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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
452/790

第452話 同気。




 ……触れ合う手と手には、ちゃんとまだ温かさを感じられる。

 耳に響く皆の声は、自然と心が色付き弾む様だ。

 エア達が幸せそうに笑っている姿を見ただけで、私はこんなにも幸せを感じているのである。


 だから、だいじょうぶ。大丈夫だ。



 大切なものを守る為に、一つの『領域』として生まれ変わった今の状態でも、まだ自分の事を『人』だと思えるのは、私がその大事な『想い』や、『心』、『感覚』を、ちゃんと忘れていないからである。




 『──ロムーっ』


 『ここが旦那の……』『うわぁ、不思議な感じ……』『……でも悪くない』『……はい。確かに身体の中とは思えない程の居心地の良さです』



 ……心臓があった筈の場所に手を置くと、奥の方から、エア達のそんな私を呼ぶ声が聞こえてくる様な気がした。



 だがこれは、実際に皆の声が漏れ出ている訳ではない。


 単に、『中に居る私』が聞いている声を、『外に居る私』が錯覚して聞こえている様な気分になってしまっているだけなのだ。

 『大樹の森』を身体の中に移してからまだ日も浅いので、慣れてない部分があるというだけの話であった。



「…………」



 ……かつて『大樹の森』があった場所──『魔境』とも呼ばれた場所はもうない。

 今はもう、私の目の前にはただただ広いだけの荒野が、遥か遠くに見える山の所までずっと続いているだけなのである。



 自分でやったことだとは言え、少し前まではここらへん全てが綺麗な森であった事なんて誰が信じられるだろうか。……それを想うと、少しだけ心の中には私も笑みが浮かんだ。


 必要だった事とは言え、我ながらに中々突拍子もない事をしてしまったものだと、改めて思えば少しだけ可笑しくなってしまったのである。



「…………」



 

 正直な話、何をどうやったら『身体の中へと大樹の森を移せるの?』と尋ねられても、上手く説明できる自信は私にもない。……ただ、出来るという感覚があったからできた、と言うそれだけの話である。



 だが、少しだけ噛み砕いて説明するのであれば、感覚的には魔力の粘土を捏ねる様に丸い泥団子を作って、その泥団子の中に『大樹の森』を入れてから、その泥団子を私の身体で無理矢理に包んだ様な感じ、と言えるだろうか。……うむ、自分で言っててもやはり分かり難い。だが、これが説明限界である。



 ただ、敢えて言うのであれば、『領域』として自分の身体を構成し直す際に、自分の身体を元の大きさにまで縮めると、自然と身体の中の泥団子も縮まっていったのだ。

 そして、空間的には身体の内部は【拡張】を施している為に、『大樹の森』がいくら大きくても問題なく身体の中に収納する事が出来たという話なのである。……うむ、やはりなんとなくで感じて欲しいと思う。



 だがまあ、その後は『白銀の館』の中にある『第三の大樹の森』を作った時と同様に、身体の中の空間内にも疑似的な太陽や水、風を作り環境を整えたという感じではあった。……私も流石にこの手の環境作りだけはかなり慣れてきたので、以前よりも格段に精霊達に喜んで貰えたとは想う──。





 ──とまあ、大雑把に言えばその様な流れで『大樹の森』を収納すると、私は今度エア達とも約束した通り『一緒に居る』と言う言葉を嘘にしない為に、『内側の私』と『外側の私』と言う二つの私を作って、それぞれを同時に操つれるかも試してみたのであった。



 ……因みにこれは、どちらも同じく私であり、別人格を用意したとかではない。言ってみれば二つの景色を同時に眺めて居る様な感覚である。



 そして現状、『内側の私』がエア達と共に『大樹の森』でのんびりと過ごしており、『外側の私』はバウ探索の為に『泥』を使いながら赤竜の痕跡を追っている様な状態であった。



 ……ただ、とりあえずこれは思い付きでやってみただけなのだが、予想以上に上手くいっており、無理だと感じるまではこのまま行ける所まで頑張ってみようとは思っている。



 まあ、上手くいっているとは言っても、実際は色々と混乱も起きており、『内側の私』がエア達に話をしようと思って口を開けたら、『外側の私』が何故か勝手に歌い始める!?みたいな不思議な現象も起こってはいた。その為、こっちはまだまだ調整に時間がかかりそうではあったのだ。


 ただ、なんとかなりそうな可能性はかなり高く、手応えを感じている所なのである。



「…………」



 ……だがしかし、ぐぬぬ、『外側の私』の歌を止められたと思ったら、今度は『内側の私』が突拍子も無く歌い始めてしまったのであった。

 それも、そんな私を見て『ロム一人に歌わせてはいけない!』と思ってくれたのか、私に続いてエアや精霊達が優しさからか健気にも一緒に歌い始めてくれたのである。



 ──正直、内心では『すまない。ごめん本当は違うのだ!』とは思いながらも、その優しさや無邪気に歌う皆の笑みをとても嬉しく感じてしまう私なのであった……。




またのお越しをお待ちしております。

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