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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第508話 可塑。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。




「──この状況、きっと『神々』も慌てているでしょうね……フフフッ」



 『土ハウス』の中に入って、居間にある机を挟んでエアと『毒々しい槍を持つ者』は対面していた。

 私がそこにお茶とお茶菓子を出すと、エアも向こうも直ぐに『パクパク』と燃料を補給し始め、これから先の長い話し合い(戦い)に備えている。



 ……因みに、家に入って来れているのかは分からないけれども、向こう側にはもう一セット『無色透明の存在』の分のお茶とお茶菓子もちゃんと準備していた。現状、椅子に座る気配もないし、お茶もお茶菓子も全く減ってないのでもしかしたら家の中にはいないのかもしれないのだが、一応出しておいた方が良いだろうなと思ったのである。



 すると、『毒々しい槍を持つ者』の様子に目を向ければ、その『お茶とお菓子』に気づきながらも敢えて言及して来ない感じなので、何となく微妙な表情も浮かべている事から、向こう側の『無色透明の存在』もちょっとだけどうしようかと迷っているのかもしれない。



 ……まあ、私達からすると好きにして欲しいとは思った。

 迷うのも椅子に座るのもお茶を飲むのも個人の自由なのである。



「…………」



 ……それに、私の方も『サポート役』としての最大の役割が終ったので、エアの隣の席へと腰を落ち着けると一緒に『ずずずーっ』とお茶を飲んでホッと一息つかせて貰ったのだ。……うむ、美味しいのである。ほれほれ、意地を張らずに座ったほうが良いぞとちょっとだけアピールもしておこう。




 ──ただそうすると、丁度そのタイミングで対面に座る『毒々しい槍を持つ者』が先の様にいきなり話を始めたのだった。……どうやら『現状について』彼女たちが知っている事を本当に話し始めるつもりらしい。



 ……先に何かしらの交渉や、情報に対する『要求』などの話をして来るかと思っていただが、どうやらそれらは無いようだ。


 もしかすると、話す事に何か別の狙いでもあるのだろうか。それとも──



「…………」



 ……だが、そんな私の内心の疑問は余所にして、彼女の話は普通に始まり──やはり、今回の件に関しては『神』や『神人』達が関係していたらしい事が直ぐに分かったのだった。



 それも、その話では『ゴブ』と言う存在が、実は『世界にとって凄く重要な役割を担わされていたのである』と、そんないきなり規模の大きい話になりそうな雰囲気である……。




「……あれは、わたくし達『神人』とは別の目的で生み出された特殊な存在でして──その目的の最たるものは『世界の均衡を保つ事』にあったのです」


「『ゴブ』が?」


「ええ、そうです。……私達『神人』は、『人』が『マテリアル』と呼ぶ『淀み』をある程度活用する事によって生存していますが、あれ(『ゴブ』)はそんな私達よりももっと顕著に『淀み』と直接的な結びつきが強い存在なのです。そして──」



 ──『ゴブ』と言う存在は生まれる時に、ある程度の『淀み』を消費するのだと彼女は語る。


 ……それはつまり、『ゴブ』と言う存在が生まれる事によって、ある程度世界の『淀みの量は調整できる』のだと。



 『淀み』は偏りがあり過ぎると世界にとっても『毒』となる。

 その上、『淀み』のままだと普通の『人』には感知し難い事から、『人』の目にも危険が伝わり易い様にと──また、退治しやすい様にとも考えられて、『ゴブ』と言う存在は自称『神々』によって生み出されたのだという、そんな話であった。



 そして、生まれ出でたその『弱いゴブ』を『人』が倒す事によって、『世界に偏る淀みを、人にも浄化させる目的』がそこにはあったらしい。




「──ただ、それと同時にあれは、言わば最初から死ぬことを定められた『神々の兵士』でもあります。……わたくし達の間では『神兵』とも呼ばれる『生体兵器』でもあるのですよ」


「…………」


「……ですが、『神々』は愚かな事に余所見(・・・)のし過ぎによって、あろうことかその『兵器』の管理が手を離れていた事に気付かずにいたのですわ……ええ、本当にそれはもう気づいた時には後の祭りと言う感じで……。慌ててもう一度手綱を握り直そうとしている内に、解き放たれた『神兵』達はもう好き勝手に目的のまま動き始めてしまっていた、という訳ですわ──」




 ──そして、解き放たれた『神兵』達は、生み出されたその目的に従い、植え付けられた性質のまま、本能のままに『人を襲った』のだろうと彼女は語る。



 ……弱く、死すべき定めを課せられていたからこそ──『弱く在るべき』と力を抑えられ管理されていた存在だったからこそ、その目的は今まで大した問題となっていなかっただけの話なのだと。



