第510話 神機。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
『毒々しい槍を持つ者』は今回の件が全て私の『謀の内』であろうと勘違いしている。
だが、どうしてそんな考えに至ったのかは分からないけれども、当然の様に私にはそんな思惑など無く。エア達や精霊達は分かってくれるだろうが、私はどちらかと言えば解決に走っていた側であった。
『異形と化してしまった』ドワーフ男性を助ける為に、街まで情報を探りに来たのだ。
彼とはたまたま出会っただけの縁でしかないと言われればそれまでだが、『助けたい』と思った気持ちに嘘偽りなど無いのである。
だから、そんな私が、此度の事を仕組んだなどと言われるのはとても不本意であり、対面にいる『毒々しい槍を持つ者』に向かって流石の私も少しだけ『ムッ』とした表情になってしまったと思う(なっていない)。
……ただ、そんな私の隣では、『外側と内側』で私が別行動できる事を知っているエアが、若干私へと不審そうな『ジトーっ』とした視線を向けて来ているのだが……大丈夫なのだ。『外側』で私は何も怪しい事なんかしていないのである。
──と言うか、そもそも『毒々しい槍を持つ者』は一体なぜそんな勘違いをするに至ったのか、その理由を聞いてみたいと私は思った。それだけの勘違いをするという事は、何かしらの理由があるからだろうと。
すると、『毒々しい槍を持つ者』も丁度よい事に、彼女が思う『泥の魔獣の仕掛けた罠』に関しての話をしたかったのか、勝手に語り始めてくれたので──私達はそんな彼女の話へと耳を傾ける事にしたのであった。
「──数多の生物に『性質』がある様に、この世界自体にもまた『性質』がありますわ。ただ、あまりにも当たり前に行えてしまう行為は、それがどの様な意味を持つのか、その本質に中々気づき難いと聞きます。……そして、それは『神々』においても同じ事。いえ、あの方々だからこそ余計に何も見えていなかったのでしょうね。……『それ』が最も効果的であり、最も致命的である事は『魔法の権化』にしか見えていなかった。そう、全ては『泥の魔獣』の手のひらの上だったのです──唯一、『神々』の中で真面だと思える『浄化の神』だけは、最初からそんな『泥の魔獣』の『脅威』を周りの『神々』へと注意喚起されておりましたが、愚かにも他の『神々』はその話に耳を傾ける事がありませんでしたわ……」
彼女達『神人』や『神兵』を作るにあたり、世界に与える影響と万が一の場合の『淀み』に対する『備え』として、一時期『浄化の神』と呼ばれる存在が彼女達を作った『神々』に協力していたことがあるらしい。
そして、その『浄化の神』だけは、私の『魔力量』と世界の『淀みの濃度』に関して『とある懸念』を持ち、ずっと危機感を抱いていたのだとか。
──と言うのも、そもそもの話が、その神はこう考えたのだそうだ。
『世界に満ちる魔力とは、果して無限であるのか否か……』と──。
……そしてそれは、『人』がさも当たり前にしている『呼吸』においても同じであったと言う。
膨大にあるが故に、『有る』事が当たり前過ぎてに普段はあまり気付かないかもしれないが。
それがいつまでも続くと思うのはとても危険な事なのではないだろうかと……。
それがもし『不足』する様な事態になった場合、世界にはどんな影響があるのかと……。
その神だけが案じていたそうだ。
……だがしかし、そんな『浄化の神』の話は、多くの『神々』からすると興味を引くものではなかったらしく、当初は誰からも見向きもされなかったのだとか。
それどころか──
『──そもそも、魔力とは使用した後も循環する仕組みになっており、一部は多少の汚れを伴って『淀む』事はあるものの、世界に満ちる魔力の全体的な総量は変わる事がないのだ』と。
『それこそが世界の根源であり、絶対不変の性質でもあるから、魔力の枯渇など考える必要もないのだ』と。
──そんな『教え』が『神々』の基礎にあって、誰も真剣に取り合わなったらしい。
世界と言う『領域』の中にある限り、そんな問題が起きるはずがないという妄信。
そして、『神々』の中でもまだ経験の浅い『浄化の神』に対するある種の侮蔑。
『潔癖が過ぎるが故に心配性なのだな』と、多くの『神々』は『浄化の神』を『愚か』と一笑に付したそうだ……。
「…………」
「…………」
「──ですが、本当に『愚か』だったのは果たしてどちらの方だったのか……それは最早、言うまでもありませんわね?」
──実質、『泥の魔獣』が行っていた事はたかが『呼吸』である。
だから、それを態々『神々』が咎めると言うのもおかしな話だと、そう思う感覚も分からなくはなかった。
……だがしかし、それも数百年と言う長きに渡って積み重ね行われた事により、たかが『呼吸』はその『領域』を超えたのである。
──そしてその結果、とある日を境にして世界には『マテリアル』と言う新しい『性質』も生まれ。
人々は『マテリアル騒動』と言う異常現象に巻き込まれたのだった……。
……だがしかしそれは、本来ならば起こり得る筈のない事象であり、だからこそ『神々』は私達の想像する以上に大いに慌てる事になったのだとか──。
「…………」
──そして、なんとか落ち着きを取り戻した後、少なくない時間を掛けながらなんとか判明したのは、『世界の魔力と淀みのバランスが崩れている事』と『神々』でも到底成し得ない様な『回復と浄化』を世界に施した異常な魔法使いの存在だけであった……。
ただ、同時にその魔法使いが『泥の魔獣』と呼ばれる──かつて『浄化の神』が注意喚起した存在なのだと知ると、『神々』は派閥ごとに紛糾したそうなのだが……『毒々しい槍を持つ者』からするとそれに関しては『しょうもない。下らない責任の擦り付け合いしかありませんでしたわ』と言って、少しだけ嫌そうな顔をしたのである。
もしかしたら、当時の事を思い出したくもなかったのか、彼女はその後一瞬で頭を切り替えると再び『ニタリ』とした笑みを浮かべて続きを語り始めた──。
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