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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第500話 氷炭。




 『髭岩(しがん)族』──その呼び方は古く、基本的にはあまり彼らが好む様なものでもない為、広く一般的に知られている方の名を出すのだが──彼は言わば、『ドワーフ』と呼ばれる種族の男性であった。



 ただまあ、『里』によって古い呼び名が異なる様に、厳密に言うと地域ごとに『ドワーフ』達もまた古い呼び名が異なってくるのだが……最近ではその古い名もとんと使わなくなり、殆ど『ドワーフ』と言うだけで通じる様になったらしい。『エルフ』や他の森の種族も世間的には似た様なものである。



 因みに『ドワーフ』に付いて少し話すと、彼らは本来男女とも体質的に『良いお髭』の持ち主である事が多いのだが、それには実のところ個人差もあって、お髭の全くないドワーフも居るらしいのである。


 また、旧い仕来り等を重んじる血筋の者達はそのお髭を蓄える傾向にある者が多く──逆に『お髭なんてもう古い!それに身だしなみとしてはあまり好ましくないよ!』と感じる者達においては、お髭は普通に綺麗に剃っているのだとか。



 ……ただ、その際に見た目に関して気をつけなければいけないのは、お髭を剃るとかなり若く見られる事も多いそうで、身長もそこまで高い者がいないと言う事も相まって『子ども扱い』を受ける事もしばしばあるのだと言う。



 だから、失礼な発言や子供扱いをすると、直ぐにドワーフ達は『むすっ』として拗ねるので、一緒に生活していく上では見極めと気配りがちょっとだけ必要なのである。



 ……更に因むと、目の前のドワーフ男性は立派なお髭が沢山あるので、中々に歳を重ねているドワーフだとは思う。




 だがまあ、ドワーフ達のお髭事情に関して言うと──時代の移り変わりによって流行も微妙に変化し、一概にただ伸ばしているのが年上であると限らない場合も時たまにある。


 ……その為、どうしても判断が付かない時には私も素直に尋ねる事にしているのだ。

 分からない時に、ちゃんと『分からない』と言える事も生きる上では大事な事である。



 それこそ、一時期はお髭の編み方で年齢を表す時代なんてのもあった為に、ドワーフ達の年齢判断は殊更に他の種族には難しかったのだ。……あの時代は、極力ドワーフ達に近寄らない様にしていた覚えもある。懐かしい話だ。



 それに、お髭の整え方にも個人個人の『拘り』があるそうで、褒め方を間違えるだけでもドワーフ達は直ぐに『むすっ』として大変気難しいのである。



 また、ドワーフ達で特徴的なのはなにもお髭だけではなく、昔からの変わらない性質として『腕力自慢』が多い事でも知られており、森に生きる種族の中では中々に珍しくかなりの筋肉質なのだ。



 そしてその『筋肉の為の最上の栄養素』だと彼らが言って憚らないのが『お酒』であり、彼らは日常的にまるで水の様に『お酒』を常飲しているのであった。……ほぼほぼ酒豪ばかりである。



 あと説明出来る事と言えば、酒に酔っていたとしても一度決めた事柄には中々意思を曲げない頑固さ(と偏屈さ)を持っている事や。



 個人的に私がなによりもドワーフ達の話で極めつけに特徴的だと思うのは……『大のエルフ嫌い』であると言う事であった──




「──なんだお主は」


「…………」


「どこから来た!帰れっ!そして二度とワシにその辛気臭い面を見せるなっ!」


「…………」



 ──と、ほらほらさっそく。まだ初対面であるにも関わらず、こんな感じなのである。



 当然、私の方はまだ何もしていない訳なのだが、出会ったばかりの『髭岩族(ドワーフ)』の彼はいきなりそんな刺々しい挨拶をして来たのであった。



 だが、正直な話、これはまだまだほんの序の口で、『こんにちは』位の通常会話に過ぎない事を私は重々承知しているのである。



 ……なにしろ、この『エルフとドワーフ』の関係性についてはかなり根が深く──遥か昔、それこそ森で種族同士の縄張り争いをしていた頃の名残からも尾を引いているというのだから、なんとも古い確執なのであった。




 ──ただ、先に一つだけ勘違いを正しておくとするならば、全部が全部『エルフとドワーフ』は仲が悪いわけではない。ゆっくりと時間を掛けて絆を結び、個人個人で良い付き合いをしている者達も普通に『里』とかには居るのである。



 私がかつて住んでいた『原初の里』でも、遠い昔はいがみ合う事もあったらしいのだが、私の子供時分にはもうすっかりと『同じ里の仲間』として『耳長族(エルフ)』達と『髭岩族(ドワーフ)』達は仲良く暮らしていたのであった。



 だからこうして今は、私と目の前のドワーフ男性は少しだけ険悪ムードであるけれども、これは単純に『初対面であるが故』なのだと言う事を、私はちゃんと理解しているのである。



 なので、要はこれからの対応次第で、私と彼も普通に仲良くなれる可能性がちゃんと残っているのであった。



 ……それに『里』を失った私からすると、ドワーフ男性のそんな口調は少しだけ懐かしさを覚えるものであり、『エルフとドワーフ』の間にある独特のちょっとした言葉の掛け合いをする時の空気感が、無性に喜ばしくもなったのだ。



 『……そうそう。これこれ。こんな感じだったな』と、しみじみ想ってしまうのである。


 『やはりドワーフと言えばこうじゃないと』と……。


 なので、例え『ちょっとやそっと彼から悪口を言われた位』では、当然私も何とも思わな──




「──ぬ?言葉すら真面に話せぬのか?流石は、ヒョロヒョロガリガリばかりの『耳長』よな。思考力までやせ細っとる。その真っ白い頭の中は空っぽか?お前の頭は着ている白ローブのフードを乗せる土台に過ぎんか?おん?──まあそんなだから、お主らは軟弱な武器しか振るえんのだわな!ほれ、見てみろっ!ワシのこの雄々しき立派な二の腕をっ!これこそ森に生きる者の真の力強さであるぞ!お主の様な『枯れ枝』ではさぞかし羨ましかろうてっ!だっはっはっはっは!!」





「…………」



 ──ん?





またのお越しをお待ちしております。


(祝500話到達)

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