表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
486/790

第486話 枝糸。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。


2021・03・23、全体的に微修正。内容的な変更はなし。




 『不気味でしつこい尾行者』に対して、反撃を開始した私が仕掛ける『罠』は──お得意の『泥』を使うつもりである。……まあ、『泥』についてはもうお馴染みなので説明不要だろう。



 ただ、現状ではこれが最も『魔力的に消費が少なく』、『操る労力も控えめ』で、『相手にも凄く気付かれ難い』と言う、そんな三拍子が揃っていて大変に使い勝手が良いのであった。



 そして、私は今からこの『泥』を使って、相手の口の中にでも突撃させたいと考えている。

 精々私の意趣返しによって、口の中が『ジャリジャリ』になるといい。



 因みに一応厳密に言っておくと、今回の『泥』を『罠』と呼んだのは、この『泥本体』に『糸』と呼ばれる仕掛けをつけて運用するからであり、正確にはこの『泥』よりも、これを導いて相手の元にまで引っ張ってくれる魔力の『糸』の方にこそ、重大な役割が備わっていると言えるだろう。



 要は、一見これは普通の『泥』に見えるのだが、今回は『特別な糸が付いた泥』となっているのであった。……まあ、これについては少しだけ説明をしておこうと思う。



 先ず、軽くさわりだけを始めに説明しておくと、『尾行者』が使っている『覗き』の魔法の一部にこれを取り付けて、相手の所に運んで貰おうと言う狙いである。



 そして、もう少し細部を説明すると、相手がこちらを見るのに使っている魔法の手法が、街の至る所に魔力で『線』を繋いでおき、そこから無関係な『人』や『物』に『線』を伸ばしては、間接的に私の事を『覗き見ている』感じなので──



 ──私は今回相手が仕掛けたその『線』の一部に、こっそりと私の『糸付きの泥』を繋げておいて、そこから相手の『力』の流れを一部利用して遡らせ、バレずに相手の元へと『泥』を運んでしまおうと言う計画なのである。



 ……ただまあ、かなりざっくりとした説明だったので伝わり難かったとは思うのだが、実際にはこの『バレずに』と言う部分が何気にとても難しく。


 この手の腕利き魔法使い達は、誰もが己の身体に対して何かしら恒常的に『防御魔法』を張り巡らせている事が殆どなので、何の対策も立てずに相手の居場所を探ろうとすると、普通は直ぐに感づかれてしまうのである。


 


 まあ、本来の私であれば、そんな多少の小細工などは何の関係もないと言わんばかりに『力押しで全部解決』してしまえるのだけれども、現状はそうもいかない為に地道な方法を取るしかなかったのであった。



 ……それも、今回の場合は特に相手の警戒心が強く、対策にも力を入れているようで、私の事を『覗く』為に使っている方の『線』は、大体がダミーとなる無関係な何かを間に幾つも挟んであり、私が相手の居場所を探ろうと『糸』をつけても、簡単には居場所を遡って辿れない様になっていたのである。




「…………」




 ……よって、本来であればもっと手こずるかと最初は思っていたのだが、何とも不思議な事に私に対してはそれだけ面倒な事を確りと対策しているくせに、あの男性商人に対しては魔法使いじゃないからと侮ったのか、この『尾行者』はかなり雑で単純な『線』しか使わなかったので、私はそちらから辿る事が出来たと言う訳なのであった。



 まあ、相手側からすると同じ魔法を使ったのだから、『線』の違いなど分かるわけがないと高を括っていたのかもしれないけれども……、私に対して使ったのがかなり丁寧で複雑な魔法だったが故に、逆に男性商人に対して使った魔法の『荒さ』が際立ってしまい、私の目には一目で違いが分かってしまったのである。



 そもそも、私の方に『力』を割き過ぎたが故に、男性商人の方がそうなってしまった可能性もあるだろうが──まあ、そこにどんな理由があるにしろ、何ともお粗末な話だと私は思うのであった。



 それに、もっと単純な話をするならば、なんで私を『覗いている線』を使って、男性商人の方も一緒に視なかったのかと、そんな純粋な疑問も浮かぶのである。……なにか出来ない理由でもあったのだろうか?でも、だとしたら、それはいったいどんな理由だったのだろうか。



 ──何となくだが、考えれば考える程に凄く気になってくる問題であった。



「…………」




 ──という訳で、妙にその事に気を引かれた私は、少しだけその理由について考えてみたのである。



 そして、直ぐに考えられる理由として、先ず最初に『パッ』と頭に浮かんできたのは二つあり、まず一つ目はその『線』は『基本的に私以外の相手には触れさせたくないし、使いたくもないし、見たくもない』と言う、『そんな変な拘り』を相手が持っている場合であった。



 これについては、男性商人に使ったのも仕方なく嫌々使用したからこそ、あんなにも魔法が『荒く』なってしまったのだと考えれば、一応の辻褄はつくかと私は思ったのである。



 ……ただ、基本的に個人的な『拘り』と言うのは個人個人の性癖や価値観が話の前提になってくるので、全てを理解する事は大変に難しいとだけ私は先に言っておきたいと思う。なので、これ以上の言及も不要だろう。



 そこで、もう一つの思い浮かんだ理由の方が今回の事に関して正解に近い気がするのだけれども──もしかすると相手は、この『線』の魔法の対象を、『固定する仕様』にしてしまったのではないだろうかと、私は考えたのである。



「…………」



 要は、使い回しが凄く不便になるのだ。他の対象を『視る』際にはまた新しく魔法を発動する必要もあるし、複数発動したらそれぞれを上手く使い分けないと何もできなくなると言う大変に面倒な仕様なのである。


