第482話 惚気。
エア達に色々と胸の内を白状してしまってから数日……。
未だ微熱が続いている私は、寝床で静かに横になっていた……。
「──はーい!ロムー!ご飯の時間ですよーっ!」
……そして、ニッコニコのエアから甲斐甲斐しく世話を受けている状態だ。
勿論、エアがそうしてくれる事は個人的に凄く嬉しい事なので全然構わないのだが、『もう元気になった』と幾ら言っても『だーめ!ロムはもっと寝てなきゃっ!』と言われてしまい、中々ここから抜け出させて貰えないのである。……私のがうつったのか、エアも中々に過保護らしい。
……ただまあ、当然それ(過保護)だけが理由ではない事も、ちゃんと分かってはいる。
なにしろ、あの時、友二人が見ている前で私はエアに、『それはそれは情熱的な愛の告白と、涙ながらの独白』(?)をしたらしいので、これはきっとその影響もかなりあるのだろう。
それにあの日から、どこか周りの私に対する雰囲気がかなり変化している事にも気づいていた。
「…………」
……だが、先に一つだけ言わせて欲しいのである。
正直、あの時の私は、おかしかった。おかし過ぎたのだと。それを今更ながらに凄く思う。
でも、その想いは身の内に抱えていた事は確かなので、今更それを全て否定するわけではない。
……ただただ、そうは言っても、否定するわけではないけれども、それでも否定したい部分も内心は少しあったりする訳で──
「…………」
──自覚がなかったとは言え、あの時の私は最低でも軽く百以上は『愛している』をエアに情熱的に告げていたらしく。その上更に、『エアが居なくなっちゃうのは嫌だ!』的な事や、『子供を抱かせてあげられなくてすまない』的な事、それから『絶対に幸せにするから、いつまでも私の傍で笑っていて欲しい』的な事をずっと喋り続けていたと言うのである。
それも、それらは全てエアの聞き間違いとかではなく、友二人もちゃんと確り聴いていたらしいので、まず言い逃れも出来ないのである。……いやまあ、出来る事ならば友二人の方には『今すぐにでも忘れてくれて欲しいのだが』と、まあそれを今更言ったところで詮無い話ではあったのだ。
それにエアと友二人曰く……今回の事によって私と言う存在に対しての印象がかなり良くなったらしいのだが──
『へー、ロムにも意外と弱い所があったのねぇ……』とか。
『お前がそんなにも情熱的だとは知らなかった……』とか。
『ロムも色々と寂しかったんだねっ。──でも大丈夫っ!これからはわたしがもっとロムの事を甘やかしてあげるからっ!』とか。
『でも、必要以上にべたべたするのも嫌がるかと思ってたけど、実はそうじゃなかったんだねっ!』とか。
『あの時のロム、あんまりに可愛くて……。あの、だからその、またしてもいい?』とか……。
「…………」
……良くなったと言われてもまあ、なんと言うのか、そんな彼らの言葉が『凄く効いてしまう』私としては、思わず煩悶して床をゴロゴロと転がりたくなってしまうのであった。……正直、それを印象が変わったと言うのか、弱みを見つけたと言うのか、私側としては大変に判断が難しい所なのだ。
でも、知らなかったとは言え。こうして冷静になった後にじっくりと弄られる時の恥ずかしさと言うのが、これほどまでに羞恥心を抉られるものだとは思いもしていなかったのである……。あー、思い出す度に未だに微熱で体調も優れないが、それでも今すぐに床を『ゴロゴロ』したい気持ちがぶり返してくるのであった。
……それも特にあの友二人ときたら、『お見舞い』と称しながら寝ている私と看病するエアの姿を見ると、必ずただただ『にやにや』とした笑みを浮かべて去って行くのだから、何とも厭らしいのでる。その時には、こう、なんと言うのか、胸の内側を引っ掻かれている様な感じがして、凄くなんとも言えないむず痒さを覚えてしまうのであった。
……因みに、あの二人には現在『大運動会』の運営側へと回って貰ったので忙しくしている事だろう。そして出来る事ならば記憶の一部からあの日の私の事を消して欲しいと思った。
「…………」
……まあ、それもまた今更なのだがな。ばっちりと目の前で見られていた訳であるし、これからも度々弄られるのだとは思う。こればかりは仕方がない話だと想う事にしたのであった。
それにまあ、結局は彼ら二人のおかげで『例の私の秘密』についてもエアと深い相談をする事が出来て、私としては凄く良かったと思えたのである。……その為、『心』もかなり軽くなれたのは確かであった。
因みにだが、その際のエアとの相談内容を簡単にまとめると──
現状エアは『そこまで子供を欲しいとは思っていない』らしい。
だがそれは『将来的にもずっと同じ気持ちで居るのかは、やはりわからない』そうだ。……さもありなんだと思う。『欲しいと思う可能性も、当然ながらにありえる』のは私も最初から分かっていた事である。
……ただ、エア的には『ロム以外の相手は絶対に嫌っ!』とは断言していたのであった。
それにもし、子供を得られるとしても、得られないとしても、『ロムと一緒に居られる事の方が凄く大事』と、エアの中ではそれが最優先事項になっているのだと言う。そこだけはずっとブレない様だ。
またエアは、こんな事も語っていて──
『……子供が居る居ないを、愛の証明にはしたくないんだ。だってわたしの愛は、ロムを好きなこの気持ちは、もっと大きいんだからっ!』と……言われた私の方が照れそうになることを平然と述べていたのであった。
──因みに、これは別に惚気ているわけではないので、そこだけは勘違いしないで欲しいのである……。
ただ、その上更には『──それにね、ロムがわたしにくれた愛情は、もっともっと大きかったと思うんだっ』と、私の過保護な部分をエアずっと嬉しく感じていてくれた事も分かったのだった。これは何気に私としてはかなり嬉しかったのである。
また、そんな話しをしている最中のエアの姿は、私には今までにない位にずっとずっと大人びて見えたのだった。……なんと言えば良いのか、上手く説明はできないのだが、エアはとても大きく見えたのである
そして、『──いつまでも子供じゃないんだからねっ!』と、話の途中でそう言って少し怒る様な事もあったのだが、その時のエアの微笑みは、ずっといつまでも見惚れていられる程に美しかったのだった……。
「…………」
それから、それ以外にも色々と真剣な話もしており、『……もしもね、いつか子供が欲しくなったとしても、その時はロムと一緒に悩んでいきたいんだ』と、そんな事もエアは語っていた。
『言ったでしょ?一人にならないでって、だから、ロムが恐いと思うその気持ちもわたしと一緒に分け合って欲しいんだ』と。
『……もしダメで、泣くとしてもその時は二人で泣こうよ』と。
『──そして出来る事なら、それでもずっと諦めずに一緒に笑って歩き続けていこうね』と。
極端な話をするのであれば、私は心のどこかで『人』の愛の最大値は『子供を作る事にある』と捉えていた部分があったのだが──エアのその話を聴いていて『そうではないのだな……』と深く思い知ったのである。
同時に私は、エアのその抱く想いの強さを感じて凄く感銘を覚えたのだ。
──『想いとは測れないが故に、気づくのは難しいが、それでも本人次第でどこまでも大きく。それこそ無限に、深く広く高めていけるのだよ』と、まるでそう言われている様な気がしたのであった……。
そして、それはある意味で、『人』としての『差異』を教えて貰ったかの様な心地であり──それに気付かせてくれたエアを私は、より一層愛しく感じてしまうのであった……。
またのお越しをお待ちしております。




