第455話 見合。
「──ギャウッ!?ギャァアアウッ!!」
「…………」
帰って来た赤竜達が、彼らの住処となる大洞窟の中に私と言う異物の存在を目にすると、片方の赤竜だけが突然そんな怒声を上げたのであった。
……だがまあ、その気持ちは分かる。
ここは彼らの家だ。そんな場所にいきなり知らない存在が入り込んでいれば野生の生き物として縄張り意識から怒りを覚えないわけがあるまい。……ただ、洞窟内は凄く響くので、少しは加減をして欲しいとは思う。
それに、既にそちらも『大樹の森』へとやって来てバウを連れて行ったのだから、実際はお相子だろうと私は思うのである。
それを理解していないのか、それともこれから相方からその事を聞かされるのかは分からないが、ちゃんと怒鳴った方の赤竜にも情報共有をしておいて欲しいものだと思った。……怒鳴った赤竜の隣に居るもう一人の赤竜にはその理解があるのだろう、すぐさま──サッと顔を逸らしているのである。こらこら、顔を背けてないでそっちの彼にもちゃんと説明してあげて欲しいのだ。
「……ぎゃう」
「ギャッ?……ぎゃうぎゃう?」
「ぎゃうぎゃう」
「…………」
──そうそう。それでいい。
……おそらくは、いやほぼ間違いなくこの二人の赤竜はバウと仲の良い赤竜の子の親だとは思う。
現状、彼らはバウからすると将来のパートナーの親に当たる相手な為、向こうから戦いを仕掛けて来ないに限り私としても手を出すつもりはなかった。
魔法使いの誓いとして、一応私はドラゴン達を見逃さない事にしている訳ではあるのだが、そこに別の『利』があるのであれば、それを考慮しない程私は浅慮ではありたくない。
なので、今回は基本的に戦いは無し。冷静な話し合いだけで済めば一番だと思っているのである。
「……さて、それでは少し話したい事がある。そちらも、バウをここまで連れてきたのには『そう言う』理由からだろうと思っているが、如何だろうか。そちらは本気で考えているのか?」
「──ギャウ!」
「……そうか。こちらとしても、あの子の保護者側としての立ち位置から本気で意見を述べさせて貰いたい。少し時間を掛けて話し合いたいのだが、一緒に外まで付き合ってくれるか?広い所の方が話し易いだろう」
「──ギャウ!ギャウ!」
「……よし。では、外へ向かおう。バウ達はもう少しここで遊んでいてくれるか?」
「ばうっ!ばうっ!」
「ぴーっ!」
──と、言う訳であった。……ん?何を言っていたか分からない?
……そうか。ならば一応、その話の流れなども説明しておくと、赤竜達は『その白い子(恐らくはバウの事)はうちの子の番にしたい!』と本気で考えているらしい。
正直、赤竜の子がバウに心から一目ぼれと言うか、運命を感じてしまった様で、もうバウ以外の子とは良き関係を結びたくないとまでいっているのだという。
そして、今回の事はそんな娘の願いに、母赤竜が応えてあげたいと思って行動した事から始まったのだとか。
──と言うのも、ドラゴン達にも井戸端会議みたいなものがあり、そこで母ドラゴン達は近々ドラゴン達による大規模な襲撃戦がある事と、その狙いが誰なのかと言う噂を聞きつけてきたらしい。
そして、その襲撃先が『どこぞの白銀のエルフが居る森』だという話を聞いた時に、この母赤竜は『ピカリッ』と閃きを得て、私達と一緒に居たバウの事を思い出し、直感で娘を連れて動きだしたのだとか。
『ドラゴン井戸端会議』から、多くのドラゴン達がとある地方へと一斉に向かっているという情報を得て、大体の方角を察知した母赤竜は、何となく魔力の多いと感じる方へと適当に飛び続け、『大樹の森』にはほぼほぼ奇跡的に到着したらしい。
ただ、『大樹の森』での暮らしに慣れてしまった私達だと気づき難いが、やはりあの地域は他と比べれば魔力量が段違いだったそうで、近づいたら直ぐに『ここだ!』と分かったのだとか。
そして、結果的に多くのドラゴン達の集合が悪かったのか、襲撃が起こる前に森へと入る事に成功し、せめて娘の気になる雄だけを襲撃から保護できればと言う考えで、バウの事を連れていったのだという。
全ては娘の幸せの為にやったことで、悪気は一切無かったらしいのだが、後々考えてみれば、娘を溺愛している父赤竜と、バウとの衝突は避けられない事に連れて来てから気づいたそうで、内心どうしようかと思っていた所だったから、その前に私達が来てくれて丁度良かったと今では胸を撫で下ろしているのだとか。
「……ぎゃう!」
「…………」
……と言う感じで、母赤竜の話も以上らしい。
ただ、それを隣で聞いている父赤竜は少し呆然としているのか、『可愛い盛りの娘に、もう男が……』と言いたげな雰囲気で消沈している様にも見えた。
火山傍の大洞窟の外、少しばかり広くなっている場所にて、互いの認識を一度摺合せしておこうという事になり、話し合いは始まった訳なのだが、現状は赤竜夫婦側の意見の調整で難航している状態である。
実際私達『バウ側』としては、バウが幸せになるならば当人たちの気持ちを優先させたいという想いがあった為に、『許嫁』になる事にも反対等は一切出なかった。
なので、後は赤竜夫婦側……と言うか、その父赤竜が二人の『許嫁』に納得するかだけの問題となっている。
だが、父赤竜としてはどうしても納得したくない部分があるのか、『まだ早すぎるんじゃないか』とか、『大人になってからまた改めて話し合っても……』とか、『あの子が心変わりするかもしれないじゃないか!お父さんとずっと一緒に居るっていうかもしれないしッ!』とか言って、唯一の反対派として強靭な粘りを見せているのであった。
「…………」
──だがしかし、結局はそんな父赤竜の粘りも、『お父さんよりこの子と一緒に居たいっ!』と言う赤竜の子の会心の一撃が父赤竜の儚い幻想を打ち砕き、見事バウと赤竜の子の『許嫁』は決定される事になるのであった……。
またのお越しをお待ちしております。




