第48話 会。
「んーー……んうーー、ぐぬぬーー……」
翌日、エアがまた熱を出して寝込んでしまった。
ただ、症状的には、微熱だけで、喉の痛みもなく、鼻水も出ていない。
ご飯も、水分もちゃんと取れている。
本人的にも少しだるいだけで気分もそこまで悪くないらしい。
そんな風邪とも呼べない位の軽いものなのだが……寝ているエアは、この前の風邪の時よりも寝苦しそうに『ぐぬぬー』と何度もうなされていた。……大丈夫だろうか。
……どうやら私は昨日、失敗してしまったらしい。
教訓を活かしてみたのだけれど、結果はご覧の通りである。
何がいけなかったのか分からないが、エアが熱を出したと言う事は、つまりはそう言う事なのだろうと思う。
偶々なのかもしれないけれど、彼女達鬼人族は無理する事以外でこうなったりはしない。
ここ最近、エアが無理をする事等全くなったので、原因は昨日の事以外では考えられなかった。
がんばって欲しいとは思ったが、言わない方が良かったのだろうか。注意はしていたつもりなのだが。
エアが具合悪そうにしている姿は、慣れるものではなく。
無邪気で元気な姿が一番良いと感じる。当たり前の事だが、私はこういう状況がやはり苦手らしい。
そうして私が暫く、エアの部屋で付き添って看病していたら、精霊の一人に肩を叩かれて、そのまま話があると引かれ、いつもの長机のある部屋に呼ばれることとなった。
入ってみるとそこには、大体いつもいる面子がほんのちょっと真面目な表情で待ちかまえている。
彼らが普段からエアの事をよく見て、よく心配してくれている事を私は知っている。
エアが焼肉をしている時に、たまたま落ちた肉を一瞬みてから悩んで『数秒以内ならセーフだよね』と、直ぐ拾って口に入れようとした時、彼らは連携して直ぐさまディフェンスをしてくれた。『そんな落ちたお肉食べたらお腹壊しちゃうでしょ!』とその落ちたお肉をエアの代わりに火の精霊の口へと押し込み、食わせて証拠隠滅してくれるような、そんな過保護集団なのである。
他にも、森を歩いたり猪や鳥を狩る時にエアが走っている時等、エアの邪魔になりそうな場所は先読みして、無関係な振りをしては『これは木の生育の為ー』とか毎回言い訳をしつつも枝打ちしてくれる風の精霊達。
魔法の訓練中、エアが喉が渇いたのかなと判断すれば、『寒い季節も意外と乾燥しやすいからねえ』と空間内の自分の周りの保湿を言い訳に、飲みやすい一口サイズの水球を準備する事を欠かさない水精霊達。
エアの食事の為に、野菜の在庫管理と無理ない範囲で『これは見識を深める為と趣味ー』と言いながらエア用の料理を作ってくれている土の精霊達。
それに火の精霊達だって、さっきの焼肉の落ちた肉処理以外にもいっぱい……色々と、火の精霊達だってやってくれて……指輪を、あっ……そうだな。んー、そう、良い奴等なのである。それにエアに優しい。そうっ!火の精霊達は優しい!それで良い奴等っ!優しくて良い奴等ッ!なのである。
彼らのこれらの行いを見ていれば、その過保護具合の凄さは今更言うまでもないだろう。
エアはとても大事にされている。有難い事だ。
だからこそ、今回の私の行いのやらかしを見ていて、彼らは恐らく言いたいことがあるのだと思う。
私は自分で昨日の行いの何がいけなかったのかが分からないのだ。彼らにここで説教して貰い、なにがいけなかったのかを教えて貰おうと思った。
『いや。別に旦那が悪いわけじゃないと思うぜ?』
『うんうん。それに言わなきゃ良かったなんて絶対に言っちゃダメだからね』
『そうそう。あれはエアちゃんにとって嬉しい事だったんだよ。それを否定なんてしちゃダメ!』
そう、なのか。
……だが、エアが体調を崩すのは無理をした時だけである。
大概の病は『天元』があるからかからない筈のエアが、体調を崩す時は大抵無理をさせた理由がある。
だとしたら、私が昨日言った言葉の中に何か問題があったでは?と思っていたのだが……それ以外に理由があるのだろうか。
『あれはちょっとした知恵熱みたいなものですよ。心配いりません』
……知恵熱。知恵熱か、本当にそうだろうか。
知恵熱であんなにうなされるか?『んうーーぐぬぬーー』するものか?
