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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第464話 微言。





 『ダンジョン都市』へと向かう途中、不意を突かれて私は攻撃を受けた。



 その際、一方的に攻撃をされて敵にはまんまと逃げられてしまった訳なのだが、結果的には『損は無かった』と思う。それどころか、『経験』として得るものがちゃんとあった為、変な言い方をするかもしれないが『攻撃を受けて良かった』と私は思うのだった。



 まあ、その後も何度か道中同じような攻撃をされた訳だが、二度目からは警戒も出来ていた為に回避も楽にできたし、『ダンジョン都市』に着く頃には、その攻撃もすっかりと止んでいた。……『敵側』もどうやらそれ以上は無駄だと判断したようである。



 ──と言う訳で、私は少し遅れる事にはなったが、無事『ダンジョン都市』へと辿り着いたのであった。



「…………」



 ただ、そうして辿り着いた私は、そこで思わず言葉を失う光景を目にする事になる。

 ……と言っても、何か酷い事が起こったわけではなく、そこでは確りと道場青年による救助が継続して行われており、そんな彼に続いて比較的に重傷ではなかった者達から瓦礫の撤去をもし始めていて、とても順調そうな状況ではあったのだ。



 だが、そんな瓦礫の撤去の一角、少しだけ大きい物が避難所へと寄添う様にして立掛けられており、そちらへと顔を向けた瞬間から私は目を離す事が出来なくなってしまった。



 ……なにしろそこにあったのは、かつてとある宿屋に描かれていた、とある一組の男女が描かれた一枚の『壁画』だったのである──。



「…………」



 あれだけの炎と衝撃があったにも関わらず、奇跡的に残っていたらしいその絵の中の二人は、あの日と変わらずに未だ『微笑み』を浮かべ合っていた。

 所々、焼け焦げた様な跡や、角に小さな亀裂も見えるけれども……それでもまだ、ちゃんと互いに相手を想い合うその姿を見て……私はなんとも言い様のない感動を覚えたのである。



 ──正直、まさか残っているとは、想いもしていなかったのだ。



 『ダンジョン都市』のほぼ全ての建物が崩壊している様な状況で、この壁がある一面だけがこれほどまでちゃんと残っているのは、もはや奇跡に近い様にも感じた。



 ……それも、ただ残っているだけではなく、その絵の中には以前に見た時には居なかった、糸目の小さな白い竜の姿もちゃんとあったのである。



「…………」



 それはつまり、彼女がまたこの絵を──その続きを、描いてくれたと言う事に違い無かった。

 それも、私達が残したサインにも気づいてくれたらしく、その傍には彼女が描いたであろう小さな剣と盾のマークと──。



 『勇気をありがとう。いつかまたこの街で』と言う──そんなメッセージが残されていたのであった。




 ……あれから、あのたった一度の出会いから、もうどれだけの日々が過ぎたことだろうか。

 ただ、どれだけの日々が過ぎようとも……それでも決して変わらない想いが、ここにはちゃんと形として残っている。



 私はこれを目にした瞬間から、胸の奥が自然と熱くなるのを感じていた。

 正直、今のこの気持ちを、単純に『嬉しい』と言って表わす事に勿体なさを覚えてしまう程、私は嬉しさを感じていたのだった。



「…………」



 ……だが、それと同時に、同じ分だけの深い悲しみも覚えたのである。

 なにしろ、道場青年に救い出された者達の中に、彼女の姿は視られなかったのだ。

 だから、きっと……そう言う事なのだろう……。



 なので、私はその事を想うと悲しさが止まらなくなるのだが、目の前のこの絵があまりに私の心を打ちすぎて、素晴らしくて胸を熱くさせるがあまりに、感動する事もまた止められなかったのである。



 ……なんと複雑な感情だろうか。

 言葉で説明するにはあまりに難し過ぎた。口下手な私にとっては尚更……。



「……エア、バウ」


「うんっ」


「ばうっ」



 ──なので私は、『内側』に居たエア達にもその話をして『外側』に出て来てもらう事にした。

 ……なんとなくだが、この気持ちを分かり合える相手に、急に傍に居て欲しくなったのである。



 それによって、『絵の中の三人』と『絵の外の三人』が初めて相対した様な構図になった。

 ただ、どうやら現状『絵の中の三人』の方がとても良い表情をしている……。



 私も含め、『内側』で大体の話を聞いてから出て来てくれたエアとバウは、少しだけしんみりとした雰囲気になっていた。

 ……だが、やはり私と同様に絵に対する感動も覚えているのか、二人とてもちぐはぐな表情を浮かべていたのである。



 ──喜べばいいのか、悲しめばいいのか、そんな感情が複雑に混ざり合った──そんな『微笑み』であった。



「…………」



 ……そうして私達は、そのまま時間にしては数分に過ぎないとは思うが、道場青年に気付かれて声を掛けられるまでずっと、その絵を眺め続けたのだった。





またのお越しをお待ちしております。

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