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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第492話 果敢。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。






 『内側』にてお祭りが終わる頃──そんな祭りの余韻を感じながら、気分良く『外側の私』も身体を休められそうな場所を求めてフラフラと彷徨い歩いていた。



 ……ただ、一見してフラフラと歩きながらも、ちゃんと現状で出来る限りの警戒は常に払っており、人通りが多い街道は敢えて避けて、あまり人が通らない森を真っ直ぐに突き抜けながら移動しているのである。



「…………」



 ……まあ、私が何故そんな道を通っているのかと言うと、簡単に言えば『尾行者』対策であった。

 一応『泥』にて『ジャリジャリ』させて対処はしておいた訳なのだが、あの街から十分に離れる為には、きっとあれだけでは万全の時間稼ぎとは言えないだろうと思っての行動である。


 『狩る気』満々だった彼らがあれで諦めてくれたら良いのだが……まあ、そうならない事の方が多いと予想し、こうして地道に距離を離すための行動をしていると言う訳なのだ。



 それに、こうした道は冒険者でも中々に慣れていないと通り辛い訳で。

 ましてやそれが生粋の魔法使いや錬金術師達では尚更に追いかけ難いだろうと言う判断でもあった。



 魔法を使って私の跡を追うにしても、既に森に入ってしまっている段階で色々な生物達が存在するこの環境から私だけを探り当てるのは消費魔力的にもかなり骨が折れる筈。

 尚且つ、現状の私は皮肉にもそこまで魔力量が膨大と言う訳でもない為、結果的に探り辛さはもっと難度が高くなるだろう。……それでも追いかけたいと言うのであれば、どーぞどーぞと。是非とも頑張って貰いたいのである。



「…………」



 ……ただ、こうして森に入って一安心したからか、私にも少しだけ隙が生まれ──ふと、今更ながらにあの時の『尾行者』達の会話を思い出し──私はついつい考えに耽ってしまうのであった。



 まあ、彼らが私を『泥の魔獣』という風に呼んだ事に関しては最早仕方がないとは思っている。

 どうしてそれを知り得たのかは別として、私がそう呼ばれてしまった事は確かだし、原因は全て『聖人』にあるのだから、それを彼らにどうのこうの言うつもりは全くないのだ。



 ……ただ、そんな『泥の魔獣』に対する彼らや世間の認識が、まさか『破滅を齎す存在』だと思われている事に、私は少なくない衝撃を受けたのだった。



 『むむむ……私ってそこまで言われる程の事をしてしまったのか?』と言うのが正直な気持ちだ……。



 それに、あの場に居た錬金術師の一人は、『──奴が歩くだけでその土地の力は弱まっていき、ひいては滅びへと導く』とかなんとか、そんな感じの事も言っていた気がするのだが──流石に、そっちは言い過ぎじゃないかと私は思うのだった。



 ……なにせ、それじゃまるで、私が『淀み』みたいな言い方なのである。

 当然、そんな噂は不本意だし、甚だ遺憾であった。



「…………」



 ──だがまあ、実際にこうやって各地を歩いている間も、確かに各地の精霊達を『別荘』にご案内していると言うのは、あった。



 なのでその後、案内された精霊達が『別荘』に居心地の良さを覚えて、元の『領域』の管理が多少なりとも荒れる事も……時々……いや、そこそこ?……まま、あったかもしれない。



 だからそれによって、その『荒れ具合』を『土地が弱っている』と感じる者も中には居るだろうなとは思うのである。



「…………」



 ──だがしかし、それは別に土地に破滅を齎している訳ではなく、その土地の管理をする事によって傷ついている精霊達を保護したいと、癒したいと、私がそう思っただけの話なのだ。



 それに、そもそもの話をするならば、『人』の中には自然やその土地の『力』が、消耗しても勝手に元に戻るだろうと漠然と考えている者が少なくないと言う、そんな認識違いもあった。



 『作物を作ると土地の力が弱るが、暫く休ませれば、勝手に『土地の力』はまた元に戻るから……』と、そういう『教え』を疑いもしない者達が中にはいるのである。




 ──でも、少し考えれば分かる事なのだが、そんなお馬鹿な、都合のいい話がある訳無いのだ。

 何のコストも払わずに、それが元に戻っている訳が無いのである。


 ……つまりは、それは『誰かがずっと、直して『力』を分け与え続けているのだ』と、何故『気付かない』のだろうか。



 『人』からはその姿が見えなくとも、精霊達は自分達の存在を消耗させ、傷つきながらもずっとその『領域』を守ってくれていると言うのに……。



「…………」



 ……彼らは優しいのだ。

 『誰かが喜んでくれるなら自分達も嬉しい』と。

 『困っているならば、ちょっとだけ手助けしちゃおうかな』と。


 そんな風に、自然と他の存在を思いやれる優しい者達なのである。



 それが例え、後から勝手に住み着いただけの──自分達の縄張りだからと、傍若無人に振る舞うだけの我々の様な存在(『人』)であっても、彼らはそうやって優しく接してくれているのだ。




 ……だから、私としてはそんな彼らを助けたいと、傷ついた彼らを保護し、癒し、安心できる場所として『別荘』ぐらい作ってあげたいと思ってなにがいけないのか、というそんな気持ちになるのである。


 精霊も自然も、我々『人』が好き勝手に出来る都合の良い道具でも資源でもない。

 彼らにもちゃんと『心』があり、生きているのだ。それを決して忘れてはいけないのである。

 ……彼らが優しいからと言って、図に乗り過ぎては痛い目にあうのも当然なのだと。



「…………」



 私が『魔法使い』として『力』を求め始めたのも、最初はそれが理由にあった。

 誰も助ける者が居ない精霊達の姿を見て、私がその一人目になりたいと。

 彼らの為に『力を揮いたい』と。



 私と言う『野生に生かされた魔法使いの──原初の想い』はただそれだけだったのだ。



「…………」



 ……まあ今では、有難い事に精霊達だけではなく守りたいと想う大切な者達も増え、大切にしたいと言う気持ちもより深まった訳だが──私はこの『初心』を大切に、いつまでも忘れずにいたいと強く想うのである。



 なので、今後も精霊達を守る為に、『別荘』を案内する事も止める事はないだろう。

 ……例えそれによって何が起ころうとと、何と言われようともだ。



 だから、その想いを遂げるためにも、もっと多くの精霊達を守れる様になる為にも、より頑張っていかなければと──改めて私はその決意を固く結ぶのであった……。





またのお越しをお待ちしております。

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