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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第494話 考察。

この話にて、当作品は一周年を迎える事となりました!

いつもありがとうございます!今後ともどうぞよろしくお願いします!


注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。





 もしも、何も知らない者がこの場に居合わせていたとしたら、きっと私のその行動は突然の奇行に思えたかもしれない。


 『グギギギ……ナ、ナゼ……ワカッタ……』



 だが、その奇行によって、空高くからこちらを覗いていた『真の奇行者』を私は捕獲する事に成功したのである。


 ……何もない場所から、ただただ異質な声だけが聞こえくるものの、『糸』が捉えているこの相手は完全なる『無色透明』であり、未だにどんな顔なのかどんな体形なのか、目の前の私にもよく分かっていない。

 ただ、恐らくは『糸』の感じから人型の相手だとは思うのだが、それすらもまだ正直言って不明瞭である。



 思い切り空から引きずり下ろしたと言うのに、一切ダメージを受けている気配が無い事から、そもそもこの相手には物理的な攻撃は意味を為さないのかもしれない事だけは察していた。

 『糸』から伝わる感覚からも、物理的に触れ難い相手特有の雲を掴む様なそれだと分かる。

 ……近似としては、あの『ダンジョンの死神』に似ている感覚だ。恐らくだがこの相手も魔素だまりから生まれた魔物に近い性質をもっているのだと思う。



 それに、魔力でどうにか身体を拘束できたは良いが、先ほどから『身体の性質』を変化させて抜け出そうと試みているらしく、どうにも拘束し続けるのが一苦労しそうな相手でもあった。



 その面倒さを分かり易く言うと、水が『液体や固体や気体』に変わるのと似た感じでありながら、それも水だけではなく火や土、風、光、闇などと言った一般的に知られる他の魔法属性にもコロコロと性質が切り替わっているのである。



 そして、それらの変化は全て『無色透明』のまま、私に悟らせない様に行っているのだから、何とも器用な相手だと私は思った。



 基本的に、この様な性質を持つ相手は、敵対者からの魔法攻撃に対しても己の性質を変化して戦う術に長けていると思われる。一つの属性を極める事に特化した魔法使いなどにおいては、この相手は絶望的な天敵となるに違いない。



 私としても、もしもこうして拘束する際に、敵が性質を変えるのに合わせて『糸』の性質をこまめに変える必要等があったりしたら、きっと現状の私では間違いなく魔力量的に厳しい事になっていただろう。



「…………」



 ……まあ、その点私は、誇れることではないものの自分の不器用さと現状の魔力不足にはちゃんと自覚ができていたので、何が効くか分からないこの相手に対しては最初から『色々な糸』を多めに準備しており、それらで一気に拘束させて貰ったのだった。



 『属性を切り替える相手?──なら、最初から全部の属性で縛っちゃえば関係なかろう!』という感じだ。相手がそんなに性質を切り替えられる相手だとは知らなかったが、姿が認識できない時点で『何かがある』とは思っていたので、結果的にはその準備が功を奏したと言うだけである。



 まあ、結局はいつも通りの『力押し』とやっている事は同じではあるけれど、最初から手加減することなく全力を相手にぶつけるのは効果的であると言う話でもあった。……相手は今、『色々な糸でぐるぐる巻き』になっているのである。



 『戦力の分散、小出し、様子見はしない』というのが、前にも言ったかもしれないが長年しぶとく冒険者として生き残る為の秘訣であった。


 冒険者としての歴だけは長いので、この手の物資を余裕をもって準備しておく事に抜かりはない。フラフラのんびりとしているけれども、その点においては確りと心得ているのである。



 それに、この『糸』を用いた捕獲は──言わば先の街で『相手側が使った手法』である『線』にも近しい技なので、意外と敵の意識の外にあることも多く、『罠』としても非常に有効に使わせてもらったのだった。



 意外に感じるかもしれないが、自分が使っている技をそのまま返されると言うのは想像よりも対応が難しいと感じる例も少なくはないのだ。


 そして、相手が普段使い慣れている道で『安全だ』と思っている場所にこそ、最も隙は多く、『罠』という仕掛けは効果が出る訳なのだが……まあ、相手側からすると、そんな事は言わずもがなだろう。



