第491話 幕間。
私が『微熱』でエアに看病されてから一月程が過ぎようとしていたそんな時分。
ようやく一つのお祭りにも幕が下りた。
激戦に次ぐ激戦。どれ一つとして気の抜けない真剣勝負ばかり。そんな連日の熱狂は一月と言う時間の長さを忘れさせる程の盛り上がりだった。
誰もが精一杯ぶつかっていた。
その時間はあっという間で、まるで夢の様だった。
久々の祭りと言う事もあってか、尚更に皆、はしゃいでいた様に想う。
熱気は多くの者達を巻き込み、そして、最終的には『城の崩壊』と共に、劇的な決着がついた。
……だが、その結果最後まで立っている者は誰も居らず、競技者達は全員地に倒れていたのだ。
全力と言うのはこう言うものなのだと、最早指先の一つすら満足に動かせない程にまで全てを絞り尽くしたのだと──それが一目で分かる光景だった。
楽しめるだけ楽しんだ。暴れるだけ暴れてやった。その結果がこれなのだ。
……全員が倒れているその場には、競技の勝者はいなかったのかもしれない。
だが、真の意味で、心行くまで楽しんだ者達の姿がそこにはあった。
精霊達もゴーレムくん達も、それを観戦し時には運営にも携わっていたレイオスもティリアも、この祭りに関わった全ての者達が、この終わりを満足そうに感じていたのだ。
倒れながらも尚、良い笑顔を浮かべている彼らを──私はまた全員『勝者』だと、そう呼びたくなった。
……因みに、各競技の累積ポイントも、精霊達とゴーレムくん達で比べると大体イーブンだったそうで、個人個人の差はあれど、全体的に今回の『大運動会』イベントは結果として『引き分け』という事で決まったらしい。次回への期待も高まると言う展開である。
ただ、私の場合此度は『調整や微熱』によって詳しい試合の状況等や、誰が活躍したのか等あまり把握できてない分だけ、少し不完全燃焼ではあった。
でも、競技をずっと観戦していてくれた友二人や、エア達から『お話』として色々と寝込みながらも教えて貰えたので、お祭りの雰囲気だけはちゃんと感じる事が出来たのである。
まあ、不完全だった分は次回の楽しみとして取っておこうと思う。
……私の予想では、『大樹の森』が安全ならばまた直ぐに次回の開催予定も話し合う事になると思うので、今度は他のイベントも合わせてよりごちゃごちゃした感じに、大いに盛り上がりたいと考えている。
そして、その時こそは最後まで私もその熱狂の中で皆と共に在りたいと思ったのだった。
「…………」
……だが、私がそんな風に思っていると、『次回の開催は、あまりそこまで急がなくても良い』と、逆に参加者達からは予想外にもそんな言葉が出てきたのである。
──と言うのも、ちょくちょく開催されるお祭りも楽しいが、今回の様に数年間訓練に費やした上で、鍛えに鍛えあげた後その全てを掛けて戦い合う競技のレベルの高さと面白さにみんな気づいてしまったのだとか。
今回は特に、精霊達もゴーレムくん達も互いに最初から最後まで『相手がこんなにも成長しているとは思わなかった』と、そんな驚きの連続で凄く新鮮だったらしい。
『全然相手の動きや戦略が読めなくて、洗練されていて凄くドキドキした』と。
『その分、自分達も何が出来るかを精一杯考えて、精一杯『力』を尽くしたのだ』と。
『だからこそ、最後の最後まで、絞れるだけ絞って、あれほどまでの全力が出せたし楽しめたのだろう』と──。
ちょくちょくと開催するイベントでは、あそこまでの全力は出せなかったかもしれないと言う彼らの話を聴いて『なるほどな』と私も思ったのだ。……未だ興奮も冷めやらぬ様子の皆の姿に、自然と私の心も熱くなるようだった。
なんだかそれだけで、私も嬉しくなってしまったのである。
そして、それが彼らの望みであるならばと、『──では、開催はまた数年後にしようか』と、話はまとまったのだった。
「…………」
考え方や感じ方が様々ある様に、楽しみ方だって一つではない。
同じ景色も、見方を変えるだけで違う良さを感じる事もある。
それは、『人』でもそう。そして、『イベント』でもそうなのだと知った。
直ぐに出来ないからと言って、その気持ちがなくなるわけではない。
楽しみを取っておく事、待つ事にもまた違った楽しさがあるのだと。
それまでの流れや伝統があるかもしれないが、それは決して無理して不変であらねばならないと言う訳ではない。それだけに縛られる必要は無く、ある程度の柔軟さはあっても良いのだと私は思うのだ。
……少しだけ楽しみ方と考え方を変えてみる、ただそれだけの話。
だが、それはある意味で『挑戦』にも近しい言葉だとは思う。
何かの壁にあたり、それ以上進めない場合の解決策の一つでもあるのだと。
──勿論、変える事によっての混乱や困難、痛み、複雑さは生まれるだろう。
それぞれの『利』を考えるなら、競技期間を変えるだけでも『有利不利』が生まれて当然なのだから。
安定と不変を求めるのであれば、それはある意味で邪魔なものでしかないのかもしれない。
……だが、それはもしかしたら、『前以上の違う楽しさを生んでくれるかもしれない』と言う、そんな大きな可能性も秘めているものなのだ。
それこそが『試み』をする意味であり、『新たなる挑戦』へのきっかけとなる。
『迷っているのなら、先ずは試せ、試してからまた考えよ』という話でもあった。
それに試してみて、また前の様に楽しみたいと思う様になったら、また元の楽しみ方へと戻してもいいのである。
そして、戻した時にもまた何かの発見があるかもしれない。
今までは見えなかったものが見えるかもしれない。
『小さな差異』にも気づけるかもしれない
……だから、きっと『模索する事』には、終わりなどないのであろう。
『完全』の一歩先は、常にどこかに存在するのだ。
「…………」
……そうして、イベントの終了後には、暫く興奮が冷めない様子の精霊達とゴーレムくん達は、更なる盛り上がりとして──『また数年後、戦えるのを楽しみにしているぞ……』『ふっ、そちらこそ精々それまでに腕を磨いておけよ……またな』と、なんかとてもいい感じの雰囲気で独自に高め合う『去り際』も演出していて──こちらの意図していた以上の参加者達のそんな楽し気な姿を見れただけでもう、運営側である私達としてはなんとも言えない喜びを感じてしまうのであった。
本来の予定ではこのあと普通に『閉会式』も開くつもりだったが……この流れで流石にそれは無粋だと思い直し、急遽『閉会式』も中止にした程である。
参加者である彼らがそうしたいと思ったのならば、今回の『お祭りの終わり』はそれがきっと一番相応しいのだろう……。
エアと共に『大樹』へと身を預けながら、そんな皆のイキイキとした姿を眺めつつ、私はそんな事を思うのであった。
またのお越しをお待ちしております。




