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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
498/790

第498話 以毒。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。


2021・04・07、本文修正。物語の流れに変更なし。




 『毒々しい槍を持つ者』は、微笑みを浮かべながら言った。



 ──『この世に、神々など不要なのだ』と。



 彼女の言うその『神々』とは、私からするとそれを自称しているだけの『良くわからない存在達』に過ぎないのだが……彼女からすれば、彼女達の様な存在を生み出した──言わば『親』に近しい存在なのではないかと私は思った。



 彼女は『神』によって作り出され、力を授かり、『人』ならざる者でありながら『人』を喰らう事によって、『人』に近づいていく存在である。──そして、彼女は自分達の様な存在の事を『神人』と呼ぶのだと私に語った。




 『神人』──それは、生じた時の見た目の形状から私が勝手に『モコ』と、仮に呼んでいた存在ではあるが、『良くわからない存在達』にとっては『子』に近しい者達であったらしい。



 『……子供だったのか』と、それだけを思うと少しだけ胸の奥には罪悪感に近しい感情も滲みかけたが──どちらにしろ敵対している以上、それについては割り切って考える事に私はしたのであった。



 ……何でもかんでも『命は尊い』だなどと、今更そんな事を言うつもりは毛頭ないのである。



 ──『大事な者達』と『そうでないもの』は、私の中では完全に別たれているのだから。



「…………」



 ……ただ、そんな『神』と『神人』との関係は、私が一般的に想像する様な『親と子』のそれとはだいぶ異なる様で──まるで、『道具』でも扱うかのように……言わば、『人』においての、貴族などが子供を政略的に扱うに近しい関係なのだと、私は知ったのだった。



 そこには、私が思う『あたたかさ』なども当然の様に無いらしく──その影響もあってか、結果として目の前の『モコ』は『親』である存在を……神を『喰らった』のだそうだ。



 そして、当の本人はその事に対し、募る想いの丈を成就させたことによって『爽快さ』を覚えたのだと言う……。



「…………」



 ……そんな彼女の話を聞いていると、不思議と私の戦意は、少しずつ薄れていくのを感じた。



 それは、これから『子』を得ようとしている友二人の事が一瞬頭を過ぎったからか……それとも私自身が幾ら望もうとも、エアにはその『存在』を抱かせてあげられない事を胸に想い浮かべたからなのか……正直、自分でも正確には分かっていないのだが、言葉で言い表すのがとても難しい悲しみを私はほんのちょっとだけ覚えたのである。



 勿論それは『どちらに非があるのか』とか、そんな個人的な思いを言及したい訳でもなく……私はきっと、そんな両者の関係性を、悲しみかつ残念に思ったのだ。


 そして、『感情移入』もしてしまったのだと思う……。



 『敵側』の事であるにもかかわらず、彼女の話には……それだけ色々と思う所があった。

 その為、私は思わずそんな思いを抱いてしまったと言う訳なのである。



 ただ、そんな気持ちと一緒に、『作りし者』と『作られし者』と言う──そんな両者の関係性の中に、あとほんの少しの『思いやりさえあれば』とも、そんな事を考えたりもしていた。



「…………」



 それさえあればと、きっと『神』と『神人』の関係性もまた少し違っていたのではないかと、私はそう思うのだ。


 ただ、これは『敵側』の話であるし、私の勝手な想像でしかない為に敢えて口に出したりする事は当然ながら私もしなかったのである。



 ……それに、これはきっと『言い出したらきりがない話』でもあると、私は途中で思い直したのだった。


 『あれがあれば、こうしていれば、こうであってくれたら……』なんて、そんな今更な事を幾ら考えても仕方のない話である。


 なにせ既に、事は起きてしまった後なのだから……。



 それに『敵側』である以上、尚更私に出来る事は何も無いし、するつもりもなかった。

 ……でも、そんな彼女の話を聞いていて、私は身につまされる感覚を得て、また新たな教訓を得ることはできたのである。



 『人の振り見て我が振り直せ』と言う訳でもないが、それに近しい感覚であった。

 それに、よくよく考えれてみれば、これは何も特別な話ではないとも気づいたのだ。



 ……身近で例えるならばそう。近い将来、もし友二人の間に『子』が出来た際、もしかしたら同じような事が起こり兼ねないかもしれないのだと、そんな事に思い至ったのである。




「…………」



 そうと言うのも、『生き物』である以上、始まりは誰しも『作られた存在(子)』であり、そんな『作られた存在(子)』が、やがては『作りし存在(親)』へとなっていくのである……。



 だからこれは、『神』と『神人』との間に限った話などではなく、『人』の間でも『思いやり』次第では普通に起こり得る話であり、『親と子』と言う関係の中では特に問題になりそうな話だと私は理解したのであった。



 ……要は、『生まれた子』は『親のもの』であると言う思いに囚われ、『子』の『心』を蔑ろにしてはいないだろうか?、と言うそんな話なのである。



 その為、『親』側からすれば、『自分の子なのだから、その子を自分の思い通りにしてなにがいけないの?』と思う者がいるかもしれないのだが……それは『子』の側からすると酷く不本意なものである事を、『親』側は確りと理解しておくべきだと私は思うのであった。



 勿論、『子』に対して『ほどほど』の導きであれば話は別だが、それの程度が過ぎたもので行動までをも縛るものであった場合、特に反発も予想されるだろう。……此度の彼女の様に。



 また『親』本人にその気はなくとも、自然とそれに近しい行動を取っている場合がもしかしたらあるかもしれないので、注意も必要なのである。



 ──だから先ずは、そもそもの話として『子』は『親』の自己満足を満たす為の道具ではない事を、確りと思い知っておくべきなのだと私は思うのだ。



 エアも以前に言っていた事だが、それこそ『子供が居る居ない』を愛の証明としたくないと言う話も、ある意味ではそれに近しい意味合いを持つのかもしれないと私は感じていた。