 ただ、その面倒さに引き換え、上手く使いこなせば対象への魔法効果は凄く増すので、今回の相手はそれを使いこなす腕に自信があったからこそ、この方法を取ったのではないかと私は思ったのであった。



 確かに、今回の場合で言うと、私は相手に一方的に『覗かれたまま』最初は何も出来なかった訳で、相手の居場所すら掴めないし、全然対応も出来ていなかったと思う。正直、複雑過ぎて翻弄されてばかりいたのである。


 だから、もしも相手が『隙』を見せてくれていなければ、あのまま相手が飽きるのをただ待つか、急いで街を離れるしか方法がなかっただろう。応用力の無さはデメリットだと言えるが、効果を重視するのであれば、あの魔法の編み方は『対個人』においてかなり有効である事は間違いない。



 ──よって、私は予想では、当然の様に後者の理由が可能性として高そうだと判断したのである。



「…………」



 ──まあでも、結局はそんな仕様にしたせいで、男性商人にも『線』を使う破目になり、その面倒さから『荒さ』が生じて私に気付かれ利用されてしまった様なものなので……相手側としては何とも残念な結果であっただろう。



 ただ、先程も言った通り、恐らくは相手側の感覚からすると複雑に街に張り巡らせた『線』の中に新しい『線』を増やした所で、どっちも元は同じ魔法の『線』であることには変わりがないのだから、どうせ私も気付きはしないだろうと──そう思われていた事だけは私としては少しだけ『むかっ』としたのである。



 それを察した時には、流石の私も『おいおいおい、待て待て待て』と言いたくなってしまったのだ。



 こんな私だって『伊達に数百年魔法使いをしているわけではないのだぞ』と。

 『あまり舐めてくれるなよと。それくらいならば感覚で直ぐにわかってしまうのだぞ』と──。



「…………」



 ──と言うか、私の感覚からすると話はもっと単純で、周りに『黒色の線』が見えている中に、いきなり『灰色の線』が出てきたとあらば、流石に『あっ、これだけおかしい!色が違う!』と気づくのである。……いや気付かない筈がない。



 まあでも、同じ魔法を使った際の微妙な魔力の荒さを『感覚として色で捉える』事が出来る者は少ないのかもしれないが、私に対して使った魔法と男性商人に使った魔法で、あれだけの『質の違い』があるのならば、結局は私以外の魔法使いでも気付いたと思うのである。先ず間違いなくエアであれば直ぐに気づいただろう。



 折角あんなにも丁寧で複雑な魔法を使える技術があったとしても、一方ではあんなにも手を抜いた魔法を使うようであれば、それは最早台無しである。魔法使いとしては『隙』でしかない。



 そして、その『隙』が魔法使いの世界では致命的な『実力の差』となって返って来るのだと言う事を、直接その身体に教えてあげようではないか。……精々、口の中が『ジャリジャリ』するといいのである(二回目)。



「…………」



 だが、これが逆に『罠』である可能性も否定できない為に、私にしてもまだまだ油断はできない状態であった。


 私が直接相手の場所に向かう事はせずに、こちらも『糸付きの泥』を向かわせたのはそう言う理由もあったからである。



 もしここで、相手が更なる企みを潜ませていたのだとしたら、その時は前言を撤回する訳なのだが……どうやら今回の場合は、感覚的に恐らくそう言う事も無さそうであった。『泥』は上手く届きそうである。




 ──ただ、『尾行者』は本当に実力者ではあったのだろう。


 それも、かなりの自信家であり、その自信に見合うだけの魔法の技量もちゃんと持っている相手だったとよく分かった。


 ……だが、そのせいであまり足元を掬われた経験自体が少なかったのか。それ故の驕りがある様に私は感じたのである。



 まあ、どれほど魔法に長けていようとも、『大丈夫だろう』と思える時ほど、『一番気をつけなければいけない』という意識は常にもつべきだと私は思うのだった。……魔法使いは特にな。



 なので、今からそれを──そんな大事な事を忘れて油断したら酷い目に合うのだという事を──相手に存分と口の中で味わって頂きたいと思うのである。



 君達から『覗き』を仕掛けて来たのだから、精々口の中が『ジャリジャリ』に……(省略)。



 それと、現状になっても未だ『糸付きの泥』が外された感覚もない為、まず間違いなく『泥』はもう敵の元まで届いただろうなと私は悟った。



 ……であるならば。ごほん、然らば、喰らうがいい!私の小さな意趣返しを──!



「…………」



 ──という訳で、そろそろ向こうの状況でも視てみようかと、私も意識を少し傾けてみる事にしたのであった。……さてさてどうなっているのかな?





 すると、どうやら向こうは何処かのうす暗い部屋の中に居るようであり、そこには幾人かの魔法使い達が話をしているのが先ず感覚として伝わって来たのである。……ほうほう。暗いな。悪だくみをしている魔法使いっぽい部屋だ。



 そして、私の『糸付きの泥』は既に『糸』を切りはらって、いつでも飛び掛かれる様にと傍で『スタンバイ!』しており、後は私の攻撃合図を待つだけである。……未だに全然バレてはいないらしい。大変優秀な『泥』である。最後まで頑張って欲しい。



 ……と言う訳で、後は私が『攻撃開始!』と合図を送ればいいだけの話、なのだが──



 『……本当に、あの耳長族(エルフ)の男が、教会の言う伝説の『泥の魔獣』なのー?』



 ──と、そこで急に何とも気になる話が相手側から聞こえてしまった為、私の意趣返しは一旦中止せざるを得ない状況になってしまったのであった……。







またのお越しをお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