければいけないのに──』と、そんな言葉が頭を占めようとしていた……。




 『────』




 ──するとだ。その瞬間、大変な時にこそ遅れてヒーローが登場するかの様な、そんな絶対的な安心感を与えてくれる感覚と共に、『一つの想い』が遠くから私の元へと魔力に乗り空間を超えて届いたのであった……。



 『……どうしたの?何か困ってない?──良かったらうちの雪山に来れば?』と──。




またのお越しをお待ちしております。

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