第47話 機。
エアが魔法を覚えた。
今までの地道な努力の練習成果が出たのか、【土魔法】【風魔法】【火魔法】をそれぞれ身につけたようである。
と言うより、なんとなく『こんなものかな?』と感覚的に使ってみたら使えてしまったらしい。
まだ威力や精度はこれから練習の必要があるだろうけど、素晴らしい成果だと私も思う……それに、良い傾向だとも私は思った。心の中で思わずニヤリと笑みも零れる。
エアは純度百パーセントの魔法使いとして成長しつつあるようだ。
一般的に詠唱だなんだと言う魔法の技術は、一般大衆に使いやすいようにと考えられて作られた教えであると同時に、ある一定以上は力をつけ過ぎないようにと調整された技なのでもあった。
大きい魔法、威力のある魔法を使おうと思えば、それだけ長い詠唱や準備が必要になる上に、詠唱を使う者は、一々敵の前で今から使う術の内容をブツブツと喋っているのである。
これは耳の良い者や、察知できる者、声を拾う術に長けている者からしたら、『今から炎の魔法を使いますんで、受ける準備していてください。大体威力は地面に一メートルほどの穴を空ける位はありますので、その点ご注意してください』と言われている様なものなのである。こんなにマヌケな話は他にないだろう。
……だが、そうとも知らず詠唱を使う者達はその技術を忠実に守り、それが正しいのだと信じ、その教えを広めた者はそれを見越して彼らを管理しているのであった。
この詠唱を使える者はこれ位の力を持つ魔法使いなのだと、そう格付けをする事で管理する側は戦力の運用が楽になる。
悪いと言っているわけではない。ただ、そういう仕組みが出来上がっていると言うだけ話だ。
それに、その教えによって大衆が分かり易く技術を享受できているのは、素晴らしい事だと私は思う。
だが、それによって一点、弊害が生まれているのだ。
詠唱や魔法陣と言った技術を己の魔法の常識として認識してしまった者達は、魔法使いとして必要となる感覚の世界の先に、進むのがとても難しくなるのである。
一度身につけた技を、己から引き剥がすと言うのは、新たな技を覚えるよりも時に難しい。
例えるなら、一度覚えた音程で歌を長年全力で歌っていたものを、急に微妙に違う音程で歌い直さねばならない時、前の音程がノイズになる様な感覚。
一度覚えて染み付いてしまった個々の文字の書き方は、修正しようとしても、微妙に癖が残ってしまったりする。
『話し方、身体の動かし方、呼吸の仕方、考え方、それこそ生き方そのもの、それら全てを、もう一度真っ新な所から、赤子と同じような状態から始められますか?』と聞かれて、あなたならどう答えるだろうか。
心の記憶、身体の記憶、それら全て失い不安になった状態から、感覚と言う曖昧な物に、あなたの全てを捧げられるだろうか。
……恐らくその答えは、とても難しいのだ。
はっきり言って、出来なくはない。やろうと思えば成し遂げられるのかもしれない。
天才と呼ばれる者達ならば、詠唱等を修めていても、軽々と魔法使いとして成長を続けていけるのかもしれない。
だが、魔法使いとしてそれは、あまりに険しく、その天才の存在はあまりにも稀有だ。
だから、エアの様に最初から混ざる事無く、純粋な感覚百パーセントで魔法使いになると言うのはとても珍しくて凄い事なのである。人によってはエアに嫉妬せざるを得ない魔法使いも多いだろう。
まあ、わざわざ自分から純粋な魔法使いであると喧伝しなければ良いだけなので、エアにとっては何の問題にもならない。このまますくすくと育って行って欲しいと思う。エアの今後を私は心底楽しみに感じた。
ただ、こういう時、期待の掛け過ぎは良くないと言う事を私は昔、友から教わった。
友曰く『期待ってのはありがたい事だが、凄く重いものでもある。なければ相手は寂しさを覚えるし、あり過ぎれば相手を潰しちまう。自分にとって大切な人であればある程、人って生き物は期待せずには居られない。だから、そんな時にはこうすると良い……"俺は、貴方に期待し、貴方の自由を支えたい"と言葉でしっかり伝えるんだ』と。
期待と言うのは相手に上からのしかかってくるタイプの力らしい。
だから、代わりに下から支えてあげる事で、今まで出来ていたことが期待によって潰されないように、プラスマイナスゼロの形へ、相手が自由に動けるような形へと、してあげるのが良いのだとか。
当時の私には少しその言葉は理解に難しく、友も絶対ではないとは言っていたが、一つの方法としてやってみたらいいさ、と友は笑って言っていた。
要は相手がその言葉を受け取ってどうするのかが一番重要なのだと。
上手くいけばそれで良いし、いかないならまた別の方法を一緒に考えればいいのさ、と。
言葉にしっかり出すと言う事は、己の指針になる。
そもそも目標を掲げると言うのはとても大切な事で、それをしっかりと声に出す事は、相手に自分の考えを理解して貰いやすくなり、同じ方向を向いて貰えるようにもなる。
相手も自分も、道を迷わずに済むようになるのだよ、と。
正直、その時の話は長くて何度も寝かけた。
……まあ叩き起こされたわけだが。
何を言っているのかも難しくて、理解できたとは言えなかったが、今となって見れば少しだけ分かった気もする。
「エア」
「うん?」
今日も一生懸命隣で魔法の練習をしているエアに、私は呼び掛けた。
物は試しと。言葉をちゃんと伝えておくためにも、声に出そうと思う。
教訓も活かさねば教訓にならない。
「私はエアに期待している。その成長を傍で見れているだけで嬉しく思う。今後も魔法使いとして、私は君を支えていく。だから、エアも果てなく自由でいてくれ」
「…………」
私が急に喋り出した事に吃驚したのだろうか。エアは暫く目を見開いて固まっている。
もしかしたら、言われた内容がやはり難しかったのかもしれない。私もそれには同感する所であるので、仕方のない事だとは思った。
この方法はダメだったとしたら、他の方法を──
「──うん。がんばるね」
だが、エアは私の方を見つめて、顔を真っ赤にしながらもそう返事をした。
その声は僅かに震え、閉じられた唇の端もまだ、微妙に震えを帯びている。
感動しているのか、はたまた歓喜か、とりあえずは喜んでいそうな表情に私は一安心した。
今までもやる気に満ちて魔法の練習をしていたのだが、今のエアは更に熱を帯びているかのように、やる気に燃えに燃えて練習している。
……ふむ。恐らくは上手くいったのだろう。良かった良かった。教訓が活きた。
私は一人安堵を覚える。
だがそうして、私が一人で安堵している奥では、少し離れた所で『あーあ、旦那はいつも急なんだから、エアちゃんも大変だなー』なんて話を、精霊達がみんなでしていたようであった。
彼らがそう言う理由に、この時の私はまだ欠片程も気づいていない……。
またのお越しをお待ちしております。
当作品は十万字も超えましたので、各種応募に登録いたしました。
今後も読んでくださっている方々に楽しんで頂けるよう、ひいては書籍化できるように頑張って参りますので、何卒応援・ブクマ・評価等よろしくお願いします!
物語の内容と少しリンクしていましたので、この"機"会にしっかりと言葉にしてみようと思いました^^。今後もよろしくお願いします。(テテココ)




