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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第511話 事物。




 『毒々しい槍を持つ者』は再度『ニタリ』と微笑むと、彼女はそこから先私達の知らなかった自称『神々』の裏話も交えながら色々と話をしてくれたのだった。



 また、彼女が此度の件を『泥の魔獣の企み』だと思った理由も、まさにそこに関わって来るらしい。



 ──と言うのも、以前に起きた『マテリアル騒動』に関して、彼女はこう思ったそうだ。



 『マテリアルの適応』で人々が混乱する中、ただ一人冷静であり広範囲かつ迅速な『回復と浄化』を施した事から判断して、あれは最初から仕組んでいた様にしか思えなかったと。

 そうでなければ、複数の大陸を対象に、全ての人々へと魔法が使えるわけがないと。



 あの瞬間、『神々』がしていた事と言えば『狼狽えるか責任の擦り付け合いをするかだけであった』と言う事もあり、『──正直これじゃ、どっちが本当の神なのか分からない。そして、そんな愚かな方の『神々』の命令に従わなければいけない、己の身をすごく歯痒く感じましたわ……』と、そんな風な事を彼女は零すのであった。



 ……そして余談ではあるが、結果的にあれによって人々の『信仰の力』が『泥の魔獣』へと集まった事を最初『神々』は喜んでいたと言うのである。



 ──と言うのも、あのまま『信仰の力』が満ちて行けば、ある程度溜まった所で『泥の魔獣』をそのまま『神々の末席』へと引き込む事が出来たからだと……。



「…………」


「……ロム、危なかったんだね」



 ……うむ、本当に危なかったと私も思う。

 危うく、エア達と完全に離れ離れにされてしまう所だったのだ。


 元々嫌な予感は薄々あったが、まさかそんな仕組みになっているとは思いもしなかったのである。



 それに彼女の話では、一度『神々の末席』に加わってしまうと、今度は『信仰の力』によって力関係が複雑かつ面倒な事になり、『序列』なるものの影響から私は『神々』に好き勝手操られ、弄られていた可能性も高かったのだとか。



 だから、強引に私が『まやかし』を使って人々に偽りの認識を植え付け『信仰の力』を振り払った事は正解であったらしいのだが、『まさかそんな事が出来るなんて』と、『神々』は全く想像すらしていなかったらしい。……思い通りにいかず、悔しそうにする『神々』の姿も沢山見たのだとか。



 ただ彼女の視点からすると、あの一連の出来事は全て『神々』の思惑を読んだ上で私が上手く自作自演し、翻弄していたようにしか思えなかったそうだ。



 ──それに、自称『神々』も『泥の魔獣』の事を厄介だと思ったそうなのだが、結果的にあの騒動によって不思議と『浄化の神』へと『信仰の力』が移った事で『序列』にも変動が生じ、『神々』はその権力争いの方へと躍起になっていったのだと言う。



 一部、『泥の魔獣』の存在を危険視した神などは刺客などを差し向けたりもしていたそうだが、それもあまり効果が無くて、次第に『神々』は『様子見』と言う体のいい問題の先送りを選択する事にしたのだとか。



 元々、『神々』は自分達の得意な分野以外に興味を持つことがあまり無い為に、対応もいい加減でしかなかったのだと言う。……私達からすると大変に助かる話ではあった。



 当然それは、『泥の魔獣』によって『回復と浄化』が間に合い、大きな被害に至らなかったからと言う理由もあるのだろう。それで軽視していた『神々』も多かったそうだ。


 また『マテリアル』と言う新たなる『力』に対しても『神々』は当初から懐疑的で、単なる『淀み』と何が異なるのか殆ど理解が及ばなかった事も理由としては大きいらしい。



 『神々』からすると『浄化の神』とその『序列』にこそ注目が集まっていたと言う事もあってか、正直『毒々しい槍を持つ者』から見ても分かる程に『泥の魔獣』から興味を外すのが早かったと。実際、自分達の身に降りかかりそうな火の粉を払う事の方が忙しかったのだろうと彼女は語った。



