第459話 本能。
「……こんなものか?……ん、ちがう?もっとか?……こんな感じ?……」
……私は今、魔法を使っている。
それも、珍しく『火の系統』の魔法だ。
私はこの系統の魔法を使えないわけではないのだが、基本的に必要以上に被害が大きくなり易いが為に、普段はあまり使わない様にはしている。
だが……今日はそんな【火魔法】を私は半日以上ずっと使い続けているのであった。
そして今は、そんな【火魔法】で生み出した特殊な火炎をとある者達の要望に沿う形で、うねる様な形状で……うーむ、いや、とぐろを巻いた様な状態で?……うむむー、なんと言えばいいのか、とりあえずは独特の形に整えながら【固定】していき、全体が炎で構成された文字通りの『火山』を作っているのである。
「ぎゅあ~あ~!ギャウ!ギャウ!」
……あー、ここをもう少し削れば良いのだな。分かった分かった。……えっ?こっちの部屋の形の方がしっくりくるから、さっきの部屋をやっぱり作り直して欲しいと?なんかしっくりこなかった原因も今になって分かったのだが『方角が悪かった』と?
「…………」
……まあ、仕方がないか。どれどれ、どこを変えればいいのだ?……ん、そこか?それとそっちも?更にあっちまで?……ふむ、増えて無いか?──
──と言う感じの作業を始めてから、かれこれもう十二時間以上は経過している。
とりあえず、現状の説明をしておくとするが、バウが『赤竜の塒』にて赤竜達と暮らす事が決まり、私達が帰ろうとした後、塒の方から大きな音が聞こえてきた為に戻ってみると、そこでは赤竜の親子がピクピクとしながら倒れていたのであった。
そして、そんな赤竜親子の傍ではバウが『うんうん』と頷きながら眺めていたので、私とエアはいったい何があったのかと尋ねてみたのである。
……すると、バウ曰く『ご飯が美味し過ぎたから仕方がない。気持ちは分かる』と言う簡単な説明が返ってきたのであった。
──まあ、要は簡単な話、私がバウへと残して来た『お食事魔力』を、バウは私の合図通り赤竜親子にもプレゼントしてみたらしいのだが、それを食べた赤竜親子はこの世のものだとは思えない程の美味しさをそれに感じてしまったらしく、そのせいで思わず『美味過ぎ失神』をしてしまったのだとか。
それを聞いた私としては、『……え、そんな事があるの?』と、思わずにはいられないのだが、バウ曰く『ある』らしいので、間違いないのだろう。
現状、私達の『お食事魔力』を食べ比べた事があるのはバウだけなので、味の違いが分かるのもバウだけなのだ。
そして、その『味の違いが判るバウさん』曰く、私の作ったお食事魔力は一言『幸せが溢れ出る美味さ』なのだと言う。……そんな事を初めて言われたのだが、どうやらそう言う事らしい。
『味判バウさん』は更に、それを食べた時の事を詳細を説明してくれたのだが、曰く『口の中に入れた瞬間から、まず最初に歯に衝撃が走り、次いで頭の中に、そして身体中に広がって、最終的には全身が高揚感に包まれてうっとりする』のだという。
……正直、そこまで聞くと、まるで私が何か変なものでも入れたように聞こえるかもしれないが、『味判バウさん』に言わせると、『本当に美味しいものを食べた時って、震えるんですよ。そして力が入らなくなるんです。心が幸せ過ぎて……』と言う事であった。
「…………」
「……そ、そうなのかー」
……正直、『お食事魔力』を食べていない私やエアには分からない話ではあったが、とりあえずはそう言う事なのだと理解は出来たのである。
そして、赤竜達が気を失ってしまった事についても、赤竜さん達は『美味耐性』が低かったせいだろうとも『味判バウさん』は語っていた。……生まれた時からそれを食べさせてもらっていたバウさんの『美味耐性』をもってしても、今回の『超濃厚お食事魔力』は絶品であったのだから、赤竜達が気を失ってしまうのも仕方のない話なのだという──
──と、そう言う訳で、倒れていた赤竜達も暫くしたら何の不具合もなく『パッ!』と元気に目を覚ましたのであった。
それに言うならば不具合どころか、普段よりも調子が良いくらいだという。
