第451話 気随。
『──大樹の森を、身体の中に作った空間領域へと移す』
私が出したその提案に対して、エア達はとても否定的だった。
……だが、対処法として色々と考えた時に、私が『敵に相対できている状況』を作れるのであれば、それが一番私としては対処が楽になると思ったのである。
一々何かしらの魔法道具を作って対処をしても、相手にそれ以上の対策を講じられてしまえば無駄になるかもしれない。ならば、根本から敵の狙いを挿げ替えてしまい、私に関わらざるを得ない状況にしてしまえばいいのではないかと。
今回の事を思い返しても、『敵側』としては私と接敵する事を嫌っている節があった。
態々私が居ない隙を確認してまで突いて来たのだから、それはまず間違いない筈である。
ならば、最初から『敵側が嫌うその状況を前提条件にしてしまえばいい』と言うのは、対処法として最も効果的ではないかと思ったのだ。
つまりは『敵の狙いを私へと集中させる事』によって、エアやバウ、『別荘』そこで暮らす精霊達へ向けられる敵意を減らしたいという思惑もあったのである。
やはり、守りたいと思った時にエア達の傍に居られないのは嫌だ。
それに、自分ならまだしも、エア達へと奴らの狙いが向く事はもっと嫌なのである。
……今回の事で、私はそれを強く思い知ったのだ。
「…………」
それに、この身は言わば魔力で構成したものであり、また再構成し直す事も恐らくは可能だろう。
だから、私の身体を魔力によって『領域』へと作り直す事も出来る筈だし、そうする事で体内にも【拡張】をかければ、『大樹の森』が収まるほどの空間を作り出せるだろうとも思ったのである。
それに恐らくは、新しく魔法道具を開発する時間よりもこれの方がきっと短時間で済むとも思う。
……正直、いつ次の襲撃があるのかは分からないので、対策が早いに越したことはないのだ。
それと、身体の中の空間と外の空間との行き来も、【家】と言う魔法がある為、それを元にして少し改良を加えれば、精霊達だけではなく普通にエアや私が守りたい人達も『大樹の森』の中へと入れる様に……今ならば出来るのではと私は考えている。
そうする事によって、もし『敵』が『大樹の森』へと襲撃をかけるとしても、私を倒さなければいけない様になる為、『敵側』ももしかしたら襲撃自体を諦めるのではないだろうか……と、そんな思惑もあった。
そして、なによりも、これは流石に奴らにも予想すらできない対策だろうし、手の出しようがなくなるとも思ったのである。
何をして来るか分からない『あの連中』に対して、正直これはかなり効くだろうと──。
「でもロム、その方法は……怖いよっ」
「…………」
……だが確かに。効果的ではあるけれども、エアがそう言う通り発想的には少し狂気じみている様にも思えなくはない。
エア達からすると、疑似的とは言え私の体内へと移動する事にもなるのだ。
そりゃ、成功するか不安に思っても当然だろうし、その事自体に強い嫌悪感を抱いたとしても仕方のない話ではあった。だが、それでも私は──
「──ちがうよっ!その方法が上手くいくとかいかないとか、身体の中が嫌だとか言うんじゃないのっ!ロムはどうするのっ?ロムだけ『大樹の森』に入れないんじゃないの?またロムが私達の所から居なくなっちゃう気がして怖いんだよっ」
「…………」
「一緒に居るって約束したでしょっ!」
「…………ああ」
……それはまるで『一人にならないでっ』と、そう言われている様な気がした。
なので私は、エアのその言葉に、なんと言えばいいのか、自分でもよく分からない位、嬉くなってしまったのである。
『……ああ、そうだな』と、その後はそんな素っ気無い感じでしか返す事しか出来なかったが、私は本当に嬉しかった。……おっと、危ない危ない。表情が上手く動かせていたら、思わずまた『ほろっ』と涙がこぼれていたかもしれなかったのである。
だが、だいじょうぶ、ちゃんと分かっているよ。忘れるわけがない。私はもう独りではない。
それに、逆に私はエア達と一緒に居たいからこそ、こんな提案をしている節さえあった。
……エア達と一緒に居る事に最上の癒しと幸せを感じる私が、それを忘れる訳がないのである。
──『大樹』の前で、周りには精霊達がおり、隣にはエアが居る。
この光景は、最早私の一部なのだから。
それほど大事で、愛しくて、手放したくない者達なのだ。
──だからこそ、あんな良くわからない奴らにはもう、絶対に手出しをさせたくないのであった……。
「…………」
そこで私は、『ちゃんと一人にはならない。みんなと一緒に居る』と、エア達とまた確りと約束する事にした。
他にも、『それに、エア達を凄く頼りにしている』と、拙くとも本気の言葉で伝え続けた。
更には、『身体の中に『大樹の森』を移しても、なんとかして私もこれまで通りエア達と一緒に過ごす』と──。
そこまで言うほどに、私は本気であるとエア達に知って欲しかった。
エア達にも安心してその提案を受け入れて貰える様にと、私はエア達に頑張ってお願いもしたのである。
……まあ一部、とんでもない約束もあった気はするが、なーに、エア達が安心できるならば大した問題ではないだろう。
「…………」
──そうして、エア達にもその誠意が伝わったのか、なんとかその提案を了承して貰った私は……それから色々と準備を整えた後に、身体も確りと再構成できて、なんとか『大樹の森』を身体の中へと移す事に成功するのであった。
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