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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第507話 疎通。




 一つの街を埋め尽くす程の『ゴブ』に似た異形達は、空を飛ぶ私とエアに気づくと一部の者達がこちらへと指を指し『──ギャーギャー』と、人ならざる声を上げていた。



 異形達同士はその声でやり取りが出来ているのか、意志疎通をしている様子が離れた空からでも見て取れた為、奴らには間違いなく『知性』があるとわかる。


 その上、街中に落ちていた石などを適当に掴むと、奴等はそれを私達の方へと向かって放り投げてきた。

 ……生憎と『力』が不足していた為、私達のいる高さまでは届かず随分と手前でそれらは落ちていったが、凡そ一般的な『人』の肩よりはだいぶ優秀であるのか、当たっていれば間違いなく痛いではすまなかっただろう。それだけの威力は感じたのだ。



「…………」


「ロム……『ゴブ』ってあんなに強くないよね……それに、街の人達はどこにいったの?……私達、この後いったいどうしたら──」



 ……そんなエアの呟きを隣で耳にしながら、私は今更ながらに『ゴブ』とはなんなのかと考える。

 あの存在がまさか『この様な事』が出来るとは、私は全く知らなかった。



 因みにだが、私が此処で言う『この様な事』とは、勿論『ゴブ』が『神人』と同じく、『他者を喰らって力を得る』と言う性質についてである。……流石にこの状況を見て、街に人の姿がない理由が察せない私ではなかった。つまりは『そう言う事』なのだろうと言う想像は容易かったのだ……。




 だが、今までの『ゴブ』にそんな『力』があるなど聞いた事もなかった。誰も知らなかった筈だし、そもそもそんな『力』があるのならば、もっと前々から色々な情報が広まっていてもおかしくないのに、とも思う。今まで隠されていたのか?



 ……それにしても、なんだかんだと『異形の存在』の発生原因を考えてはいたけれども、それがまさかドワーフ男性の話していた『噂』がそのままだとは……だが、その『噂』にしても彼もこれほどの規模のものだとは思っていなかっただろう。



 勿論、『神人』と言う存在を知っている以上、それと似た『力』が『ゴブ』に備わっていたとしも驚きはしない。元は、どちらも『作りし者』が同じく自称『神々』なのだから、それは十分に考えられた話だ。



 ──だがしかし、なぜ今になって……。




「──フフフッ……お困りかしら?」



「──っ!?」


「…………」



 ──すると、私とエアが街の様子を視る為に空に留まっていた場所から十メートル程先──それほど遠くもない場所からいきなりそんな声が聞こえてきた為、私とエアはそちらへと顔を向けたのだった。



 見るとそこには、『誰も居なかった筈の場所』にさも当たり前の様に『毒々しい槍を持つ者』が空に佇んでおり、『ニタリ』としたあの変わらぬ嫌な微笑みをずっと浮かべていたのである。



 ……いや、正確には捉え切れていないが、恐らくは近くにあの『無色透明の存在』も居るのだろう。彼女の姿を隠していたのは恐らくあの存在によるものだと思う。



 でもまさか、あの存在が他者に対しても『姿を隠す術』を施す事が出来るとは知らなかったが……ただ『なるほどな』とは思った。


 彼女が態々──彼ら目線で危険人物でしかない私の前にまでやって来て、捕らえていた『無色透明の存在』の解放を望んだ理由が今更に分かったのである。



 ……この能力は強力だ。事前に『罠』を仕掛けていればまだしも、そうでないならば『無色透明の存在』はかなり厄介だと感じた。



 現状、隣でエアがすぐさま『探知』を使って隠れている者の居場所を探ろうとしたのが分かったけれども、どうやらエアが見つける瞬間に相手もまた『コロコロと属性を切り替えている』のか、エアは正確に探れきれていないらしい……。



「……エア」


「うんっ──ねえっ!あなたはこの状況について何か知ってるのっ?」



 ……『探知』をそのまま続けていても魔力の無駄になってしまうだろうからと思い、私はエアの名を呼んだ訳だが、既にエアも察したらしく直ぐに頷きを返してくれた。


 『戦闘を前提』にするのであれば『探知』を継続する事にも意味はあるだろうが、向こうが声を掛けて来た事から『対話』を望んでいる事をエアも悟ったらしい。



 エアはすぐさま『探知』を止めると、『毒槍を持つ者』へとそんな言葉を聞き返していた。

 相手側もそれによって『会話に応じる意思』が私達にある事を理解すると、『ニタリ顔』を強めながら少しずつこちらへと近づいて来る。……話のしやすい距離まで来るつもりなのだろうか。