 だから、相手はちゃんと『心ある存在』なのだと言う事を意識し、一人の『人』に対して良き関係でありたいと思うのであれば、相応に『思いやり』をもった行動をすることはとても大切なのだという──当たり前の事なのだが、ある意味ではとても難しい戒めの話なのである。




「…………」




 ……ただ、その事を考えた際に私は思い至ったのだが、『作りし者』と『作られし者』の関係性を考えた時──それじゃあ、『良くわからない存在達』においても、元はもしかして同じだったのではないかと、私はふと感覚的に疑問を抱いてしまったのであった。



 ──つまりは、彼らも元々は『誰か』によって、『作られた存在』なのではないかと……。



 勿論、『神々』を『生き物』であるとする場合での話だが──ただ、もしもそうなのであれば、本質的には『神』も『神人』も、その気持ちを互いに察しあえるのではないかと、私は勝手にもそんな想像をしてしまったのである。



 だから、自分達が『道具扱い』されたら嫌だと感じたならば、その気持ちは相手も一緒なのだと。

 それを『子』である『モコ』にだけ強要するのはおかしくないだろうかと。


 ……そんな風に思ってしまうのであった。



 当然、それは私の勝手な想像に過ぎないので、『敵側』である彼女にその事を伝えるつもりはないのだが、彼女の話を聞いていると思わず、つらつらとそんな事を考えてしまうのである……。



「…………」



 そして、そんな想いは自然と友二人の事にも発展していき──もしも二人に『子』が出来た時に似た様な状況になったとしたら──その時は、『そっ』と『加護矢』でも手に携えて、私は『幼馴染』として二人に協力出来たらなと、そんな事を想うのであった。



 ……またその為にも、私自身もそうならない様にと気を付けていきたいと思う。

 この話も言わば初心の振り返りに近いので、改めて『ほどほど』であることを忘れずに生きていこうと思うのであった。



 まあ正直な話をすれば、そんな微妙な匙加減が不器用な私にできるかという問題もある訳なのだが……例え困難だとしても、それを新たな教訓として十分に気を付けていきたいと、私はそう思──




「──わたしがあなたに攻撃を仕掛けたのも、言わばわたしの仲間の多くを消し去った事に対する仕返しではありましたが、一撃だけです。なので、これ以上はこちらから何かをするつもりはありませんわ。だって、そんな無駄な事に時間を費やすのはあまりに愚かですもの。わたしは『あの方々』の様にはなりたくありませんから──」



「…………」



 『……あっ、そう言えばまだ彼女の話は続いていたのか』と、その瞬間私は失礼ながらもそんな事を思っていた。


 正直、先の彼女の『神を喰らった』と言う部分の話が衝撃的だったので、思わずそれから考えごとに耽ってしまっていたのである。



 ……ただ、私がそうしている間もずっと『毒々しい槍を持つ者』の話は続いたらしく──当然の様に私は、そんな話を途中からすっかりと聞き逃してしまっていたのだった。ごめんなさい。




「…………」




 ……でもまあ、長話だったのである意味では仕方がないとは思う。普段の私であれば間違いなく寝ていたのである。だから、寝ていないだけましだったと思う事にしたのだった。



 それに、話をする彼女本人も長くなっていた自覚があったのか、その後改めて私に対して『要求』と言う形で簡単に話をまとめてくれたのである。



 ──そして、それによると彼女がここに来た理由は『これ以上、神々の無駄な思惑によって自分や仲間達を損なわせたくない』と言う想いからだったそうで……。



 彼女は、『神々から仲間達を解放する為』に今後は動く予定であるらしく、私とはもう『敵対』はしないらしいのである。



 ……ただ、神々に対しては『今後も見つけたら喰らってやりますわ!』と豪語しているので、第三勢力的な感じで『神側』に対しては『敵対』するのだとか。



 その為、彼女たちが暴れる分、私達への『神側』の関与は減るだろうと言う話で──それを対価にして私が先ほど捉えるに至った『無色透明な存在』を彼女は返して欲しいと言う話なのであった……。




「…………」



 ……まあ、私としてもこれ以上は現状出来る事もなかった為、そう言う話であればと彼女の『要求』を結果的にはのんだのである。



 そういう訳により、結局は拘束した『無色透明な存在』を彼女へと引き渡して別れ、私は身体を休められそうな場所を探す為にまたのんびりと歩き始めた訳なのだが……。



 歩き始めてから暫くして『──もしも、あの彼女の話が全部嘘だったとしたら、私はただただ敵に翻弄され捕まえた敵を見逃してしまっただけなのでは……?』と言う事に気づき、少しだけ嫌な感覚を覚えたのであった。



 ──要は、彼女は話が上手かった事もあって、私はそれを全部を鵜呑みに聞いてしまった訳なのだが、今回は魔力不足もあって『約束』の形もとっていない為に、あの話が本当に守られるのか確認する術が今の私には何も無い事にきづいてしまったのである。



 なので私は、知らず知らずの内に彼女の『言葉の毒』に惑わされていたのではないかと……今更ながらにそう思ったのだ。……考えてみれば、戦闘中であるにも関わらず私も不思議と『感情移入』もし過ぎていた気がするのである。




「…………はぁ」



 まあ、あれが『嘘か真か』、そのどっちに転ぶのかはまだ定かではない為、何とも言えない状況ではあるのだが、自然とそんな深いため息が出てしまう私なのであった……。






 ──ただ、私のそんな溜息を余所に。


 この日を境にして、世界はまた一つ、大きな変革を迎えていく事になるのであった……。




またのお越しをお待ちしております。

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