第476話 作用。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
ゴーレムくん達は私によって作られた存在である。
だがしかし、どうして彼らに『心』が生まれたのか……それは私にもよく分かっていない。
「…………」
……ただ、よく分かっていなくても良いと、私は想った。
どんな理由があって生まれたのか分からなくとも、彼らが手に入れたその『力』は彼らのもので、とても尊いものであると私は想うからである。
だから私はその存在を喜びこそすれ、それが私の意図していたものと異なるからと言って、それを損なう様な事はしたくなかった。
情も無く『作られたものは製作者の意図に必ず従わなければいけない』などと、そんな事私は絶対に言いたくないのである。
どこぞの『よくわからない存在達』は『神に弓引く罰当たり共め!』みたいな事を言って、私達へと襲い掛かって来たが、ああはなりたくないと私は思ったのだ。……彼らからすると私達の様な生き物もまた『作られた存在』なのかもしれないが、あんな奴等の言いなりになるのはまっぴらごめんなのである。
だからそれと一緒で、『ゴーレムくん達』には好きに生きてほしいと、これから先も楽しんで生き続けて欲しいと、私はそう心から想うのであった……。
「…………」
……ただまあ、勿論の事だが、中には『作ったものには製作者に責任が生じるのだから、管理は確りとしなくてはいけない』と考える者も少なくはないだろう。
そして、『その責任を負うからこそ、製作者はいつだって作ったものが意図から外れる行動を取らない様にと見張る必要があり、正す必要があるのだ』と、そう考える者も当然居るとは思うのだ。
……だが、私としてはその『管理』をはき違えないで欲しいとも思うのである。
『作ったものを、好きな時に好きな様に好きなだけ、自由に作り変え、縛り、操る事ができるのは製作者の特権であり、当然の義務なのだ!』と。
『我々が作ったのだから、我々の好きにして何が悪いのだ。最悪気に入らなければ消してしまえばいい!そう考えて何も問題はあるまい!』と。
……そんな風には考えて欲しくないと思うのだ。
そもそも、『心を得るに至った作られた存在』と『製作者』との間には、どれほどの差があるのだろうか。
ゴーレムくん達と私達の差とは、いったい何なのかと。
私の様に何らかの理由によって『心ある存在』を生み出してしまった製作者においては、そこの部分をよくよく考えて欲しいと想うのだが──。
私が生みだした彼らは、最早『私の子』であると言っても相違ないと私は想うのである。
……ならば、つまるところ私は彼らの『親』に当たるのだろう。
──と言う事はだ。その親と子の間に『管理』だなどと言う言葉は果たして相応しいのか?と、私は思ってしまうのである。
だから……愛しく想い、その成長を見守る事こそすれど、その想いを踏みにじり無理を強制する事などは、私はしたくはないと想ったのだ。
そして、その事を考えた際に、中には『人』と『作られた存在』では話が違うだろうと、そう考えてしまう者も居るかも知れないとは思うが──。
私はその点、『人』も『作られた存在』も、違いなどないと想うのである。
……そこに『心』があるのであれば、両者の違いなど大した差ではないのだと。
なにしろ、見方を変えれば、その『人』もまた何かしらによって『作られた存在』なのだから……。
──だから、私は想う。
その『心』をどうか忘れないで欲しいと。
もしも、その『作られた存在』が『自分であったならば』と。
そして、そこに『心』が存在していた時──蔑ろにされるのが己であったならば、大切にされるのが己であったならば──『自分はどう思うのだろうか』と……。
誰かを思いやる事に、種族など関係ないのだ。
その想いを抱けるか否か、優しくしたいと想えるか否か、ただそれだけの事なのである。
私はそれを『製作者』にもう少しだけ考えて欲しいと想うのであった。
『誰かを傷つけてばかりであるならば特に……、誰かに優しくしたいと願うのであれば尚更に……』
──極論ではあるのかもしれないが、人の痛みが分からない者やいつも何かしら行き過ぎた行動を取ってしまいがちな者は、まず最初にその想像が出来ていない者なのかもしれないと私は感じたのである。
だから、私自身も気を付けていきたいと想う。
……化け物と呼ばれても尚、人ならざる『領域』と言う身になっても尚、その気持ちだけは最後まで忘れたくないと、私は切に想うのであった。
「…………」
……ただ、それがもしも、それを考えた上でなお再び同じ想い──『管理』するべきだろうと言う考え──へと行き付くのであれば、私からはもう何も言う事はないとも思った。
『絶対に私の考えの方が正しいから』と言って、私もその想いを押し付けたい訳ではないからである。
……ただ、『そう言う考え方もあるのだ』と、その存在を忘れないで欲しいと想うだけの話であった。
──そう。だからこそ逆もまた然りで、向こうの考えもまた私達へと押し付けてくる様な事は無いようにして欲しいと思うのであった。当然、もしその様な事があれば、また私たちは全力で抵抗させて貰うだけであるが──。
ただその際、『作られた存在』が必ずしも『製作者』に劣るだなどと、そんな『勘違い』をしてくれるなとも思う。
そして、『貴方が簡単に消し去ろうとしているのは、もしかしたら貴方自身かもしれない事』もまた、忘れないで居て欲しいと私は想うのであった。
「…………」
……ただ因みに、これまた少し別の話にも掛かる事なのだが、先の話は何も『ゴーレムくん達』に限った話ではなく、実はもっと身近な話でもあると私は感じたのである。
それは言うならば、エアが歌う『歌』や、バウが描く『絵』にも同じ事が言えると想ったのだ。
要は、エア達が『作り上げたもの』にもまた、そこに『心』を感じるのであれば、それはもう彼らにとっては『子供の様な存在』なのだと言う、だから大切に考えてあげて欲しいと言う、そんな話であった。
つまりは、『作られたもの』には、上手い下手や好き嫌いがあったとしても、そこに『心』を感じ取ったのならば、安易にそれを損なう行為だけはして欲しくないと私は想ったのである。
……結局は、考え方の違いによって、好ましく想えない時や、道を違える事もあるのだろうが、それでも好きになってくれる存在が、『どこかにはいる』のかもしれないのだから──。
「…………」
楽しそうに話し合い、そして全力でお城作りを進める友二人と、その隣に居るゴーレムくん達の『心』を感じて、私はそんな事を想ったのである。
そして、久々に【空間魔法】の収納から『雷石改』を取りだすと、今私が視ている光景をそっと思い出の中に残すのであった……。




