第483話 尾行。
『内側の私』の秘密の暴露をきっかけにして、結果的にエアや友二人との関係がまた少しだけ良い方へと変化した事は私にとっては凄く喜ばしい事であった。
──ただ、奇しくもそれとほぼ時を同じくして、『外側の私』の方でもまたちょっとした出来事が起ころうとしていたのである……。
と言うのも、『外側』の私は現在とある街にて、『領域の調整』と『大運動会の審判役』と『微熱』などの影響から、ここでは大変のんびりとした変化のない生活を送っていた訳なのだが──昨日辺りから丁度、私は密かに見知らぬ誰かから尾行されている事に気づいたのであった。
「…………」
……正直、その尾行者がいったい何時から、何の目的で私をつけていたのか、『ポーっ』としていた今の私では全く分かっていない。
それに現状は、『外側の私』もだいぶ『力を節約』しており、最低限スレスレの状態で活動している為、碌に『探知』や『妨害』などに割く力の余裕も然程無かったのである。
勿論、何かあった時の為に戦う位の準備は整えているものの、それは実際に襲われた時の事態に備えて即座に反撃できる様に残しておきたい。なので私としては、態々こちらから何か相手側に無駄に仕掛けたくはないと言うのが心情なのである。
そもそも、基本的な話として、尾行者などに一々構っていたら面倒極まりないだろう。その為、こういう場合は敢えて泳がしておき、相手が何をしてくるかの反応を見るに徹する事も私は少なくない。そこで、今回もまたその作戦に則って、相手が何をして来るかの様子を先ずは見て待つ事に決めたのだった……。
「…………」
……ただ、どういう訳かその尾行者は、私がもうその存在に気づいていると知りながらも、無理に直接襲い掛かって来る様な素振は全く感じさせなかった。間接的に誰かとやり取りする事も全くないのである。
なのでそうなると今度、この先は『持久戦』の様相を呈してくると言うか、どちらが先に音をあげるかの我慢勝負みたいな感じになって来るわけなのだが──私としては『待ちの一択』以外にあり得ないだろうと思っているのだった。
なにしろ現状、私は尾行されているとは言え、『調整と体調回復』の為に日がな一日のんびりと過ごしている様なものだし、探られても何か都合の悪い事がある訳でも無い為、時間をかけるだけ相手が損をしていくだけなのである。……なのでやはり、相手が何か行動に移してくるまではこのままで居ればいいと判断した。
「…………」
……ただ、そうすると行動する気のない相手を感じて、『この相手の尾行理由は何なのだろうか』と、のんびりと過ごしながらもふと私はそんな事を考え始めるのであった。
それこそ最初は『……私を尾行する事で何かしらの情報を集めようとしているのか?』とも考えたのだが──これ程まで相手側に動きが無いとなると、なんとなくそれは間違っていたのかもしれないと思う様になったのである。
ただ、これもまた冒険者としての『勘』に過ぎないのだけれども、何となくこの尾行者からは大した『悪意』も感じないのだ。……だから、どちらかと言えば、この相手は私に『興味があるだけなのではないか』と、そんな空気感を察したのである。
──要は、私はこの手の空気感は時々街中の住人達から感じる『あるある』にも近しいのだが……森から出て来ている『耳長族が凄く珍しいから追いかけている野次馬に近い存在なのではないか?』と、そんな想像をしてみたのであった。
『私に何か用がある』というよりは、感覚的にもそちらの方が余程にしっくり来るのだ。
なので、その点を鑑みても、やはり私から態々接触を試みる必要はないだろうと思い、待つ事にした。……興味があるのならば、向こうから勝手に話しかけてくるだろうと、そう想って──。
「…………」
──だがしかし、相手はその私の予想を裏切るかの様に、待てども待てども一向に接触してくる気配がなく。その上で、この尾行者からはなんとも言えない『独特のしつこいさ』を私は段々と感じる様になるのであった。
それこそ、昨日から尾行を始めたとしても、ほぼ一日中『恐らくは一人』で尾行を続けていると思われる相手なのだが──この相手、並の執念じゃないと思うのである。それも碌に食事も取れていない筈なのに、根性だけで凄く元気よく尾行している気もするのだ。
……その為、正直なんとも言えない気持ちの悪さも感じている。ちょっと怖い。
一切諦める気配はなく、でも接触を測って来るでも無く、ただただ私の事を尾行し続けているので──もう私の方が先に音をあげてしまいそうであった。
……ほんと、この手の『しつこい』相手は昔からとことん相性が良くないので、この気持ち悪さだけでどんどんとストレスが積もっていく様だ。
──だが、そうは言っても現状私としては『力の節約』もしたいし、街中で変に騒ぎも起こしたくないし、この相手を排除しても終わりだとは限らないし……と言うそんな理由もあって、手を出したくても出せない状況になってしまっているのである。
それに私としても、ここまで来たら『待つ』以外の選択肢も無いだろう。もう少しの我慢である。
……それにまあ、暫く待つ事で、回復して『調整』や『微熱』が治ればそれだけ『力』も使える様になる。なので私も今だけは大人しくしているのであった。
「…………」
──ただ、それにしても何とも不気味で、しつこく、かなり迷惑な相手だと改めて思う。
それも、ここまで直接的に接触を図って来ないのも大変に珍しいのだ。そのせいで逆にここまで対処が難しくなるとは思いもしていなかったのである。
……それこそ、ここまでまでの『しつこさ』も、今までの人生で数件あるか無いか。
思い返そうとしても、そうそう直ぐには思い返せず……。
確か、前回これと似た様な状況を感じたと言えば、それはきっと──
「…………」
──と、私は昔の記憶を掘り返しながら、そんな事をふと考えてみた訳なのだが……。
その瞬間の私は、今居る街のとある商店の前で偶々立ち止まっている所であり、その際、『チラリ』と横を向いたら、偶々そこのお店に居る『とある男性商人』と偶然目が合ってしまった訳で……。
私たちはそこで互いを認識し合うと──『あっ……』と思わず、そんな声を零してしまうのであった……。
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