『……うっ、な、なるよ!』
『うん!なるなる!知恵熱ってうなされちゃうもん!私も良くうなされる!』
そうか。私の人生経験にまた少し書き加えておいた方がいいかもしれない。
『精霊も知恵熱にかかる』と、それは知らなかった……。
『あっ!ごめん冗談っ!』
大丈夫だ。冗談だと私も分かっている。
そもそも知恵熱もただの風邪の一種だからな。精霊はかからない。
君達が少し落ち込み気味の私を励まそうとしてくれていることくらいわかる。長い付き合いだ。
……ありがとう。
『……うっ、な、なんか。最近少し変わったよね』
『そうそう。前まではこんなに素直な言葉を言う人じゃなかった』
『私は良い変化だと思いますよ?……それに、私もエアちゃんがいてくれると優しい気持ちになりますし、気持ちは良く分かります』
君達はエアに激甘な者達ばかりだからな。
エアが甘やかされる事に慣れ過ぎてしまった時は、君達が原因だと私は思う。
『おいおい、そりゃ旦那に言われるのだけは心外だぜ?なあ』
『うんうん』『そうだね』『私も同意します』
いやいや、君達の方が過保護だろう。
何故ならば、落ちた肉を食べると言うのは、普通は嫌な行為だろう?顔を顰めてしかるべきだ。
だがどうだ?あの時の君は、それはそれは満面の笑みを浮かべていたぞ。素直に白状したまえ。
それに他の諸君も、毎回笑顔で色々とやってくれるわけだし……本当にエアの為に、ありがとう。助かっている。
『やめてくれよ。あれは俺達もやりたくてやっているだけなんだからさ……』
『私もです』『右に同じく』『同意です』
『……てか、肉の時って俺そんな嬉しそうな顔してた?してないよな?』
『してたね』『うん』『してました』
『…………』
精霊達は嘘は吐かない。ならこれらは全て本当の事なのだろう。
火の精霊が自分の知らなかった一面を周りに肯定されて、複雑な顔をしているのも本当の事なのだ。
……では、いったいどうしてエアは体調を崩したのだろうか。
私が何かしたと言う自覚はないし、無理をさせるようなことをエアに言ったつもりもないのだが。
私に出来たのは精々心配する事ぐらいで──
『──おいおい、旦那旦那。そう言う所だぞ?』
何がと私が聞き返す間もなく、火の精霊はそれが私の欠点だと指摘してくれた。
だが、具合が悪いのを心配する気持ちを過保護と言われても、私には納得はしかねる問題だ。
エアを心配しない?そんなことできるわけがないだろう。
『いや、そこじゃないって旦那。心配するのはあんたの良い所だから良いけど、その前だ』
「その前?」
『そう。あんたは昔から自分は大したことはしてない。何かをした覚えがない。って言葉をよく口にする。だが、そこが間違いだ。あんたは色々やってくれてる。自己評価の基準が低すぎる事は今更どうこう言うつもりもない。散々言っても理解して貰えなかった問題だ。そこは今回置いておく。だから、要は一つだけさ。あんたの言葉はあんたが考えているよりも、エアちゃんに影響を与えているってこと。それだけは覚えておいてくれよ」
『そう。エアちゃん、期待しているって言葉を聞いた時ビクッとしてた』
『顔真っ赤にして、嬉しそうだったよ?』
『思いもしない褒め言葉に舞い上がってしまったんですね。無理と言う程ではないですけど、それで少し気合が入り過ぎてしまったのでしょう。今回の熱は、恐らくそれが原因です』
そうして私は、精霊達からエアをもっと普段から褒めてあげるのがと良い、とのアドバイスを貰った。
勿論、無意味になんでも褒めるのは良くないのでダメだと言う。……正直、その線引きが難しい。
ただ、周りで見ていた精霊達曰く『よく頑張ったな』が今までの精々だったと言うので、少し言いすぎる位で丁度いいのかもしれない?と言う話である。……はて?そうだっただろうか。
いやーもっと色々と言っていた気がするのだが──。
『──声に出て無い時あるぞ』
『魔力で空にエアは天才って打ち上げている時もあるね』
『心の中では凄い褒めているんだとは思う』
『ほんと不器用な方なんですから。それを普段から出してあげてください』
反論でめっためたにされた。
どうやら私、褒めているつもりでいたが心の中で言っているだけで、エアにあまり直接伝えられていなかったらしい。……反省である。
『もっと小まめに褒めてあげれば、エアちゃんも慣れるんじゃない?』
『うんうん。偶にしか褒めないから!今回エアちゃんビックリしちゃったんだし!それがいい!』
……そう言うものなのだろうか。
いや、彼らが言うのだからきっとそう言う事なのだろう。
分かった。私はこれから小まめにエアを褒めていく事にする。
明日にはエアの体調も戻るだろうし、最初に褒める時の言葉からしっかりと、ちゃんと声に出して伝えて行こうと、私は思った。
またのお越しをお待ちしております。
前話の後書きにて、
本作品を応募に登録した事の報告と、書籍化を目指して頑張っていく事を、しっかりと言葉にしてみました。
……そしたら、いきなりアクセス数が前日の"4倍"になりましたッ!?
皆さん、ありがとうございますっ!目標に届くように、今後も頑張って参ります!
これからも何卒、本作品の応援・ブクマ・評価等よろしくお願いします!




