第463話 皮肉。
この日は、雲一つない晴天であった。
……だが、『ダンジョン都市』へと向かう途中、その瞬間、視界が『チカッ』と光ったと感じた時にはもう、私は地面へと落下していたのである。
「…………」
……地面に落ちて数秒、ふらつく頭を押さえながら思う。
恐らく今のは『雷』に類する攻撃であったのだろうと。
余りの衝撃で地面に叩き落とされた私は、不思議と自分でも驚くほどに冷静であり、土に塗れながら空を見上げて、そして『それ』を視たのであった。
一見、雲一つない青空だと思えていた光景は、その実『まやかし』であることに気づいたのである。
……ただ、そのまやかしを除いた先の光景──実際に視えたもの、それがただの『薄雲』に過ぎない事も理解したのであった。
その、白く線を引く様な、空を割るかのようなその一条の『薄雲』は……きっと、何者かが過ぎ去った跡なのだろう。
……恐らくだが、ここの場所で『敵』は罠を張っていたのだろう。
そして、一撃だけ私に攻撃を加えた後に、直ぐに逃げ去ってしまったのである。
それも、ご丁寧な事にも私に出来る限り気付かれないようにと、魔力に重点をおいた攻撃ではなく、自然由来の力を利用した一撃であり、あわよくばそれで倒せればいいが、もしそれで倒せなかったとしても私の反応や状態を測れればいいと言う、そんな思惑を感じさせる攻撃であった。
……これはきっと、一撃離脱の威力偵察の類だったのだろう。
「……本気、か」
……今までにないくらい、『敵側』の真剣さが窺える攻撃であった。
そして殺意の高さも相応に感じたのである。
慎重を重ねに重ね、必要な備えをした上での一撃。
……それも完全に私だけを狙った攻撃であった。
それはつまり、『敵』は今まで私を避けてばかりいた訳だが、今度からは積極的に私の事を倒しにいくつもりであると言っている様なものである。
……どうやら向こう側は本格的に私の事を狩るつもりであるらしい。
だが、それにしても、まさかこういう方法を取って来るとは思わなかった。
だから、『……なるほどなるほど』と少しだけ感心もした。
ただ、『そっちがそのつもりであるならば、こちらにも考えがあるぞ』とも思う。
正直、突然このような攻撃されて穏やかでいられるほど、私も優しくない。
なので、『……いいだろう。かかって来るがいい。狩れるものならば狩ってみろ……』と、内心で私も冒険者としての血がまた少しだけ騒いでしまったのだった。
「…………」
……ただ、それにしても『敵側』からすると、『大樹の森』と言うのはそこまで許せない存在なのかと、そんな疑問も再度湧いた。
精霊達の『別荘』の何がいけないのか、正直いって私にはその理由が全く分からない。
けれど、こうして急にあからさまな攻撃を仕掛けてきたと言う事は、向こうがそうせざるを得ない状況に陥っている様にも感じた。
つまりは、動かなければいけないのは向こうであり、こちらは焦る必要はないのであると。
ならば、私としてはこれからは油断なく警戒し、ただただ迎え撃つだけで良いとも思った。
それに、私は不器用なので奴等の様な小細工も使えぬ為、やる事はこれまでと変わらないのだ。
だから、もし攻めてきた時にはその全てを正面から正々堂々と一瞬で消し去ってやればいいのである……。
「…………」
それに、攻撃されて思ったのだが、結果的に私と言う『領域』の中に『大樹の森』を内包した事はやはり正解だったのだと私は感じたのだった。……それも流石に、ただの威力偵察にしては手を掛け過ぎている様にも想う。
──要は、今回の攻撃には『敵の焦り』の様なものもかなり感じたのであった。
それと、この状態であれば先ほどの様な攻撃を受けたとしても、『外側の私』が多少衝撃を受けるだけで、『内側の私達』には何の影響もない事も知れたし、結果的には攻撃を受けた事で私としても安心材料が増えたのは良い事であったと想う。
現状、調整の為『弱体化』と言う影響もあって敵への反撃は出来ないが、それもその調整が済めばできる様になるだろう。……よって、今だけ堪える事が出来れば、今後はより易々と傷つけられる事がなくなり、安全になる筈だ。
……だから、大丈夫。
私は、ちゃんと大切な者達を守っていく事ができる……。
「…………」
……それを想うと、不思議と少しやる気も出てきて、冷静さも戻って来る気がした。
と言うか、ちゃんと自分の行った行動に対して、成果が伴ってくれるとやはり嬉しいものがある。
だから今の私は、もしかしたら口角も上がっているのではないだろうか。
自然と『笑顔』が出来ている様な……そんな気がしたのだった。まあ、そんな気がしただけではあるが……。
──と言う訳で、とりあえずは無事だったので良しとして、地面から身体を起こした私は、白いローブに付いた土を軽く払いながら、再度『ダンジョン都市』を目指して【飛翔】し始めたのだった。
……道中、また何度か同じような『雷』が降って来る事もあったが、次からはもう──サッと回避できるようにもなったので、『……いい経験をさせて貰った』と思う事に私はしたのであった。
その方がきっと『敵側』も悔しいだろうから、と──。
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