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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第473話 感受。




 ここからの話は『内側』にて、エア達と話し合う中で出た内容の、ちょっとした補足の様なものである。そして現状私が勝手に思い抱いている事でもあった。



 『ダンジョンコア』とは──恐らくダンジョン専用の『上位マテリアル』……の様なものなのだと私は思う。


 その『力』は、元々のダンジョンの性能を『増幅(ブースト)』する事は勿論のこと、ダンジョン自体に意思があるのとは別に、これにもまた別の意志が宿っている様に感じるのであった。



 正直、実際の所は本当にダンジョンに意思があるのか、そしてこの赤い塊にも意思が備わっているのか……それは私にも分かってはいない。ただ、私がそうだと感じているだけの話である。言うならばそう。ただの『勘』だ。




 ──だが、細かい理屈などを抜きにしていいのならば、私という魔法使いはまず間違いなく『ある』と信じていた。


 現に、手のひらの上で怪しく、そして美しい煌めきを放つ赤い塊は、触れる私の手を侵食するかの様に、『ジクジク』とした痛みを与えて来ているのである。



 ……それは、きっと『喰われている』のだと、私は何となく感覚で察していた。


 ただ、それは高密度の魔力による守りを備えた私と言う『領域』に、歯を立てる事が出来ずに困惑しているようにも思う。


 恐らくは歯痒いのだろう……、無駄と知りながらも執拗に噛みつき続けているそれの様子を間近で視ていると、どうにも意思がある様に感じられてならないのであった。



 きっとその感覚はあながち間違いではないのだと思う。

 文字通り、私は今ダンジョンの核心に触れている。……そんな気がしたのだ。



 同時に、再度告げるが触れた掌の上から、この『悪辣なる赤塊』を通して私は強い『孤独』も感じるのであった。


 『寂しい寂しい……悲しい悲しい……一人は嫌一人は嫌……誰かと居たい誰かと居たい……』と。



 まるで人肌を恋しく想う様な……愛情に飢えて飢えて仕方がないかの様な、そんな『孤独』がそこにはあるようだった。

 だから、きっとこの塊(『コア』)は何かと一つにならなければ気が済まないのである。



 ダンジョンにその身を隠している時からずっと、只管に白馬の王子を待ち続ける乙女の様に、こんな自分を見つけてくれる誰かを、この『コア』は『ジッ』と待ち続けていたのだと私はそう感じた。



 『……求めずには居られない。触れ合わずには居られない。……だって、本当に寂しいのだから』と。


 それこそが、私が感じた『ダンジョンコア』と言う不思議な物体の性質であり、また生まれた意味でもある様に想った。




 ──そして、『ダンジョンコア』は一度噛みついたらきっと離れたくなくなり、誰かと一つになる事を願い、そしてそれが叶った暁には……『コア』は自分の与えられるもの全てをその対象へと捧げるのであろう。


 ……それこそ全力で、持てる限りの全てを愛する誰かへと捧げ(『増幅(ブースト)』)続けるのである。


 それこそが此度の『魔獣への変質』と言う事件のあらましなのではないかと私は勝手に予想した。



「…………」



 そうでなければおかしいのだ。……簡単に流して説明はしたけれども、そもそもエアほどの魔法使いが放った【浄化魔法】を受ければ、本来はどんな『変質』であったとしても治る筈だと私は思っていたからだ。


 かつて、大陸中の人々が同時に『マテリアル』へと急に適応してしまうと言う騒ぎが生じた際、私が各大陸へと広範囲に『回復と浄化』を使ったあの時よりも、エアが彼女個人に対して使った『浄化』の方が威力は上なのである。


 『差異』を超えしエアの魔法の威力はそれこそ十全であり、不足している所はなにもないように私は感じたのだ。



 ──だがしかし、それで治らなかったと言う事はつまり……未だ彼女の身体の中には『ダンジョンコア』が潜んでおり、絶えず『増幅(ブースト)』をし続けて『力を与え続けているから』ではないのかと私は考えたのであった。


 エアの『浄化』を受けても効果が無いのは、原因がまだ彼女の身体の中で悪さをしているからであろうと。それならばエアの魔法が効かなかった理由にも納得がいったのだ。



 ……まあ、他にも理由になりそうな条件はあるのだが、現状で私が『コア』を視た限りでは、これが一番有り得そうな理由だと判断したのであった。


 その為、今後彼女を元の姿に戻していく為には、如何に彼女の身体に負担なく『ダンジョンコア』を傷つけないまま摘出し、効果を浄化していくかと言う点に充分に配慮していく必要があると感じたのである──。



「…………」



 ──とまあ、現状はそう言う訳で、『内側』ではそんな大変な事態にも一応の進展があったと言う事でもあるし、喜びと共に今後の期待も高まるばかりなのだが、『外側』でもようやく、『岬の小屋』への接近も終わり、目視で捉えられる距離まで来たため、私は友二人の迎えに下りる為、空からゆっくりとふわふわ斜めに浮遊していくのであった。



 ……久々にあの二人に会えるとなるとやはり嬉しく感じてしまう部分があり、背後ではゴーレムくん達に見送られながら『外側の私』もどことなく喜びで浮ついた心持ちになっている。



 二人を迎えに行ったら早速『大運動会』の事についても協力を仰がなければいけないし、あの二人にとっては久々の『里』帰りと言う面もあるので、きっと私と同様にあの『立派なお城』を見たら二人もさぞかし驚く事になるだろうなとか、そんなちょっとした悪戯心も私の中には芽生えていた。



 そして、そんな事を想いつつ降下しながら『クルリ』と顔だけを背後に向け……見送ってくれているゴーレムくん達の背後に聳える『お城』の威容ももう一度見て、私は内心でまた微笑ましさを覚えるのである。



「……ん?」



 ……ただその時、なんと言うのか、大した事ではないのだが、ふと一瞬気になった事があって、私は少しだけお城の姿を『ジーっ』と眺め続ける事となった。


 いやなに、本当に大した事ではない為、直ぐにまた前を向いて『岬の小屋』へと視線を戻した訳なのだが……私はその一瞬だけゴーレムくん達作ったあの『お城』が、今更ながらにとある場所のモノと少しだけ重なって見えた気がしたのである。



 まあ、きっとただの気のせいだと思うのだが……『でもまさか、あれが秘跡の奥にあった壊れた城に似ている様に見えてしまうなんて……』と、私はそんな事を想うのであった──。




またのお越しをお待ちしております。

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