第475話 尊重。
友二人を『空飛ぶ大陸』こと『第五の大樹の森(お城)』へと連れて来て数日。
レイオスとティリアはゴーレムくん達との城作りに励んでいた。
「ねえレイオス。やはり隠し通路は必須じゃないかしら」
「ああ、俺もちょうどその事について考えていた。『攻城戦』を目的とした競技を作るのであれば、やはり防衛側は最終的に守るべき対象を逃がす事も視野に入れておくべきだと思う。──それに、攻撃側も単調に攻め続ければいいと言うものではなく、その脱出路を使われ時には防衛側が反撃に出てくる状況なども考慮にいれておく必要がある筈だ。当然、その逆もまた然りだな。……そうする事によって単純な戦闘力を競うだけではなく、戦力の配分や作戦、指揮、周囲への警戒など、情報戦も含めて戦略性は更に高まり、自ずと競技性も増すだろう。きっと面白くなるぞ……っと、現状はこんな所だが、ボスはどう思う?」
『──コクン!コクン!』
「同意ね。そうじゃあ、最低でも経路は三つ?『玉座』、『寝室』、あと、『食堂』へと繋がる脱出路で良いかしら?」
「ああ、妥当だな。だが、場所が固定だと隠し通路の意味が無いから、外へと通じる出口の方はもう少し工夫が必要かもしれない」
「……そうね。では、私は先にゴーレムくん第一大隊を連れて城内部の方から作り始めるわ。レイオスとボスはもう少しその部分の考えを煮詰めておいて。最悪、出口は一緒でも地下の脱出経路を迷路状にして、そこの通路を切り替える事でも対応できると思うから」
「……なるほど、それもいい考えだな」
『──コクンコクン!』
「…………」
レイオスとティリアの周囲にはお城作りをしていた殆どのゴーレムくん達が手を止めて集まって来ており、今は皆で仲良くお城作りの相談中でもあるようだ。……まだ出会って数日であるにもかかわらず、だいぶ両者の仲は深まっている様に視える。友二人もゴーレムくん達も凄く楽しそうな雰囲気だった。
それに、元々王城で暮らしていた経験も活きているのか、友二人が話す『攻城戦競技』は段々と面白さが増してきているように私も感じる。……だがまさか、遂には『隠し通路を作るか!』と言う段階の話にまで広がるとは思いもしてもいなかったが、精々全力で楽しんでほしいと思った。
ゴーレムくん達も友二人の意見には目から鱗が落ちる想いなのか、聴きながら『確かに!脱出路は盲点だった!』とか、『よっしゃ!楽しそうだから地下迷路も作ろうぜ!』とか、凄くワクワクしている雰囲気なのが一目で分かる。
そして、ティリアとレイオスは周りで嬉しそうにするゴーレムくん達の『気持ち』を酌みつつ、上手く手綱も引いてくれている様で、全体的な進行も大変に順調そうであった。
やはり根っからのリーダー気質とでも言えばいいのか、『皆の先頭に立って何かをする』と言うその姿があまりにも自然過ぎて、周りから見ている私からすると不思議な安心感をそこには感じてしまうのである。
そう言う状況から抜け出し、心安らかに過ごして欲しくて連れて来た部分もあるのだが、結局はまたその立ち位置に自然と居てしまう二人の事を、私としては少しだけ複雑に想う。……だが、それが『二人らしい』とも想うのだった。
当の二人の表情を視ても、ゴーレムくん達との話し合いの中で無理をしていたり、気分が悪くなっている様な素振りも無い為、純粋に楽しめてはいるのだろう。
──だから、結局私としては静観したまま、このまま彼らに任せる事にしたのであった。私が間に入らずとも、友二人とゴーレムくん達だけで大丈夫そうである。
……それに、なんとなく感じただけなのだが、友二人とゴーレムくん達は何気に元の空気感が近しい所があるのか──両者共に素直な者達なので、耳長族とゴーレムと言う種族の違いこそあれど、人柄的には凄く気が合いそうな雰囲気を私は感じたのだった。
言わば、『一緒に居ても喧嘩とか全くしなさそうな関係』とても言えば良いのか。とにかく凄く相性が良さそうだなと思ったのである。
……まあ、もしかするとゴーレムくん達のあの微笑ましさが、自然と友二人をそうして癒してくれているからこそ、生まれている空気感なのかもしれないとは想う。今は、友二人がゴーレムくん達を導き、引っ張ってくれているだけの関係にも視えるが、その実ちゃんと互いに影響し合っている部分が確りとあるのではないかと。
それと、因みにだが、ゴーレムくん達の事についてはレイオスも密かにこんな事を言っており──
『まだ数日だが、俺達は彼らを傍で見ていて想った。このゴーレム達はこんなにも自分達で考え、独自に思いやりのある行動をとる事が出来る。そして感情のまま騒ぎ、喜び、悲しむ事もできる……これはやはり、彼らが『心』を持っているからこそなんじゃないかと。……だからもう、正直な話、彼らの事は普通に『人』である様にしか想えなくなっているのだ』と──。
そして、レイオスは他にも『本当は着ぐるみで、全員中に人が入ってたりしないよな?』とも聞いてきたので、私はそれに首を横に振りつつ、あのレイオスがそんな事を言って来た事に何とも言えない微笑ましさを覚えるのであった……。
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