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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
513/790

第513話 捧。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。



 『……また、消えちゃったりしないよね?』と尋ねてくるエアの声は、若干だが震えている。


 ……握られた手は少し痛むが、それ以上にとてもあたかかい。



 『魔力を生み出す』と言う事が何を意味するのか──『その為に何が必要なのか』、エアは自分で考え付いたのだろう。


 ……そして、私の考えそうな事も予測し、これまでのエアの経験から『もしかすると、ロムはまた消えようとしているのではないか……』と、咄嗟に思い至った訳だ。



 ──正直、『なんと鋭いのだろうか』と私は想った。



「…………」



 ……実際、それも考えた為に、内心では『ドキリ』としていたのである。


 エアの懸念はほぼほぼ正鵠を得ていると言っても過言ではない。

 それこそ以前までの私であれば、そんな選択肢も普通に選んでいたかもしれないのである。



 『それが必要であるならば仕方がない』とか、そんな事を思いながら……。



 ──だがしかし、今の私は、当然そんな選択肢を選びたくは無かった。


 ……その点だけ、エアは読み違いをしている。



「──エア、心配せずとも私は消えたりしない」



 なにしろ、私は君を愛しているのだから──。(口には出せなかった)。



 ……ゴホン、と言うか、そもそもエア達と離れ離れになるなんて、私の方が嫌なのである。

 以前、干渉し合えない状態になってしまった事があったが、あの時の寂しさは想像以上であったと再度思い出したのだ。正直、あれは今思い出しても痛感する程に辛かった。



 だから、もう二度とあの時と同じような状況になる事だけは避けたいと、私も強く思っているのである。



「……ほんとうに?」


「……ああ、本当だ」



 ──ただそうは言っても、実際にエアも懸念している通り『実際に魔力を生み出すためには、何かしらの消費をする必要がある』と言う事に間違いは無かった。



 なにせ今の私では、どうしたって『完全なる無から有を生み出す』事など出来ないからである。

 その為、ある程度の『無理のない消費』は必要だと感じた。



 ……ただまあ、それがどの程度必要か、またどれだけの魔力が生み出せるのかなどは、試してはいないのでそれ以上の事は言えず、明言を避けるしかなかったのである。


 『余計な心配もかけたくない』と思って、敢えて多少ぼかした説明をしてしまったのもそんな理由からであった。でも、逆にそれが不安にさせたようで、すまなかったとエアには思う。




「──じゃ、じゃあ、ロムは何を消費するつもりなのっ?」


「……うむ、現状では『心と身体』以外(・・)のものを考えていた」



 今の所ではそれが、エア達と一緒に居ながらにして、私が『魔力を生み出す』為に使える全てだと思う。



「えっでも、『心と身体』以外って?……そんな都合の良いもの──」


「──ああ。厳密に言うならば、現状は私が『人』である為の、『性質』を使おうと考えている」


「…………」


「……なので私は、『人』である事を諦めようと思うのだ」



 本音を言えば、それは要らないものではない。

 ……ただ、決め手となったのは、優先順位の問題だった。


 と言うのも、私は『人』であることに拘るよりも、エア達と『一緒に居る』事に拘りたいと思ったのだ。


 そちらの方が余程に、私からすると大事だと思えたのである。



「……ろむ……」



 ……まあ実際は、『心と身体』が残っている訳で、それは私の判断基準からするとまだ『人』の範囲内なのだが──周りからするとその判断基準も異なるだろうと思い、敢えてそんな言い方をしたのである。



 ──更に言えば、私はもう『化け物』でいいと思った。



 それで大事な者達を守れるならば。エア達と共に生きていけるならば──。

 『人』か『化け物』かなんて、些細な問題であろうと。



 それに、この身体は既に『領域』なのである。

 なので、その『領域』に新たなる属性として『魔力を生み出す』機能を付加するだけの話だ。

 そう考えれば、かなり分かり易くなるだろうと私は思った。



 ……『魔力を生み出せる様になる』。そうすれば皆が助かるし、私がこれまでして来た事の清算にもなる筈だ。

 私はこれ以上、宿の代金を払わずに逃げる様な真似はしたくなかった。

 一冒険者としても『潰されても仕方ない』様な、そんな恥知らずにはなりたくなかったのだ。



 それに『大樹の森』も『別荘』も、この先の管理維持や、更に拡張する事を考えれば魔力はまだまだ必要になる。


 なので、私が自分で魔力を生成できるようになることはきっと必要なことなのだと思う。

 『世界』の方にも、まだまだ他の精霊達が多く住んでいるし、これ以上の負担はかけたくなかった。……あちらはあちらで、今は大変だろうしな。




「──でも、そうするとロムはどうなっちゃうの?……当然、リスクはあるんでしょっ?」


「…………」



 ……うむ、現状だとそれも予想する事しか出来ないが、感覚的には自分の中に残っている『性質』から『人』の根源的な部分である『食欲、睡眠欲、性欲』などを幾つか消費する事によって、それの代わりに『魔力を生み出す』と言う『性質』を己に『付加』させるわけなのだが──




「──それをすると、きっと一緒に美味しいものを食べても、私は美味しいとは感じられなくなってしまうだろうな」


「──ッ」



 他にも、エア達と一緒に『大樹の森』の花畑の中心で、微睡みの中、幸せを感じながら気持ち良い眠りに落ちる事もできなくなるかもしれない。

 もしかしたら身体に変調をきたし、これまでは出来ていた動作が出来なくなる恐れもあった。



 ……ただ、逆に利点もあって、私と言う『領域』は魔力さえあれば存在して生きていけるので、消える事は無いと思う。寧ろ、自分で『魔力を生成できる』と言うのは『領域にとってはこれ以上ない強化』に繋がるだろうと感じていた。




「──だから、これからはエアが私に色々と教えてくれると助かる」


「……ぅっ……ろむ……」


「美味しいものや、微睡みの気持ち良さを、沢山聞かせて欲しい──」




 ……なーに、不器用な男が更に輪をかけて不器用になるだけの話なのだ。

 たったそれだけのリスクで、皆を守れる上に、世界のバランスまで整えらるなら素晴らしい事だと私は思う。



 ──だから、どうか泣かないで欲しい……。



「──なんでぇっ……ろむだけっ……そんな……わたしは、なんでまだ……」



 ……するとエアは、私の手をまた『ギュッ』と強く握りしめながら、とても不思議な涙を流していた。


 なんと言うのか、その姿は単純な悲しみと言うよりも悔しさで涙を流している様に私には見える。



 私を『一人にしたくない』と言ってくれる心優しい愛しき存在は、それをただただ悔いているようであった。



 私一人にその任を背負わせてしまう事と、まだ肩を並べるだけの『力』を持たない己の無力を嘆いていたのである。



「…………」



 ……たった数十年で『差異』へと至った者が、『まだ足りない』と自分に言って涙しているのだ。


 ──それはなんとも頼もしい話で、思わずまた微笑ましくなった。


 ……私は、それほどまで想ってくれる君の傍に居られるだけで充分幸せ者だ。



「……エア」


「……うぇぇ……んぐっ……ぅぅう……うぐっ……」



 エアが握りしめているのは私の左手だったので、私は残った右手を使って【空間魔法】の収納から新品同然の手拭いを取りだすと、自分ではまだ一回も使えていないそれでエアの涙を拭い続けるのであった……。



 『私の為に泣いてくれて、いつもありがとう』と、そんな呟きが自然と口から零れてしまい、それが聞こえたエアは、更に涙の量が増えていた──。



またのお越しをお待ちしております。

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