「──ええ、ある程度は理解しているわ。だからどうかしら……良かったら、少しだけでもお空の上でお喋りしませんこと?ちょうど今、誰かとお話がしたい気分でしたの──」



 ……いや、私は別に。



「うん、わかったっ!ならお話しようっ!なんでこんな状況になっているのか私達にも教えてっ!」



 ……ふむ、だがエアがそう言うのであれば、私も吝かではなかった。

 ならば、少々魔力的には無駄な損耗になるかもしれないが、『これ』も出す事にしよう──



「…………」



 ──という訳で、私は【空間魔法】の収納から『土ハウス』を取りだすと、それを空に浮かべたまま臨時のお茶会場所を用意したのであった。



 ……なんとなくだが、エアと『毒々しい槍を持つ者』は共にお話しが好きそうな雰囲気があったので、じっくりと話せる環境があった方が良いかと判断したのである。



 正直、こんな大変な状況に、そんな暢気な事をしている暇があるのかと思う者が居るかもしれないけれど──大変な状況であるからこそ逆に、今は出来る限り冷静でいなければいけないとも思う……。



 なので、どれだけ長話になるのかは分からないが、それがどれだけ続いたとしても平気な様にと、最低限のくつろげる空間とささやかなお茶位ならば用意しても何の不思議も無い筈だ。



 ……正直、今の私に出来る事は精々これ位の『サポート』だけである。

 だが、それでも自分に出来る最大限は尽くすつもりだ──。




「──まあ、これはこれは、これほど『魔力濃度』の濃い強固な家を瞬時に空間に留めて【固定】しておけるだけの『力』を持つなんて……流石は『伝説の泥の魔獣』ですわね?」


「──ううんっ、まだまだこれだけで驚かない方が良いよ!ロムはもっと凄いんだからっ!」


「……あなた、さっきまでは少々取り乱されている様子にも見えましたのに、もう随分と落ち着いていますのね?切り替えが早いのか、それともただ単に──」


「──うん。まあ、こっちが取り乱していた方が、そっちの動きも分かり易くなるかなって……『お話』で良かったね。色々と教えて貰えると嬉しいなっ」


「…………」



 ──遠回しに『そっちが仕掛けて来るのを待って居たんだよ』と、微笑みを浮かべて告げたエアの顔を見ると、『毒々しい槍を持つ者』の顔からは少しの間だけ笑みが消えた。


 どうやら彼女からすると、エアと言う存在は『私のおまけ』程度にしか見えていなかったらしい。まあ、それほどまで『泥の魔獣』の方に警戒していたのかもしれないが……。



 ただ生憎と──『私の方がおまけ』なのである。



 凄腕の冒険者であり、『差異』を超えし魔法使いでもあるエアと言う存在は、私より余程に優秀なのだ。……当然、使おうと思えば機転を利かせて演技も咄嗟に出来てしまう程にである。


 『どうだ凄いだろう?うちのエアは』と思わず自慢したくなる気持ちが心に疼く。

 私には絶対に不可能な芸当であるから、尚更にそう思った。



 ……それに、元からこの手の冒険者関連の話──『罠』を張る時に使う手法などのお話も、エアにとっては大好物の一つなのだ。それこそ咄嗟に活用できる程に──。



「…………」



 ……どうだろう。その微笑みが消えた表情の奥で、思い知って頂けただろうか。

 ……私と肩を並べている存在が只者ではない事を──。



 精々油断しないで欲しいと私は強く思う。

 そして、この後が出来るだけ貴重な話し合いになる事を望んだ。



 ……なにしろ、このタイミングで私達に話しかけて来た時点で、彼女達が今回の件に無関係ではない事はほぼほぼ間違いないだろうと予想できる。



 そして、結果的にエアの今の発言も、相手に不必要な警戒をさせてしまっただけに私も最初は思ったのだが──その実『無色透明の存在』が属性を変えてエアの『探知』を避けたと言う事は、エアは一度『探知』にて奴等の存在に気づいていたと言う話でもあった。



 だからつまり、敵に気づいた上で、それから直ぐに街を見て動揺するフリをし、敵側の『真意や仕掛けを誘った』と言う狙いだったのだから、エアの状況判断と行動は大変に素晴らしかったのである。



 ──要は、この場において誰よりもエアは一歩先を歩んでいたのだ……。



 そして、それを理解できたからこそ『毒々しい槍を持つ者』も笑みを消した訳なのだが、きっとこの先は更に油断できない話し合いの場となる事は確実であろう。




「……入るといい」


「……ええ、入らせて貰うわ」



 ……私がそう言って『土ハウス』の入口を空けて彼女達を招くと、真剣な顔で『毒々しい槍を持つ者』は入って行くのであった。


 彼女が話し合いに乗った時点で、相手側にも何かしらの『要求』がある事は私達も察している。


 それぞれの思惑の中で、この先はきっと緊張感のある『化かし合い』になるかもしれない。


 だから、口下手な私に出来る事は少ないかもしれないけれど、今できる事を精一杯頑張りたいとは思うのである……。



「──!」



 ──そんな訳で、早速『お茶とお茶菓子の準備をしなければ!』と思い立った私は、『サポート役』としての役割を全うする為に動き始めるのだった……。





またのお越しをお待ちしております。

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