 それに注目が集まっていた『浄化の神』の方も、周りの『神々』に対しては凄く怒っていた様に彼女には見えたのだとか──



「『──在り方が汚い。イライラする。全員、浄化してやりてぇ』と口にされている所を、わたくしも一度目にした事がありましたわ。『浄化の神』も良い意味で変な神でしたわね……」


「…………」



 ……ま、まあ、それに関してはさもありなん。恐らく、その存在は余程に『綺麗好き』なのだろうと私は密かに思うのだった。




「──でも、そうして『神々』が余所見をしている間、着実に『泥の魔獣』の計画は進んでいたのでしょう?……だから、偶々『神々』の一人が『世界の魔力濃度に明確な偏りが生まれつつある事』に気づくまで、根本的な問題は何も解決されないままに、じっくりと事を運べていた……」



 そもそも、『魔力と淀みのバランスが崩れている』から『マテリアル騒動』が起きたのだが、結局その後の『回復と浄化』と『信仰の力』に目が行くがあまり、『神々』はそのバランスの乱れに誰も着目していなかったのだと言うのだから驚きである。



 ……ただ、その時になって彼女はこうも感じたらしいのだ。


 『……いえ、待って。もしかしてこれは、そうなるように仕向けた『泥の魔獣』の策略なのではないか』と。

 『……態とあんなにも大規模な『回復と浄化』を世界中に齎すことによって、魔力と淀みのバランスを一旦整えて見せると同時に、自分から目を逸らさせたかったのではないだろうか』と。



 『浄化の神』に『信仰の力』が移った事も含めて、そこには作為的な狙いがあったようにしか思えなかったのだとか。



 ──そして、もしもそれらが全て『泥の魔獣の計画の内なのだとしたら……』と想像した時に、彼女は全ての線が繋がる感覚を得て、『心』が震えたらしい。



 自分だけが、その『陰謀』に気づいてしまった事に、歓喜すらしたそうだ。


 ……彼女達『神人』は『神々』の命令には絶対服従でなければいけないらしいが、その『心』だけは支配から免れており、内心ほとほと『神々』の身勝手さには嫌気がさしていた中で、その『神々』が容易に手玉に取られている様は傍で見ていて甚だ痛快であったと言う。



「──ですから、『泥の魔獣』がとある森に己の『領域』を作り出したと聞いた時は、わたくしはもう驚きませんでしたわ。『……やはりな』と。『全てはその為だったのか……』と。そう思っておりましたの」



 私が『大樹の森』の中に小さいながらも『別荘』を作り始めた位から、『神兵達の解放』が起こる事を彼女は想像していたと言う。



 世界と言う『領域』から、『泥の魔獣』は完全に独立した別の『領域』を作り出した。

 そして、本来は循環する筈だった魔力も大量にそちら側の『領域』へと移されてしまい、自然の中で『淀みを浄化する事』を役割の一つとしていた『精霊達』も居なくなったと聞けば、それはつまり相対的に『世界の淀みが増す』事になると、そうすればその先どんなことが起こるのか想像するのは大変容易であったのだと彼女は言う。



 だから、それはつまり『泥の魔獣』は『神兵達が増える』事を望んでいると……彼女には、そう思えたらしい。……『神々』に必要とされていない者達を、望んでくれる存在が居るのだと。



 『神々』から道具扱いされ、不遇な命令に従い続け、命を弄ばれてきた彼女達からすると、それは『何かが変わる瞬間』が目前まで迫っている様に感じる程に嬉しい出来事であった──。




「──なので、その直後に命じられた『泥の魔獣討伐』と言う命令には、……心底、目の前が真っ暗になる感覚が致しましたわ」



 『何かが変わる瞬間』……そんな希望がほんの少し先の未来に待って居るかも知れないのに。

 『死んで来い』と、そう言われているのと変わらない命令を彼女達は受けてしまったのだ……。



 それは、『絶望』以外のなにものでも無かったらしい。



「…………」


「…………」



 『神々』からすると、『世界と神々と人』の為に『善き行い』をしていると思っての決断だろう。


 ……だが、『世界を守る』と言う、そんな耳に良い言葉を口にしながら──彼女達『神人』や『神兵達』がどうなるかなんて、どれだけの犠牲がでるのかなんて、『神々』は一切考えていなかったのだと彼女は語る。