父赤竜も元気溌剌としていて、母赤竜と赤竜の子においては鱗の艶もピカピカと輝いている様にも見える。
──すると、そんな自分達の姿を確認した母赤竜と赤竜の子は、いきなりこんな事を言い始めたのであった。
「……ぴー」
「……ぎゃぅー」
「ばう?ばうばう?」
「ぴー、ぴぴーっ!」
「ぎゃうぎゃう!」
「ギャウッ!……ぅぅー、ギャウ!」
「ぎゃうぎゃう!ぎゃう!」
「ギャウ?……ギャ……ぎゃう」
「ば、ばう?……ばうっ!ばうばうっ!」
……まあ、そんな彼らの話を要約すると『……あれ?こんなに良いものがあるなら、向こうで生活した方が良いんじゃない?』と言う話になったのである。
そして、そんな母赤竜と赤竜の子の言葉に、父赤竜が縄張りの重要性を説こうとしたが一蹴され、赤竜親子は一転して『みんな一緒に『大樹の森』で生活させて欲しいのだけれど……ダメですか?』とバウを通して私にお願いしてきたのだった。
──当然、私達としても否やはほぼ無かった為、それには了承を返したのだが、野生の者達が自分達の縄張りをそう簡単に手放すはずが無いと思っていた私からすると、『本当にそれでいいのか?』と思わず問わずにはいられなかったのである。
……だが、それに対しての赤竜達の回答は『食欲に勝る物無しッ!』と言う、大変にシンプルな答えが返って来て納得するのと同時に、赤竜達(淑女)にとっても美容と言うのは無関係ではないのか『鱗の状態が良好なのは良い女の嗜みであり最優先すべき重要事項』なのだという話を聞いて、『ドラゴン達も人とあまり感覚は変わらないのだな……』と思ったのであった。
「…………」
そう言う訳で、つまりは、私が先ほどからずっと作り続けている『火山』は、『大樹の森』の中の一角に作った赤竜達の為の『火山の形をしたお家』なのであった。……まあ、全体が【火魔法】によって作られている訳なのだが、魔力の濃度によって普通に足の踏み場も確りしているし、中央の吹き抜けを行き来して各部屋にも簡単に移動できるようになっている。
何気に赤竜達は凝り性と言うか思っていたよりも細かい性格と言うか、内装にも確りと拘っているので、色々な部屋も揃っているし、全体的に赤竜達の暮らしやすい様に大きめかつ丁寧に作られているのだ。
「…………」
……そうして結局、ご飯につられるような感じで赤竜達は『大樹の森』へと来ることになった訳だが、思ったよりも過ごし易そうだと言って安心してくれているようである。それにご飯だけではなくこうして彼ら用の家や環境を作った事にも凄く感謝されてしまった。
まあ、私としても色々と注文は多いけれども、彼らにそこまで喜んで貰えるのであればやりがいはあると感じて、案外楽しんで作っていたりはする。
それに、バウが離れずに済んだ事も良かったと内心では凄く安堵もしていた。
……少し離れた場所では楽しそうに笑い合っているバウ達がおり、私はそんな姿に思わずほっこりとしてしまうのだ。
「…………」
──さて、そう言うわけで『火山』の完成も近い為、私はもうひと頑張りしようと思う。
……それで?後はどこを変えたいのだ?……ふむ、そっちの部屋は、ちょっと暴れたくなった時用でも使いたいと。だから、全体的に部屋の強度は強めだと嬉しいという事だな?分かった分かった。絶対に壊れないものを作るから、全部私に任せておきなさい。
「ぴーっ!」
「ばうっ!!
──そうして、『大樹の森』の一角には、今度から新しく『火山』と言う場所が追加される事になったのだった。……因みに、少し距離は離れているので森へと火が広がる心配も無いようにちゃんと対策もしてある。
ただ、赤竜達のお家でもあるその場所は、結局それから完成するまでに数日間を要する事にはなるのだが、傍でエアや精霊達に見守られながら『お食事魔力』の食べ比べをする楽しそうなバウや赤竜の子の姿が見られる『癒しの場』としても、一躍精霊達の間で有名になるのであった──。
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