第468話 魔手。
『あれは……なんだろうか……』
『それ』を見て、私が最初に思ったのはそんな事であった……。
「…………」
……いや、勿論『それ』が何であるのかは分かっている。あれは『城だ』。
それもとても立派で大きな『お城』が、『空飛ぶ大陸』に現在建設されている真っ最中なのである。
一応、私はまだまだ遠くはなれた場所にいるわけなのだが、『それ』があまりにも大き過ぎて、ここからでも薄っすらと見えてしまう程に、その『お城』の威容はそれはそれは見事なものであったのだ。
つまりは、ここで肝心なのはそれがなんであるのかという話ではなく、なんでそこに城があるのかと言う話である。
もっと簡単に言うならば、それはいったい誰のお城ですか?と言う疑問が浮かぶのであった。
……もしかしたら、私の知らぬ内に誰か貴族でもやって来て勝手に城を建ててしまったのだろうか、とそんな不安が一瞬私の頭を過ぎる。
「…………」
元々目的地は同じであり、密かに向かわせていた為『空飛ぶ大陸』がこの空域を飛んでいる事自体におかしさは感じてはいない。
……だが、その見なれた土地である筈の場所に、これほどまで見慣れぬものがあると、どうにもいつも以上に過剰な警戒心が騒ぎ出してしまう感覚があった。
まだ決まってもいないのに要らぬ不安を抱いたり、大した異変ではなかったとしても、大きな異変であるかのように感じてしまう状態に近いのである。
……ただ考えてみれば、ここに来るのも実は久々ではある為、何かしらの変化が起きていてもおかしくはないとは思っていた。が正直、これほどまでに変化をしているとは露ほども思っておらず、流石に驚きを隠せない私なのである。
ただまあ、それが例え何であったとしても、『向こうに着いてみればその答えもはっきりするだろうから』と思い直し、私は急いで飛んで向かう事を優先したのだ。
でもまさか、『ダンジョン都市』よりも先にこちらへと手を伸ばして来るとは……。
これが、もしもどこぞの権力者の仕業であったとしたら、いっそもう感心を抱かざるを得ない程の出来事ではあった……いや、もしかしたらこれも、『あの良くわからない存在達』による魔の手の可能性が……。
「…………」
……因みに、エアとバウについては『大樹の森』の方でやる事があるのと、許嫁と遊ぶ時間だと言う事で、『お城』の事は気になるみたいだが二人は『内側』へと戻って行ったのである。
ただこの場合『内側』にも私が居る為、『おかえり』と言っていいのか『行ってらっしゃい』と言えばいいのか悩む所で……んー、まあどちらでも良いか。ふむ、どうやらあの『お城』を見た事によって、私も少なからず動揺してしまっているらしい。いかんいかん、落ち着かねば……。
──と言う訳で、実際に『お城を建造中の空飛ぶ大陸』こと『第五の大樹の森』へと帰って来た訳なのだが、私がそこで見たのはなんと……『良くわからない存在達』による魔の手……などではなく、普通にとても楽しそうな雰囲気で『お城作りに励むゴーレムくん軍団』の姿であった。
そして、そんな久々の再会でもあるゴーレムくん軍団は、私が飛んでやって来たことに気づくと、皆で一斉に『ブンブンブンブン!』と、とても嬉しそうに私へと向けて手を振ってくれている。……ああ、み、皆、元気そうで何よりだった。
──そうして、『城を作る機能なんて、ゴーレムくん軍団には付けていないはずなのだが……』と、そんな新たな疑問に首を傾げながらも、私は久々に『第五の大樹の森』へと降り立つのであった。
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