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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第509話 妙算。



 『神兵達はもう誰にも止められない』と、『毒々しい槍を持つ者』は語った。



 勿論、街に溢れかえっている異形達や、各地の『神兵達』を全て消し去れればそれは一旦終息する問題なのかもしれない。


 だが、『世界の均衡を保つ為』と言う思惑から、『淀み』がある限り永遠と発生し続けるその存在はこの先も問題を起こし続けるだろう。……そもそも、全てを消し去る事が雲を掴む話だ。



 それに、そんな『神兵達』を管理をしていた『神々』は既に喰われてしまっているという。

 つまりはもう『神兵達』に手を加える事が出来る者はいないという話でもあった。



 一度変身してしまった後の『神兵達』はもう完全に別種と呼べる存在となっており、正直『神々』からしても手の施しようがない『領域外の存在』なのだとか……。



 そしてそれは、『神々』を喰らってその『力』の一端を受け継いだ彼女達『神人』にも言える事であり、『力』を得たからと言って、完全に使いこなせる訳ではないそうだ。……『神々』を喰らったから『管理者』が『毒々しい槍を持つ者』になると言う都合の良い話でもないらしい。



 要は『神人』とは幾らでも喰らう事が出来て成長を続けられる存在なのだが、その成長率自体は緩やかなものなのだと私は知ったのだ。当然個人差はあるのだろうが、『神兵達』程に急激なものではないらしいと彼女の話を聞いていて私は思ったのだった。



 きっとそれだけ急激な変化には『リスク』を伴うのだろう。

 ……『神兵達』が異形と化したその姿を見れば、そんな想像も容易である。



 ただ、そんな風に異形と化してはいても、ちゃんと『人』としての性質を手にした異形達は、いずれそれぞれが『親』となり、そして更なる『子』を増やしていく事だろう。



 ──そうなるともう、本当に手が付けられない事になる。



 だが、だからと言ってそれの対処法は今のところ何も考え付かなかった。



 言わば『ゴブ』達は、それぞれが新たなる種族として誕生したのである。

 そして、『心』を持つ彼らは、今後独自の生態系を構成していく事になるのだろう。


 ……既に賽は投げられてしまった。

 世界各地に発生する『神兵達』の動きを止められる者など確かに存在しない。



 『毒々しい槍を持つ者』の言葉通りだと私も思った。


 

「…………」



 ……だが、そもそもの話として、『神兵達』を作った自称『神々』は、何故そんな能力を『神兵達』に与えたのだろうかと、ふと私は気になった。


 これまで管理していた自称『神々』は、その『力』を与えて生み出したのに、態々その『力』を抑えて来たという話だから、現状の様な状況にしないようにと気をつけて来た事は分かる。



 ──なら、何故そもそも、そんな『力』を『ゴブ』に与えたのかというのは至極当然の疑問であった。



 ……その『力』さえなかったならば、ここまで大きな問題に発展する事も無かっただろうにと──



「──ねえ、変身してしまった人たちを元に戻す術はあるの?『神兵達』が『人を喰らう』って言うのは具体的にはどういう事?身体の一部だけでも食べられると変化してしまうの?……逆に、もし喰われたのが一部だけなら、逃げられれば元の人は平気だったりする?」



 そして、エアも同様に疑問が浮かんだのか、そんな質問を『毒々しい槍を持つ者』へと次々と問いかけていた。


 変身してしまった人達を助ける為の方法や『神兵』の攻撃条件とその対処法、そして『毒々しい槍を持つ者』がそれを答える気があるのかどうか──等々、エアは私よりも先を見据えており、既にそんな事まで尋ねている。



 そして、そんなエアの疑問の最も肝になるのは、相手側がどれだけそれに『協力的なのかを知れる』と言う部分にあると感じた。



 要は、その疑問に対してどれだけ『毒々しい槍を持つ者』が正しい事を話すのかによって相手の腹の底を探ろうと言うのだろう。……因みに、このやり方は昔の冒険者達がよく使った手口と一緒だった。だから懐かしくも感じる。私が話した事がある実話をそのまま転用したのが直ぐに分かった。



 相手がこれに対して、ちゃんと話すのか、それとも誤魔化すのか、そもそも知らないと言って逃げるのか──その答えによって、遠回しだが敵対関係の確認をしているのである。



 当然、その意味は『毒々しい槍を持つ者』にも直ぐに伝わった事だろう。

 ただ、対面で彼女は肩を竦めると、またも『ニタリ』とした微笑みを浮かべるだけであった。



 ……その様子から見るに、本当に彼女には敵意など無く、ただただお喋りを楽しみたい様子ではある。


 『そんなに疑わなくても、ちゃんとそちらの聞きたい事は話してあげるわ』とでも言いたげな表情だった。


 そして、彼女は再度不気味な微笑みを強めると、エアの問に対してこんな話をし始めたのである……。



「──『神々』には、それぞれの分野において『大いなる目標』があるらしいの。……そして、わたくし達『神人』や『神兵』の管理に関わっていた『神々』の場合、常々こんな事を言っていたのを思い出しましたわ……いずれ『人を超える存在』を作りたいのだ、と──」




 彼女曰く、『神々』が何故その様な目標を叶えようと必死になっているのかは分からないが、『神々』はそれぞれの分野ごとで何かを成し遂げようとする思惑がある様に感じるのだと言う。