 『グッ……ヌケダセヌ……ナゼダ……オレニ……キヅケル、ワケガナイノ二……』



「…………」



 私の『糸』に拘束されている『真の奇行者』は、諦めきれないのか、何度も何度も脱出を試みながら、ひたすらにそんな事を呟き続けていた。



 ……だがしかし、そもそもの話私だって『きっかけ』が無ければ、この相手を探そうだなんて思いもしなかったのだ。

 だから、この相手は気づいた私の『力』に驚いているのかもしれないが、本当はそうではないのである。私が凄い訳ではない。



 ──要は、これは相手側がただ墓穴を掘っただけの話であった。



 なにせ、先の街で『尾行者』達の話を私が聞いてしまったあの段階から、私は直ぐに彼らの裏には『何かが居る事』を察してしまったのだから。



 もっと言うのであれば、尾行者達が『教会から私の事を『泥の魔獣』であると教えられた』と言っていた訳なのだが、考えるまでも無く先ずはそこがそもそもおかしいのである。



 私がそう(『泥の魔獣』)である事を知っている者は確かに教会にも少しは居る。

 ──かつて『聖人』と対面する機会があった際に別の街にて、数人の教会関係者とはそんなやり取りはした覚えがあるからだ。



 だが、私はその際にちゃんと『約束』をしているのである。……魔法使いの『約束』に関して、今更説明するまでも無いとは思うが、その効果を簡単に考えて貰っては困るのだ。



 だから、『浄化教会』が私に関しての情報を漏らすわけがないと私は仮定し、そこから判断した場合──教会以外の誰かが私の情報を漏らしたと言う話になる。



 そうすれば、後は当然の様にそんな事を知っている存在は限られてくるわけで──それが最も有り得そうなのは『良くわからない存在達』だろうと私は思ったのだった。



「…………」



 なので、そこに思い至った時点で、私はあの街を離れる事を直ぐに決めたのである。


 もしもこれがまた奴等の思惑の内であるのならばと考え、『このままこの場所に居る事は危うい』と直ぐに思ったのだった。



 もしかしたら、そこで私が逃げる事の方が予想されていた可能性もあったが──それよりも、私に対して際どい話をしている『尾行者』達の事を私が不快に感じ、彼らと戦闘に発展する事の方が余程『敵側が予想しそうな事』であった為に、私はそちらの選択肢を避けたのである。



 なにしろ、『敵側』からしたら私は、これまで牙を剥いて来た敵対者をほぼほぼ見逃したことがないと言うとんでもない危険人物であるからして……『大樹の森襲撃』の時だって、万を超えるドラゴン達を寄越したのだろうが、結果として一人残らず生きて帰した存在はいない為に、『敵対する者は皆殺しにする耳長族(エルフ)』だと、奴等がそう判断しても仕方がないと思うのである。



 よって、そう思っている『敵側』であれば、当然あの時も『私が尾行者達と戦闘になり、彼らを消し去る筈だ』と予想し、そこに何らかの『罠』を仕掛けておいてもおかしくはないと、私は逆に判断したのだ。



 およそ、あの時の会話から察するに、彼らを私に殺めさせることで何らかの悪名を広めさせたかったのだろうが、今更ながらにあんなにも分かり易い『毒エサ』に引っかかる奴などいないのである。



 ……と言うか、あれに私が引っ掛かると思われた事に対して、少しだけ『ムカッ』とくるぐらいであった。そこまでお馬鹿じゃないのだぞ。



「…………」



 ──ただ、明らかに『私の情報を得る』という事を重んじていたらしい『尾行者』達の様子からして、『敵側』が直接的な攻撃よりも先ずは情報戦に切り替えたのだと私は状況から理解した。



 『事を焦らず、長期戦の見込み』でもあると。敵側の真剣さを侮らずに警戒しているからこそ、私はそう強く感じたのである。



 ならば、自然とあの街だけで『偵察』が終わると言うのも作戦としては考え辛い──とするのであれば当然、『偵察役は他にもいるだろうな』と、そんな予想が出来てしまうのであった。




 ……だから、結局の所、私は何も凄い事などしていないのである。

 君達が気づかせてくれただけの話だ。



 そして、『上手くいく時ほど気をつけなければいけない』と言うのは、彼らに対してと言うよりも私自身に向けての戒めであった。



 なにせ、これが出来るかどうかで、冒険者としては長生きできるかどうかに深く関わって来るのである。



 何が起こるか分からないのが世の常であり、瞬きをした次の瞬間には、敵が背後から襲って来る事もあるのだ──




 ──ゴギンッ!!



 『ナッ!?──ソレニモ、キヅクカ!!』



 ──そう。こんな風に……。



 私は『敵側』の背後からの攻撃に対して上手く防ぐことが出来た。

 ……ただ、流石に今回は読みが当たり過ぎている部分はある。


 『敵側』がそれほどまで真剣に考え、『狩る行動として冒険者の動きを参考にしている(?)』が故に逆に読みやすくなってはいる様な感覚はあるのだが──まあ、現状私としては経験が活きて何よりではあった。



 それに、『真の奇行者が一人だとは限らない』と、ちょうど警戒していた所に攻撃が来たので上手く反応が出来た訳なのだが……やはり、案の定と言うか『敵側』の襲撃は一人ではなかったらしい……。



「…………」



 重たく鈍い金属の衝突音がした背後側へと視線を向けると、私はそこに視る限り毒々しい色合いをした槍を構えて、溜息を吐いている女性の姿を発見したのであった。


 ……そして、その女性は私と視線が合うと、ニタリとした微笑みを浮かべながら、こんな一言を言って来たのであった──。



 『──お久しぶり、ね』と……。




またのお越しをお待ちしております。


(特別な何かを書こうとも思いましたが、その途端に筆が遅くなりそうでしたので、結局はいつも通りにしました。……要は、毎日が特別なんですと。そんな言い訳をしつつ、ここに一応の記録を残しておきたいと思います。)


変わらぬ目標──『目指せ書籍化!』

1,552,363文字


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