 それこそ、『必要な犠牲』位にしか自分達は見られていなかったのだと……。

 それを思い知らされたのだと……。



「──どうやら『神々』が言う『世界』の中には、最初からわたくし達の居場所は無かったようですわ」



 だから、彼女は抗った。

 そして、見事に己の『性質』と言う『壁』を打ち破ると、彼女はその『壁』の先でのうのうとしていた『神々』を想いのままに貪り喰らってやったらしい。



「──なので、わたくし達は相容れはしませんけど『泥の魔獣』には深い感謝と敬意を持っているのです」



 多くの仲間達を消し去った元凶でもある為、手放しで仲良くはなれないけれども『本当の自分』を取り戻すきっかけをくれたから、『泥の魔獣』とその企みには感謝しかないのだと彼女は語った。

 ……『ニタリ』と彼女が出来る最上の微笑みを浮かべながら。



 それに、『敵の敵は味方』と言う思惑もあるらしいのである。



 ……厭らしい策ではあるものの、『神人』や『神兵達』と言う手頃な駒が居なくなったとはいえ、未だ『神々の力』は油断できるものではない。


 その為、私達とは争う事無く、『神々』の方にだけ敵意を集中させたいと言う狙いもあったのだと、彼女は素直に白状してきたのだった。


 ……言わばこの話し合いもその為であり、彼女は私達とちょっとだけ仲良くなっておきたかったらしい。



「…………」



 ──そして、これによって世界には不思議で歪な三つ巴に近しい状況が生まれたのだと彼女は最後に語っていた。



 『世界と神々と人』を守る為に、『神々』はそれを脅かす『泥の魔獣』と戦うと。


 『神人と神兵』を守る為に、『神人達』はその尊厳を踏みにじる『神々』と戦うと。


 『精霊達と大切な者達』を守る為に、『泥の魔獣』は襲い来る『全ての敵対者』と戦うと。




 互いが互いの守りたいものの為に……。


 いつまでも微笑んでいられる様にと……。




 ──そうして、その話が締めに相応しいと感じたのか『毒々しい槍を持つ者』は立ち上がると、最後に隣の席に置いてあったままの『お茶とお茶菓子』を手に取り、己の背後へと向けて『そっ』と静かに差し出すのであった。


 『──ほらっ、折角ですから頂きなさいな。美味しいですわよ。もうあなたも意地っ張りですわね』と言いたげな表情で、彼女はまたあの『ニタリ』とした微笑みを浮かべている。



 だが、その際の表情は今までに見た彼女の微笑みの中で一番優しく見えたのだった。

 ……きっと、その相手が彼女の守りたい存在の一人なのだろうと、それが良くわかる微笑みである。



 そして、私とエアには未だその姿はよく視えなかったが、そこには彼女を守ろうとして控えていた『無色透明の存在』がちゃんと居たらしく──差し出されて数秒の沈黙の後、『お茶とお茶菓子』は宙に浮かぶと、勢いよく『ゴクゴクモグモグ』されて消えていったのだった……。



 『……感謝します『泥の魔獣』。お話も聞いて下さって、本当にありがとうございました。それと可愛らしく強かな鬼の貴女も──また出来たらどこかでお話をしましょう。それまではどうかお二人共お元気で……』



 ただ、そのまますんなりと去って行くだけかと思った間際、最後の最後で彼女はこんな言葉を置き土産として私達に残していくのであった……。




 『……ああ、それと『泥の魔獣』にもう一つ。敢えてわたくしから忠告させて頂きますが……『人』はあなたの『敵』です。だから、どうか喰われないでください』と──。






またのお越しをお待ちしております。

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