 正直、曖昧が過ぎる話しではあったが──『彼女が喰らった神々』を例に挙げるとするなら、『人』と言う生物を超える新たな生物を作れないだろうかと、常々模索していたらしいのである。



 きっとそこには自称『神々』にしか分からない『狙いや拘り』があったのかも知れないが、奴等は『人』と言う『お手本』を見ながら、自分達もそれ以上のものを作りたいと熱望している風に見えたのだと、彼女は語った。



 まるでその姿は、『先人が作り上げた芸術作品』に感銘を受け、信仰し、それを超える作品を作りあげようとする狂信者のようであったと──。



 ……そして実際に、その為に作られたのが彼女達『神人』であり、それとは別の道を模索する途中で生みだされたのが『神兵』であったのだと──。



 ただ、当然の如くそのどちらも『喰らう』能力をもつ訳なのだが、それについてはなにも特別な理由などはないらしく……ただただ、『人』の性質を突き詰めて真似ただけの話なのだと彼女は語った。



「…………」


「…………」


「……お分かりかしら?『食らう』事は普通に人も行っている事なのよ?食べたものがその人の『力』や栄養になるのは説明するまでも無い事でしょ?」



 他者を喰らい、命を繋げるのは『人』も同じなのだと。

 だから、なにをそんなに大袈裟に言っているのか、逆に彼女からするとその方が疑問なのだと言う。


 『……もしかして、自分達は食べても良いのに、わたくし達にはそれをするなと言うの?人を食べるなと?それは何とも傲慢な話ね?──まるで『神々』みたいよ?』……と、彼女はそんな皮肉を語りながら『ニタリ』とまた微笑むのであった。



 そしてその上で、エアの問に対しては『……ならあなたも、これまで自分が喰らってきたものを元に戻せる?』と言い返して来る。



「…………」


「…………」



 ……当然、その言葉の裏が分からない私達ではなかった。

 エアも流石にそれには返す言葉が見つからずに口を噤んでしまっている。



 だが、流石に今のは厭味が過ぎたと思ったのか、そこで『毒々しい槍を持つ者』は微笑むと、それ以降の問に関しては普通に──『喰らったのが一部だけだと変化も弱々しくなると思うわ』と、『──喰われた方も上手く逃げられたならばきっと生きているでしょうね』と答えたのであった。



 そして、前提として『神兵達』は『淀み』を消費する事によって生まれるので、『淀み』の濃度によって各地の被害は大きく異なるだろうとも彼女は付け足して教えてくれたのである。




「──でも、それが分かっていても、この先も被害は増えるでしょうね……」


「……確かに。『神兵達』が子供を沢山作る様になったら──」


「──ん?ううん、そうじゃないのよ。……あら?フハハハハハッ、やっぱりね。そうじゃないかと思っていたの。フフフフフッ、まさか貴女、気づいていないのね?」


「……えっ、なにが?どういう事っ?なんで笑うの?」



 ──だが、そうした話をしていると、その途中で突然『毒々しい槍を持つ者』はエアの言葉を遮るようにして、いきなり大きく笑い始めるのだった。



 ……当然、笑われた方には意味が分からず、思わずエアは『ムッ』として頬を少しだけ膨らませながら彼女を見ている。



「……ふぅー、いきなりはしたない笑い方をしてしまってごめんなさいね。──でもまさか、一番の当事者の腹心がそれを理解していないとは思わなかったものですから」


「……一番の当事者?」


「ええ、そうですわ。……そもそも、わたくし達が何の関係もない者達にこうして話をしに来たとお思いで?あなたの隣にいらっしゃる『泥の魔獣』が伝説と称されるほどの存在だから、馴れ馴れしくも会いに来たと?──はっ、それこそまさかの話でしょう。そこまで恥知らずでも命知らずでもありませんわ」


「…………」


「そもそも、わたくし達は少し前に『泥の魔獣』とは干渉し合わない事を前提に嘆願し見逃して貰っているのですよ。だから、敵対する筈がありません。つまりは、先ほどからの貴女がわたくし達に向ける過度な警戒も最初から無用なものなのです」



 ……ふむ、そう言えば、そんな感じの話をした様な気はするのである。



「それに此度の事は、元はと言えば『全てが泥の魔獣の仕組んだ罠』であり、『神々』への布石が活きただけの話でしょう?」



 ……ん?



「……いったい何時からそれを仕組んでおられたのか。正直、わたくし達の様な愚昧な存在には測りかねますが──その『神算鬼謀』はまさに、伝説に謳われる存在の一計だと思い心服しておりましたの。実際、これほどまで『心』が震えた事はありませんでしたわ。……その冷たい視線の先で、いったいどれほどの考えを巡らせていらっしゃるのか……あぁ、もうその、率直に申し上げますけれど、あの、素敵過ぎます。……そもそも、わたくし達が愚かな『神々』の手から逃れる事が出来たのも──」



「……ねえロム?わたしの知らない『外側』で何してたのっ?」


「…………」



 ……ええぇっ!?わ、分からないのである。私は何をしたのだろうか。

 正直、『何もしてない』以外の答えを私は持っていないのだが……。





 ──だがしかし、そんな私の思いとは裏腹に、隣でエアが若干『プクリ』と頬を膨らませる中……『ニタリ』とした微笑みを浮かべる『毒々しい槍を持つ者』の話を更に詳しく聞いてみた所──どうやら彼女の視点では此度の件は全て『私の企みの内』であると言う、そんなとんでもない話が出てきてしまったのだった……。




またのお越しをお待ちしております。

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