 だが、それが一度管理から解き放たれてしまった『神兵』達は、それこそ本来持っていた『能力』を十全に駆使する事が出来る様になり、兵器として『人を襲う』事に全力を尽くせるようになってしまったのだと……。




「『神兵』は『神人』の劣化版の様な能力ですが、『一度だけ』最初に『喰らった相手の性質を得る力』を持っていますから、それによって今までに見た事がない様々な変身を遂げていましたわね……正直、街の様子を見てわたくしも驚きましたわ。なんとも賑やかな事になっていましたが、あんな光景を見るのは初めてでしたので……」


「……なんで『神々』は、『神兵』達の手綱を直ぐに握り直さないのっ?自分達が作ったんじゃ──」


「──あらぁ、あなたは、『自分を作った存在』の言いなりになりたい人ですか?自らの行動の全てを管理してほしいと?望まぬ事を命じられるままに、それを強いられ続ける生き方がお好みですか?」


「…………」


「フフフッ、答えを聞くまでも無いでしょうね。……解き放たれると言うのは『意思』を持つという事。自我を獲得し『心』が芽生えた瞬間なのです。──私達『神人』も、あの子達『神兵』も、望んで神の玩具になどなりたい訳ではないのですよ。……誰が『死ぬことを定められた役割』になど喜んで戻るものですか──『ふざけるな』とわたくしは何度でも言ってやりましょう」




 そう語る『毒々しい槍を持つ者』の目には、今までにない熱を私は感じた。

 ……『神々』に抗い『差異』を超えたこの『神人』は、声なき者達の代弁者であり先導者でもあるのだろう。



 『世界の均衡?それがどうしたのです?そんな事よりも自分達の命の方が大事ですけど?』と。

 『自由に生きたいだけなの。それの何がいけないの?邪魔をしないでよ』と。



 ……その熱は、まるでそう語っているかのようだった。

 そして、彼女の傍にある『毒槍』も、そんな彼女の想いに反応するかの如く毒々しくも脈動を繰り返し続けていたのである。


 それはある意味で『鼓動』に近しいものの様に私には感じられた。

 生きている事の証明をしているかのようにも思えたのである……。



 生まれや見てくれは、そしてそれに付随する性質は、本来どうしようもないものである。

 ……だが、『そんなもので私達の価値や生き方を勝手に決めつけるな!』と言う、そんな彼女の強い想いを私は感じたのだった。



 愚かな『神々』の好きには二度とさせないと。

 生まれや宿命がどんなものだとしても、私達は私達の好きな道を生きるのだと。



 毒々しくとも、好きに笑って生きていてもいいではないかと──。



 『ニタリ』と不気味に微笑んでいる様に見えた彼女のそれは……きっと彼女の精一杯の『笑顔』であった……。



 ……不器用な私は、彼女がそれをしている事の意味を悟ると、激しい同感を覚える。


 そして、立場は違えども、ある意味では私も彼女も似た者同士なのだと感じるのだった……。



「…………」



 第一印象、先入観、決めつけ、食わず嫌い……それら好嫌の判断の元にも繋がる根源的な話だ。


 本来、生き物には『善も悪も無い』と私も思う。


 そこにあるのは、それぞれの立場や性質に準じる『判断の違い』があるだけなのだと……。


 そして、そんな『判断の違い』から、彼女は『神々』を『喰らった』だと知った──。




「──ですが、そんな『ふざけるな』と言う気持ちと牙を最初に向けた相手が、なんとも今回の場合は致命的でしたわね。……少し前に『泥の魔獣』さんには語りましたが、本来『神々』にもそれぞれが得意とする分野に違いがあると言う話をしたと思いますが──」


「……まさか」


「──ええ、恐らくはそのご想像の通りです。『神兵』や『神人』の管理を得意とする『神々』を最初に『喰らった』ものですから、他の『神々』はこの異変に気づくのが遅れた上に、専門知識も無いから対処の仕方も分からないという、そんな状況なのですよ。『神兵』達を止められない理由もまさにそれなのです……フフフフフッ、何とも愚かしい話ですわよね──」



 ──と、そう語った『毒々しい槍を持つ者』は呵々大笑しながら、またあの『ニタリ』とした嫌な微笑みを浮かべると更にこうも語るのであった……。



 『神兵達はもう誰にも止められないのだ』と──。




またのお越しをお待ちしております。

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