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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
480/790

第480話 引延。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。




 もしもの話をしようと思う。


 ……仮にだ。もしエアから『子供が欲しい』と求められた場合──私はどうすればいいのだろうか。



「…………」



 なにしろ、この身にはその『力』がないのだ。

 なら、無いものは仕方がないからと、『諦めてくれ』とエアに伝えればそれで終わる話だろうか?

 ……いや、当然そうはならないだろう。話はそんなに単純なものではない。


 なにしろ『人』の性質として、根源的な欲望から『子を求める事』は生き物として凄く自然な行為だからである。


 なので、今のエアはまだ分からないかもしれないが、いずれは『その日』が確実に来るだろうと私は予想していた。エアもいつか『愛する自分の子が欲しい』と、想う様になるのだろうと……。



 ただ、少しだけ話は脱線するかもしれないが、それを考えた時に先ず最初に私が想い浮かべた事は、『エアが子供を抱く姿はとても似合っているんだろうな』という、そんな暢気で幸福な情景であった。


 子をあやしながらとても美しく微笑むエアの母親姿は──ちょっと控えめに言ってもまさに『女神』のそれに等しく、恐らくはこの世で最も素晴らしいお母さん姿なのではないかと個人的には想った訳なのだが──またそんな事を言うと『親バカ』みたいだと精霊達には言われてしまうかもしれないので、この想いはここだけの秘密である。



 ──ただ、なんにしてもそれは、間違いなくエアの『幸せな姿』なのだろうと私は想ったのだ。



「…………」



 ……だが、当然の様に、私では『その幸福』をエアに与えてあげる事はできないのである。


 だから、もしもエアが私の事を想ってくれて、いくら求め望んでくれたとしても、私ではエアに子供を抱かせてあげられないのだ。



 なので、それでもし『子を求めるがあまり』エアに泣かれる様な事態になったとしたら……私は……と──その様を想うだけで、とてつもなく恐くて堪らなくなってしまうのである。



 ……だから心のどこかでは、幸せそうな未来のエアの姿を本当に想うのであれば、ここで最も賢い選択は──エアには私以外からちゃんと相応しい相手を見つけて貰う以外に手はないと……そんな風な嫌な想像も思わずしてしまうのであった。



「…………」



 ……ただ、勿論それは私の本意ではないのである。

 なにしろそれを想像しただけで、当然の様に私の胸は説明不要の鈍い痛みを感じるのだ。


 これはバウの時と同じ様に──いや、あの時以上に強く、愛する者が離れてしまう事を拒む痛みであった。



 ──だが、それでも結局は、どれだけ胸が痛むとしてもエアの幸せを願うのならば、どこかのタイミングで私も割り切らねばならない事をちゃんと頭では理解しているのである。


 ……ただ、それでも心情的にはもう少しだけ時間の猶予が欲しいと思ってしまうのであった。

 そして、出来る事ならばその間に、またいつもの様に何かしらの解決策を模索し、問題を好転させていきたいと思う所なのである。



 そう言う訳で、現状はまだエアに私の秘密を知られていない方が、個人的にも気が楽なのでレイオスに協力をお願いしたと言う訳なのだが──どっちにしろ今の私では『領域の調整』と『大運動会の審判役』でいっぱいいっぱいになっている為、レイオスが居てくれてとても心強く感じているのであった。頼もしい限りなのである。



 それにレイオスも私の心情を察してくれたらしく、最初こそ少しだけごねてはいた気もするけれども、最終的には快く引き受けてくれたのであった。



 そして、今頃はきっと、ティリアに上手い事伝えてくれて、エアに『子作りの話』をしない様にと止めてくれている最中だろう。



 ──なので、私はこのまま、一先ずは安心して……んんっ?おや?



「…………」



 ──だがしかし、そうして私が『大樹』へと背をあずけつつ、座りながらそんな事を思案していると、私の視線の先からは先ほど走って行った筈のレイオスと、その後方には凄く見覚えのある可憐な女性が二人、私の方へと向かって歩いてくる姿が見え……私としては急激に不安になってしまうのであった。



 ……お、おや?れ、レイオス?これはどうした事だろう?なんで二人と一緒なのだ?

 ……それもエアもティリアも、どことなく深刻そうな表情をしているのだが、それは私の気のせいなのだろうか──?




またのお越しをお待ちしております。

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