第496話 名詮。
『外側の私』が『毒々しい槍を持つ者』に話しかけられている頃──
『内側』では私の腹を枕に寝転がりながら、心地良い微睡みにちょっとだけ抗う様な欠伸をしつつ、会話を楽しんでいるエアが居た。……因みに、話の内容はほぼほぼ『お祭り』の事に関してである。
「ふぁぁー……ねぇ、ろむぅ、あのお城どうするのぉ……ふぁぁぁー」
眠りに落ちかけ寸前の欠伸をまた一つして、エアはお祭りの競技の激しさで崩壊してしまった『空飛ぶ大陸のお城』について尋ねてくる。……『眠いけど、お話ももっとしていたいっ』と言う、そんな欲求がエアの中でせめぎ合っている様な状態だろう。
『眠いなら寝てもいい。お話なら後でも沢山出来るのだから……』と想いはしつつも、私もまたエアのそんな雰囲気に愛しさが募り、微笑ましくなった。
「…………」
……ふむ、お城だったか?そうだなぁ。でも、あれに関してはゴーレムくん達やレイオスやティリアが担当みたいな感じだから。修理するのかそれとも記念としてあのまま残しておくのか、どちらにしてもアレに関しては彼らの判断待ちで良いと私は思っているのである。……なので、そんな感じの事をエアへと伝えた。
「──ふふふ、そっかぁ。わたしは、記念に残るといいなぁ……。──ねえ、もしあのまま残るとしたら、ロムなら、その時はあのお城にどんなお名前を付けたい?」
……名前か。
基本的に私は魔法使いとして『名』というものの扱いには慎重を期している為、普段は不用意に相手の事を縛ってしまわぬ様にと、あまり口にするのを避けている。……なので、自然とそう言う『名付け』的な行為にも不慣れではあるのだが──ここは一つ、エアも感心する様なお試しの名前を考えたいと思う。
──うむ、そうなると、やはりこれしかないだろう!
「……そうだな。私だったら『崩壊城』と名付ける」
……うむ、ぴったりだ。
「フフフフ……、ろむの名付けって、おもしろくて、わたし好き……ぜんぶ、わかりやすいんだぁ……」
『土ハウス』も、『お食事魔力』も、私が名付けた『何か』は、いつだって大体が『あるがままを表しているのだ』とエアは語って笑っていた。
一般的なネーミングセンスからすると、きっと『ちょっと良くない……』という評価になるらしいのだが、そこに『ロムだから』という謎のフィルターを通す事によって、エアの中では『良い名前』に変わると言うのである。
そして、それは『まるで魔法みたいだねぇ……』と言いながら、私のお腹の上でこの愛らしい魔法使いは『むにゃむにゃ』と幸せそうに微睡みを続けるのであった。
「……ろむは、やっぱりすごいなぁ……」
「…………」
こんなにも幸せそうなエアを起こして、戦いの中へと巻き込むのは流石に嫌だと私は感じてしまった。
手のひらで『そっ』と髪をなでていると、少しして『すぅ……すぅ……』と小さな寝息も聞こえてくる。
……そんなエアの姿に、私は心底想ったのだ。
『魔法とは、こうありたいものだ』と──
『誰かを傷つけるよりも、笑顔にする為だけに使えたら』と──
「…………」
──だがしかし、そんな『内側』の心は別にして、『外側』では『毒々しい槍を持つ者』から『神からの伝言』だという話が語られており、それが進むにつれて彼女の剣呑さは増し段々と禍々しさをも帯び始めるのであった……。
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